第58話 マドリード会談③

-スペイン:マドリード-

1937年4月14日


 旧メキシコ帝室の話題が終わった後、バルカン半島の話題に移った。案の定、ドイツと二重帝国がチェコスロバキアの件で揉めた。


「単刀直入に聞きますが、仮に貴国ドイツがズデーテン地方を併合し、我が国二重帝国が残りのチェコスロバキア地域を併合した場合、ズデーテンの工業地帯について補償はあるのでしょうか?」


「直接的な発言は避けますが、仮にその様な場合になった時、それは考えていません」


「ズデーテン地方はかつて二重帝国最大の工業地帯でした。それらを得られないとなると、二重帝国の工業力は先の世界大戦よりも低下せざるを得ないでしょう。軍事力の低下は避けられません。そうなれば、東の共産主義国家ソビエト連邦に対して我々防共協定は不利になるでしょうね」


 その言葉にヒトラーは内心『我々と言いつつもズデーテン地方の工業力を欲してるだけではないか...』と思いつつ、平常心を保ちつつホルティ宰相に『貴国は何がお望みですか?』と質問する。


「そうですね...ズデーテン地方にある工業力分を我が国に提供してくれませんか?」


「それは輸出なら兎も角、ですか?」


「ええそうです」


「無理ですね。対共産主義の名目でスペインには支援提供しましたが、その様な無理難題を突き付けてくる貴国には提供するはずがないでしょう。それでしたら、ズデーテン地方のみならず、チェコスロバキア地域全土を我が国ドイツが併合しましょうか?」


 ヒトラーは黒い笑みを浮かべながら応えた。両国が代表が目から火花を散らしているのを見てこれはまずいと思い仲介に入った。


「ホルティ宰相、流石にその条件はやり過ぎでしょう。仮にソビエト連邦と戦争状態となった場合、背中を預けあう両国がこの会談で関係が悪くなってしまっては元も子もないでしょう」


「では貴国イタリアはどの様な条件が良いと思いますか?」


「そうですね。貴国二重帝国がズデーテン地方分の工業製品をドイツから輸入します。その代わり隣国ルーマニアから旧領トランシルヴァニアを奪還する時の交渉にドイツと我が国イタリアが後ろ盾となる事を約束しましょう。※①チェコスロバキア国境要塞線については破壊するなり好きにしていただいて結構です。ドイツもその条件は如何でしょうか?」


「その条件なら受け入れましょう。現在我が国ドイツは復興の最中ですので工業製品の大規模受注は大歓迎です。貴国二重帝国我が国ドイツと同じく復興途中のはずです。復興の為には一方的な要求ではなくお互いの協力が必要ではありませんか?」


 それを聞いたホルティ宰相は、満足した様に賛成した。


「わかりました。それで大丈夫ですよ。主張だけしてみて、貰えたら儲けものをしただけですので」


「まあ外交の基本ですね」


「そうですね。あと、それとは別に両国に頼み事があるのですがよろしいでしょうか?」


「大丈夫ですよ。内容次第ではありますが」


我が国二重帝国は現在※②トリアノン条約で制限されていた軍事力を回復すべく軍拡に力を入れています。今回スペイン内戦で活躍した両国の兵器を輸入したいのです」


「わかりました。我が国ドイツの軍需産業が活気になるので大歓迎です」


「後で購入したい兵器のリストを送ってください。なるべく叶えましょう」


「ありがとうございます」


 後に独伊から工業製品と兵器を購入したオーストリア=ハンガリー二重帝国は、急速に軍事力を拡大していった。


 その結果、ドイツとイタリアの戦車と突撃砲を参考に史実よりも早く※③トゥラーン中戦車と※④ズリーニィ突撃砲が二重帝国軍に配備され始めたのは言うまでもない。

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イタリア王国軍記〜美少女ムッソリーニに転生したのでイタリアを改革しイタリア軍にやる気を出させイタリアを勝利に導く〜を

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補足説明(ウィキペディア参考)

①チェコスロバキア国境要塞線

チェコスロバキア・ドイツ国境を中心に構築された、チェコスロバキアの対ドイツ及び周辺国からの侵攻対策の要塞線の総称である。

要塞線は国境に合わせて建設され、約1万個のトーチカと野戦砲などの兵器が装備された約100個の砲郭で構成されていて、野戦砲などが装備された砲郭はフランス・ドイツ国境に築かれたマジノ線と同等であり、重機関銃などはマジノ線より近代的なものも配備された。

主な装備は47mm P.U.V. vz. 36砲やブレダM37重機関銃、Skoda 75 mm Model 1936が配備されていた。


②トリアノン条約

ハンガリー王国が第一次世界大戦終結の講和会議で結ばされたり条約。この結果、スロバキア、カルパティア・ルテニアをチェコスロバキア共和国に割譲。トランシルヴァニア、バナトの大部分をルーマニア王国に割譲。ヴォイヴォディナ、クロアチア、ボスニアをユーゴスラビア王国に割譲。ドイツ系住民が多数在住していたブルゲンラント州をオーストリア共和国に割譲し、領土を大幅に縮小した。更に石炭や家畜などを連合国側への無償提供、さらには軍事力の制限、賠償金の支払いの要求など、一方的で過酷な条件を連合国側から押し付けられた。その後のハンガリー王国は右傾化し、第二次世界大戦で枢軸国側に立って参戦する遠因となった。また、ハンガリーの報復を恐れたチェコスロバキア、ルーマニア、ユーゴスラビアはフランスと小協商を結成し、ハンガリーに対抗しようとした。しかしこれはドイツという大国の前には無力であった。


③トゥラーン中戦車

T-21は、同じくシュコダ社製のLT-35軽戦車の拡大・発展型として試作されたもので、リベット接合の車体・砲塔を持ち、LT-35譲りのボギー式リーフスプリングのサスペンション、空気圧式変速機を備えていた。当初S-II-cの試作名称で製作されていたが、1939年のドイツによるチェコ併合を経て、T-21と改称された後、試作車が完成した。ハンガリーはこの原型をテストの後、40Mトゥラーン中戦車として制式採用、1940年9月、最初の230両の生産発注が行われた。史実での主砲は国産の51口径41M 40mm砲だったがこの世界線では、防共協定国の日本から長砲身45口径57mm戦車砲をライセンス生産し搭載した。また、イタリアから輸入したM14/36中戦車の影響で全車両に無線機の搭載、電気溶接で製造された。


全長   5.55 m

全幅   2.44 m

全高   2.30 m(2.60 m)

重量   18.2 t(19.2 t)

乗員   5 名

装甲   13-50mm

主砲   45口径57mm戦車砲

副武装  34/40A M 8mm機関銃×2

懸架方式 リーフスプリング

速度   47 km/h(45 km/h)

エンジン ヴァイス・マンフレードV-8H 260 馬力

行動距離 165 km(150 km)



④ズリーニィ突撃砲

ドイツ国防軍における突撃砲の成功に触発され、1942年夏、ハンガリーでも同種の車両を装備すべきとの提案が、ハンガリー国防省の自動車・戦闘車両課より軍に出された。しかし、すでに自国の軍への供給で手一杯だったドイツからはまとまった数を調達できそうになく、ハンガリーでは自国の資材を使って新型突撃砲を開発することになった。この世界線ではスペイン内戦でのセモヴェンテの活躍に触発されている。史実で一型のハンガリー製長砲身75mm戦車砲搭載案は材料不足で却下され、倉庫に保管されていた20口径105mm榴弾砲40Mを搭載したが、この世界ではドイツから史実よりも早く開発された7.5 cm PaK 40を輸入し搭載した。


全長   5.90 m

全幅   2.89 m

全高   1.90 m(除ペリスコープ)

重量   21.5 t

乗員   4 名

装甲   13-75 mm

主砲   46口径75mm戦車砲7.5 cm PaK 40

  又は 20口径105mm榴弾砲40M

速度   43 km/h

エンジン マンフレート・ヴァイス製 V-8

     4ストローク水冷ガソリンエンジン

     260 HP

懸架方式 リーフスプリング式サスペンション

     装軌式

     前方起動輪

行動距離 220 km(整地)

     160 km(不整地)

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