第4話 出会った二人は
「成功だな」とアリアは山田を見て言った。
『え……どういう状況ですか』山田が日本語で言う。
「そうか。知らない言葉だな」
「異世界からの召喚ですから。そういうこともあるでしょう」ボルスが言う。
アリアは山田の額に手のひらを当てる。山田の頭に新しい言語がインストールされる。
「え……何するんですか」山田はアリアたちにわかる言葉で言った。
「これでよし、と。貴様、名前はなんという」アリアは山田の質問には答えずに、逆に名前を聞く。
「山田です」
「山田か。私はアリア。この世界の魔王だ。貴様を異世界からこの世界に召喚したのは私だ。力を貸してくれ」
「召喚? 魔王? いったい何の話を……」
山田は混乱した。山田は周囲を見回した。中世の西洋の城のような石造りの建物が見えた。このアリアという女性のそばは背の高い中年男性がいた。山田はその姿をみてぎょっとした。耳の先がとんがり、肌は灰色、瞳は赤、額から鬼のような小さな角が生えている。
聞いたことのない言語、そしてなぜかその言葉が理解でき、喋れるようになっている。さっきまでバイト帰りに家まで歩いて帰っていたところだった。雨の中を歩いていて、まだ服も濡れたままだ。あの女性の異世界から召喚したという話は本当7日もしれない。
「あまりに突然過ぎて、まだ混乱してますけど、言っていることは理解できました。それにしても、いったい僕に何をさせようというのですか。ほんと、何の取り柄もない男ですよ」
「貴様には、私の代わりに魔王になってほしい」
「……魔王? 正社員にもなれない僕が?」
「正社員?」
「無職から正社員も社長も飛び越えて魔王って本気ですか」
山田は独り言のように、自嘲的に言った。
「ゴホン」ボルスが言う。「正しくは陛下の代理だ。陛下はご多忙で、代理を担える者を欲しておるのだ」
「……ああ、そういうことですか」
「よろしく頼むぞ」
「まあいいですよ。拒否できるような状況でもないでしょうし、ちょうど無職になって仕事を探していたところなんで」
「これを渡しておく」アリアは指輪を手渡した。真っ赤なルビーのような宝石のついた指輪だ。「つけてみなさい」
女物の指輪をはめることに山田は躊躇した。ましてや宝石のついた指輪だ。
「どうかして?」
「いえ」山田は渋々と指輪を左手の人差し指にはめた。
「指輪をはめた状態で、もう片方の手の指で宝石を触りなさい」アリアが指示をする。
山田は言われるがままに宝石に指を当てる。「こうでしょうか」
アリアはすぐに返事をしない。数秒後、指輪から何か不思議な力のようなものが広がるのを山田は感じた。
「その指輪はそうやって使うのだ」
アリアは手から魔法で鏡のような物を出した。山田は鏡に写った自分を見た。その姿は、着ているもの以外アリアと瓜二つだった。
「解除するには同じように指輪を触るだけだ」
山田が再び指輪についた宝石を数秒触ると元の姿に戻った。一瞬触れただけでは動作しないようだった。
「とりあえず数日は使えるだけの魔力を込めておいた。魔力が足りなくなったら私が補充しないといけないから持ってくるように」
山田は「はい」と返事することができなかった。ここまでの唐突すぎる事態に混乱していた山田も、ことの重大性がようやくわかってきたのだ。
「あの、これって僕に影武者をやれっていうことですよね」
「悪いようにはしない」ボルスが言った。
「心配するな。もう何百年も戦争してないんだ。影武者が危険になるようなことはない」アリアが笑顔で言った。
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