第55話 スペイン冬季攻勢

-スペイン:バレンシア-

1936年11月2日


 カルタヘナ陥落以降、ソ連からの支援を打ち切られた人民戦線政府軍は各地で敗走を続けていた。


 人民戦線政府軍が敗走を続けるのに対して、王国軍は破竹の勢いでスペイン南部を次々と占領していた。そしてカルタヘナ陥落から1週間後の10月12日には、ムルシア州の州都ムルシアまで手中に収めていた。


 ムルシアではコンドル軍団が1週間以上、昼夜問わずに砲爆撃を繰り返し、州都を防衛する守備隊はまともに睡眠を取れていなかった。


 王国軍がムルシアでの戦闘を開始した頃には抵抗らしい攻撃を殆ど受ける事もなくムルシアの占領に成功した。王国軍はスペイン南部を掌握した後に臨時首都バレンシアへの進撃を開始した。


 人民戦線政府は臨時首都をバルセロナに移転し、現地の民兵と守備隊には徹底抗戦を叫んだが、バレンシア州にいる民兵20万のうち小銃を持っているのは三分の一程しかおらずその民兵達もまともに銃を撃ったことのない烏合の衆であった。


 それでも民兵は地の利を活かした奇襲等のゲリラ戦で時間を稼ぎ、その間に守備隊と民兵がバレンシアを塹壕とバリケード、防空壕がある城塞都市に作り替えた。


 しかしそれでも制空権と制海権を掌握し、四方を完全包囲しているスペイン王国軍・コンドル軍団・CTVの猛攻に耐えられず、11月2日にスペイン第二の都市バレンシアは陥落した。



-スペイン:バスク地方-

1936年12月15日


 包囲が続くバスク地方では時折り人民戦線政府軍が包囲している王国軍・ポルトガル義勇軍・アイルランド旅団に攻撃を仕掛けるが、包囲を解けないでいた。


 時間が経つにつれてバスク人やバスク自治政府内部でスペイン王国側につこうとする者が着実に増えていた。


 その訳は、フランコの交渉と裏工作にあった。それは内戦終結後、バスク地方自治権継続の承認である。元々スペインには2つの自治区がある。バスク地方とカタルーニャ地方だ。2つの地方は民族の違いもあり、それぞれ自治を認められている。


 史実で降伏したバスク地方に対して、フランコ率いる反乱軍国粋スペインは、自治権の剥奪、バスク語とバスク国旗イクリニャの使用禁止に即決裁判で人民戦線政府支持者数千人を処刑し、バスク語で書かれた文献の焼却等を行い、15万人のバスク人が難民となった。


 その同じ轍を踏む愚者でなかったのが、転生者でもあるフランコであった。彼女はこの条件以外に裏工作をしていた。


 1つ目はバスク地方内のキリスト教徒を味方につける為の策略だった。元々バスク地方はローマカトリック教会を信仰しているキリスト教徒が多く、更にバスク地方4県の内2県が王国側で戦っているので、バスク人を使った謀略や裏工作が順調に進んでいったということがある。


 2つ目は噂を広げたことだ。四方を包囲されて情報が遮断している事で噂を広げるのは、それほど難しい事ではなかった。


 しかもその噂が殆ど本当の事を言っていて、一部に嘘の事を混ぜている為、判別は非常に困難であった。


 曰く、カルタヘナが陥落して金塊が奪取された事で、ソ連の支援を受けられず、内戦の勝敗がほぼ決まり、その結果国際旅団が解散してしまいメキシコなどの支援も一切無くなったこと。


 人民戦線政府がマドリードの時と同じく、味方を見捨てたことで、臨時首都バレンシアが抵抗らしい攻撃をせずにすぐに陥落したこと。


 各地で現地司令官の指示に従わず、共産党員が勝手に指揮を取り、人命を無視した攻撃で民兵の死傷者が急激に増えて、不満を持った民兵による共産党員殺害事件が多数起きていること等...


 その様な事が重なりあった結果、バスク人の中で、厭戦気分が蔓延してきたのだ。


 そして、12月14日これ以上の戦いを望まないバスク人達によって、抵抗を続けていた※①ビスカヤ県と※②ギプスコア県の庁舎が占領された事で王国軍に降伏した。


 その翌日、王国軍・ポルトガル義勇軍・アイルランド旅団が県都※③ビルバオと県都※④サン・セバスティアンに無血入城した。


 こうしてスペイン随一の工業地帯であるバスク地方が無傷でスペイン王国側に渡り、人民戦線政府を更に苦しめることになった。



-スペイン:王国軍兼十字軍総司令部-

1936年12月16日


 スペイン王国軍と十字軍の総司令官を務めるフランコには、日々各戦線に対する報告書が届いていた。


「この短期間でバレンシアとバスク地方を占領か...正直想定以上の早さだね」


 フランコにとっても、これ程早く占領出来ることは予想外だった様で、作戦の前倒しを検討していた。


 しかし、良い情報ばかりではなかった。バスク地方占領とほぼ同時にバレンシアの西に120キロ進んだ先にあるパラクエジョスで内戦前には確認されなかった多数の死体が埋められている集団墓地が発見されたのだ。


 掘り返して調査すると、反乱を支持した政治家と民間人や兵士、カトリック教徒達の遺体が埋められていたのであった。史実で※⑤パラクエジョス虐殺と呼ばれるこの行為は史実でマドリード包囲戦が始まったのとほぼ同時期に行われた事で、史実より1ヶ月早く起きたのだ。


 フランコの中で、人民戦線政府に対する恨みが募りつつ、次の報告書を読んだ。


「マドリード攻略に関する報告か…」


 現在マドリードは王国軍によって東側を除いて包囲されている。当初、北側と東側には人民戦線政府軍の援軍4個軍団約14万人と国際旅団が展開していて、マドリード攻略の8個歩兵師団約8万人とは別に10個師団約10万人と二重帝国義勇軍が対峙していた。


 しかし、臨時首都バレンシアの陥落で南部からスペイン王国軍と十字軍が接近したこともあって、2個軍団の撤退したことで北部を占領。その1ヶ月後にバスク地方が占領された事で、1個軍団が撤退する準備に取り掛かっている様だ。


 その軍団と対峙している師団に撤退前に攻撃する指示を出しつつ、攻撃後にマドリード東側を占領する様に命令を出した。


 そして、マドリードは既に市内の2分の1を占領している。内通者からの報告では、守備隊と民兵の死傷者が17000人を越えているという。マドリード守備隊は、既に壊滅状態にあると考えても良いだろう。


 マドリード司令官のカサド大佐は既に降伏の意思があり、此方と接触してきているが、徹底抗戦を叫ぶ人民戦線政府の共産党員と民兵によって阻まれているという。


 更に軍事知識の少ない共産党員が勝手に指揮を取り、王国軍に攻撃を仕掛けているので、いたずらに死傷者を増やしているだけだ...


 報告書を読み終えたフランコは裏工作をマドリード守備隊に仕掛けるのだった。

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イタリア王国軍記〜美少女ムッソリーニに転生したのでイタリアを改革しイタリア軍にやる気を出させイタリアを勝利に導く〜を

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補足説明(ウィキペディア等参考)

①ビスカヤ県

スペインのバスク州に位置する県。19世紀末と20世紀前半には周辺で採掘される高品質な鉄鉱石のおかげで工業化が進展し、スペインでもっとも裕福でもっとも重要な県のひとつとなった。


②ギプスコア県

スペインのバスク州に位置する県。ギプスコア県は伝統的にローマ・カトリックの県であり、守護聖人はイエズス会の創立者であるイグナチオ・デ・ロヨラとアランツァスの聖母である。


③ビルバオ

ビスカヤ県の県都。経済を支えた鉄鋼業、造船業が1980年代に衰退し、1983年の洪水でも打撃を受けた。1997年のビルバオ・グッゲンハイム美術館開館、それに先立つ工場排水に汚染された河川環境の改善、LRTや遊歩道、自転車道、公園の整備により、芸術・観光都市として再生した。世界各地の「創造都市プロジェクト」中で最も成功した事例の一つとされている。


④サン・セバスティアン

ギプスコア県の県都。当初、バスク民族主義者・アナーキスト・共産主義者による抵抗運動によって反乱軍国粋スペインが敗北したが、共和派の労働総同盟UGTはバスク民族主義者に対して恐怖政治を行った。同年末にはバスク地方も反乱軍国粋スペインの手に落ち、1937年にはフランコを統領とするファランヘ党の支配下に置かれた。占領状態は市民に悲惨な生活を強い、市長を含めた380人が処刑された。1940年代末から1950年代初頭には工業が発展し、ウルメア川河口部の湿地や河岸にあるエヒア区やアマラ・ベリ区などが都市拡大への道を開いた。


⑤パラクエジョス虐殺

マドリードで投獄されていた政治犯と反乱軍の軍人が、マドリード包囲戦で囚人の蜂起を恐れた共和党によって、幾つかの収容所に移された。その中のパラクエジョスで元大臣や貴族、軍人や聖職者の約5000人が虐殺された事件。

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