parasite

 ここは都内にある総合病院。閑散とした病棟の中で、患者たちは死んだように眠っている。そして、私もその一人。私の"今の"名前は、「神崎 榴美かんざき るみ」。そして、"私"に寄生される前は、"私"の愛人であった女の名前だ。

 だが、この体にもそろそろガタが来るようだ。早く”次”を探さなければ。そう考え事をしながら、わきにあるザクロを手に取る。ザクロはこの体の大好物なのである。いざ食べようと、ナイフを取り出したその時、一階の診察室のほうから気弱な声がした。

 

「ありがとうございました」

 男の声だ。そう直感が働き、すかさず身を乗り出して窓から顔をのぞかせる。目に映ったのは玄関口からちょうど出てくる、さえない様子の、ルックスは中の中くらいの男だ。

「しめたっ!」

 男が真下のリナリアに見とれてる隙に、手に取ったザクロを投下する。ザクロはちょうど花壇に直撃した。その衝撃で男がのけぞるのが見えた。そして、こう言うのだ。

「ごめんなさい。それ、とってきてくれるかい?」

「しょうがないな..」

 とボソッとした声が聞こえる。進行方向が反転した。成功だ。


「あー


 男が部屋に入ってきた後も、やることはいつもと変わらない。全開のドアをノックするのが聞こえたと同時にありったけの魅力的な声でお礼を言い、相手の無茶苦茶な言語能力コミュ力に波長を合わせ、互いの距離を縮めていく。


 

 え、自己紹介がないって?馬鹿言え、私に名前などないよ。まあここでは、「パラサイト」とでも名乗っておくとしよう。私には実体というものは存在しない。いわゆる精神体というものだ。故に、寿命は人間より遥かに短い。だが、人間よりも遥かに長く生きている。その方法は簡単。人間の体を乗っ取ればいいのだ。正確に言うと、体にある精神を入れ替えるのだ。寿命は一体につき三年ほどになる。そして、が近づいたら別の体に乗り移る。そのためには、異性を誘惑して恋人同士になる必要があるのだ。まあ、詳しい方法は秘密だ。こうして私は恋人と恋人の間を転転と乗り移ってきたわけだ。

 しかし、哀れなものだ。なまじ脳が大きいせいか、愛などという余計な感情を持ちながら人間は生きている。それを利用さえすれば、簡単にはめることができる。

 

 はっきり言おう、これは一興だ。

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