第6話 異世界の仕事の報酬は
山田の新しい仕事が始まった。
アリアの代わりに謁見の間に行き、アリアの代わりに話を聞く。アリアから受け取った指輪を数秒押して、アリアの姿に返信する。長押しすると起動なんて、スマホの電源みたいだ。
大抵の場合、ボルスとの打ち合わせのとおりに受け答えをする。答えられない場合には、ボルスが近づき耳元で何を答えるべきかを言う。
楽勝だ。魔王の代わりなんて、ストレスが半端ないんじゃないかと心配したが、そんなことはなかった。この国で一番偉い人になるのだ。精神をすり減らすことなんてない。元の世界にいた頃は、どこで何をしても下っ端だった。どの職場に行っても一番下っ端で、一番気を遣って、一番すり減っていた。ここでは自分がすり減ることはない。
意外かもしれないが、給料もちゃんともらえた。
山田はボルスから袋に入った硬貨を受け取る。100枚以上入っている。こちらの世界での通貨の価値がわからないので、多いのかどうかはわからない。
給料はもらったが、住んでいるのは魔王城の中だし、食事も城の中で無料で食べている。
「食事代は給料から引かれている」とボルスは低い声で答えた。城で働く他の人たちも同じということだ。
「ちなみに、給与明細というものはないんですか?」
「給与明細……何だそれは?」
「毎月の給料の内訳についてかかれた書類です。給料から税金がいくら引かれたとか、残業代がいくらとか、そういうことが書いてあって、元いた世界にはあったんですけど」
「そんなものはない。お前達の世界では給料に税金がかかるのか?陛下の支払う給料に誰が税金を徴収するというのだ。おかしな話を言うな。給料から食事代は引かれているが、それだけだ。いちいち書類を作るまでもないだろう」
山田は手元の給料袋を見た。
「つまり、額面がほぼ手取りってことですか……すごいですね。市民税、県民税、所得税……健康保険料、年金、社会保険料もろもろ引かれないってことですか」
「そんなに引かれるのか」
「ええ、まあそれなりに、けっこう引かれます。いや、俺は就職できてないんでたいして払ってないんですが」
「この世界にも税はあるが、陛下の家臣からの給料からとることはないな」
「ありがてえ」
異世界最高かよ。山田は給料を握りしめた。
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