第60話 マドリード会談⑤

-スペイン:マドリード-

1937年4月14日


 極東方面の話題に移ったところで次の話は日本と極東ロシア大公国、満州国などアジア地域の話になった。


 初めにヒトラーが日本から得たであろう書類を持って話し始めた。


「現在日本主導の満洲産業開発五カ年計画の一環で高い石油採掘の技術力を持っている複数カ国の企業に依頼し、イギリスとオランダの二元上場会社※①ロイヤル・ダッチ・シェルやアメリカの※②スタンダード・ヴァキューム・オイルと※③タイドウォーター・アソシエーテッド、他にもフランスやロシアの企業が我が国ドイツに続いて参加しています」


 それを聞いてホルティ宰相が質問する。


「日本国内からは反発はなかったのですか?あの国国民性的にかなり反発がありそうですが?」


「日本国内からは※④帝国石油株式会社や※⑤三菱石油を中心に反発がありましたが、どの油田も基本的に地中2000m程に眠っているとの事で国内企業での現状の開発は難しいと軍部が判断した様です」


「なるほど...ただそれで国内企業が黙っていないと思うのですが?」


「その対価としてはわからないのですが、日本の複数箇所で油田が眠っているということがわかり、その油田開発を国内企業に依頼したそうで、国内からの反発が軽減した様ですね」


「そうでしたか...日本では未曾有の好景気に湧くでしょうね」


「そうですね。それと極東ロシア大公国は石炭等の資源輸出で得た資金を使用して国内の重化学工業を経済発展させている様です。さらに資金を一部軍事回し軍拡に力を入れているそうです」


「対ソ連を意識している様なので、私達とも共同開発するものも良さそうですね」


「そうですね」


 2人の話が終わって、その他の質問が飛び交った後、最後のイギリスとフランス、そしてアメリカの話題に移った。まずイギリスの話題だが、来月の※⑥ジョージ6世戴冠式についてだった。イギリスは現在そのことで神経を尖らしているのは、チャーノからの報告でわかっていた。


 それで戴冠式前に一斉にスパイ狩りが行われた様で各国もここ最近のイギリスの情報があまりわかっていないらしい。


 現在、イタリアとイギリスは不可侵条約を結んでいるが、水面下では地中海の制海権を巡って対立しており、第二次エチオピア戦争やスペイン内戦派兵、二重帝国の復活の際にアドリア海を封鎖した事等もあって史実同様、イタリア海軍の軍艦が※⑦ジョージ6世戴冠記念観艦式に招待されなかったのは記憶に新しい。


 カルタヘナ冲海戦でイタリア艦隊を指揮し、活躍したイアキーノ提督や重巡洋艦ザラの将校と水兵が観艦式に参加出来ず、イギリスの可愛い女の子をナンパ出来ない事を悔やんでいたが、国際情勢の悪化という事で渋々納得したという。


 この世界のイギリスは史実以上にドイツとイタリアを警戒しているのは目に見えている。二重帝国の再建もそうだし、スペイン内戦の早期の終結に独伊の多数の新兵器使用等、ここ数年イギリスのスパイ活動が活発になっているとモーリー内務大臣が言っていた。


 これについて、フランコ首相は思ったことを口にした。


「まあ、戴冠式でジョージ6世に万が一のことがあってはいけませんから、いつも以上に気を張っているのでしょう」


 それに対して、私も同意する。


「そうですね。次にフランスの話になりますが、フランス人民戦線内閣に崩壊のきざしがあるとか」


 その話題にヒトラーも話についてきた。


「ええ、なんでもスペイン人民戦線を助けなかった急進党に対して、フランス共産党の悪感情を持っている事が原因だとか」


 フランス人民戦線は史実でも、同様の理由で1937年6月に当時のブルム内閣が総辞職し、フランス人民戦線は崩壊している。


 だけどこの世界線ではスペイン人民戦線の崩壊が先に起こった事で、史実以上の内部抗争が起こっている様だ。もしかしたら、史実よりも早く崩壊するかもしれない。


 そんな事を考えていると、アメリカの話題に移っていた。ヒトラーがアメリカの支援について話す。


「アメリカは先程も言った通り、メキシコの反政府勢力への大規模支援に向けての体制が整った様で、旧式の小銃・野砲や弾薬・砲弾を中心に医療物資や軍用トラック等を後払いで提供するそうです」


「もう生産体制が整ったのですか...流石アメリカですね」


 と先の大戦第一次世界大戦でアメリカの支援に苦しめられたホルティ宰相が少し驚きながら口にする。


 それについて、私も同意した。


「ただ後払いですと、世界恐慌前の我が国イタリアや英仏の様にメキシコは戦後苦しむ事になるでしょうね」


「ええ、アメリカは先の大戦第一次世界大戦時の様な好景気に突入するので、世界恐慌から脱却するのが脅威ではありますがね」


「そうですね」


 そんな話をしている時、先日モーリー内務大臣が言っていた事を思い出して話した


「後、これは捉えたイタリアマフィア経由の情報ではありますが、アメリカマフィアが勢力下の軍事企業や軍の兵器や装備を横流しして、メキシコの3勢力全てに売り捌いて大儲けしているのだとか」


 それにサラザール首相は思わず口にする。


「まるで死の商人ですね.......」


 それにフランコ首相も続いた。


「確かに...この状況だと稼ぐにはうってつけですが」


我が国イタリアの様にアメリカもマフィアへ軍を送り込んで殲滅出来ればいいのですが」


「それが出来たら苦労はしませんよ」


 とヒトラーが苦笑いしないがら応えた。そしてこの会議の終了を伝えた。


「そろそろ時間ですので、各国の情報共有はこの辺で終わりましょう」


 それに私が応える。


「そうですね。また会えたら、この話の続きをしましょうか」


「そうですね。会談がしたければ、いつでも我が国スペインに来てください。歓迎しますよ」


「ありがとうございます。またいつかやりましょう」

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イタリア王国軍記〜美少女ムッソリーニに転生したのでイタリアを改革しイタリア軍にやる気を出させイタリアを勝利に導く〜を

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補足説明(ウィキペディア参考)

①ロイヤル・ダッチ・シェル

イギリス・ロンドンに本拠を置き、石油・天然ガス等のエネルギー関連事業を展開する多国籍企業。世界各地でアメリカのロックフェラー系のスタンダード・オイル(現 エクソンモービル)との競争が熾烈になったため、シェルはオランダのロイヤル・ダッチと石油の利権を確保するため1903年に業務提携を結び二元上場会社となった。


②スタンダード・ヴァキューム・オイル

スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージーとソコニー・バキューム・オイルによるアメリカの合弁会社で、極東で製品を製造・販売するために1931年に設立された。第一次世界大戦の頃、極東の市場は放置できないほど大きかった。反トラスト法で分割されたスタンダードオイル34社のうち、ジャージースタンダード(スタンダード石油会社ニュージャージー)が最終的にエクソンに、ソコニー(スタンダード石油会社ニューヨーク)が最終的にモービルになり、1999年に両社が合併してエクソンモービルとなった。現在のエクソンモービルは、エネルギー資源の探鉱・生産、輸送、精製、販売までの事業を垂直統合で一括で行っている。


③タイドウォーター・アソシエーテッド

「タイドウォーター石油会社」は、20 世紀初頭の大手石油精製会社でした。タイドウォーターは存続期間中に何度も売却されました。


④帝国石油株式会社

かつて石油や天然ガスの採掘・精製・販売を行っていた企業です。2006年平成18年に国際石油開発株式会社と共同で国際石油開発帝石ホールディングスを設立したが、2008年(平成20年)に同社が社名変更した国際石油開発帝石(現・INPEX)に吸収合併された。


⑤三菱石油

かつて存在した三菱グループの石油元売企業。三菱とアメリカ合衆国のアソシエイテッド・オイルとの合弁会社。現在のENEOSの前身の一つ。


⑥ジョージ6世戴冠式

ジョージ6世の戴冠式は1937年5月12日に挙行された。この日はもともとエドワード8世の戴冠式が予定されていた日だった。この戴冠式には、未亡人となった王妃は以降の戴冠式には姿を現さないという慣例を破って、故ジョージ5世妃メアリーが、新王ジョージ6世の支持を表明するために出席している。


⑦ジョージ6世戴冠記念観艦式

1936年12月に退位した英国王エドワード8世に代わって新国王となったジョージ6世の戴冠式を記念した観艦式である。オランダ海軍、ドイツ海軍、日本海軍、フランス海軍以外の参加艦は、第一次世界大戦前後に建造された旧式艦が多かった。最終的にアルゼンチン、キューバ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、日本、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スペイン、スウェーデン、トルコ、アメリカ合衆国、ソビエト連邦の18カ国が招待され、各国の軍艦が参加している。当時新鋭巡洋艦を多数保有していたイタリア王国は、ジョージ6世戴冠記念観艦式にイタリア王立海軍の艦艇を1隻も派遣しなかった。前年に第二次エチオピア戦争があり、経済制裁や地中海の制海権を巡ってイギリスとイタリア王国の関係は悪化していたからである。

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