第37話 スペイン内戦と総本山

-スペイン:カナリア諸島 駐屯基地-

1936年7月17日


 荷物をまとめ旅支度を済ませていると副官が勢いよく司令室に入ってきた。


「閣下!遂に※①エミリオ准将が※②メリリャで反乱を起こしました!」


「わかった。最低限の守備隊を残しておいて、私達もメリリャに行くよ。ドイツ、イタリア、ポルトガルにも支援を要請して」


「はっ!承知致しました!」


「それと例の件も頼んだよ」


「勿論です。この内戦を一刻も早く終わらせる為にも根回しを進めています。事が起これば確実に動くでしょう」


「ありがとう。行くよ!」


「はっ!」



-イタリア:ローマ ヴェネツィア宮殿 世界地図の間-

1936年7月18日午後


「スペイン本土でも遂に反乱が起きたか...」


 諸外国の報告書を確認していると緊急の報告書が届いた。昨日のモロッコでの反乱が起こった事に呼応して※③カナリア諸島のフランコ将軍とスペイン本土の軍が動いた感じか、既にメリリャにはフランコ将軍が入っており史実よりも一日早く革命本部を設置したらしい。


 そんなことを考えているとアンナが入って来た。


「ドゥーチェ、スペインで発生した反乱軍の首謀者の一人であるフランコ将軍が支援を要請しております。同じような要請がドイツとポルトガルにも送られているみたいです」


「そう、なら前から準備していた旧式の銃器と弾薬を送るようにして」


「わかりました」


「そういえば、いつ軍を派遣するのかバルボ国防大臣から聞いていない?」


「いえ、特に聞いてはいませんが少なくとも来月頃になるかと」


「わかった...もう下がっていいよ」


「はい、失礼しました」


 アンナが首相室から出て行ったのを確認した私は報告書と一緒に送られていた写真を見て呟いた。


「フランコ将軍が転生者か...」



-スペイン:アストゥリアス州-

1936年7月20日


 読者の皆さんは従軍記者と言う言葉を知っているだろうか?従軍記者とは現在のウクライナ戦争やイスラエルのガザ地域侵攻などの戦地にて軍隊と行動を共にする記者でテレビや新聞等で見かける事があると思う。スペイン内戦では従軍記者が大々的に活動して、世界中の一般市民の間でも大きな注目を集めたのだ。これを利用しない手はないだろう。転生者フランコにとってもそれは言える。その為、彼女は世界中の新聞社にスペインの情勢がかなり悪化していて内戦が起こる可能性が非常に高いと言う情報を数ヶ月前からリークしていたのだ。


 日本の記者である鈴木三郎はスペインの情勢が悪化していると言う理由でスペインに派遣されていたのだが、突如として内戦が発生した為、記者として戦況がどうなっているのかを知る為に※④アストゥリアス州近郊に訪れていた。


【※鈴木三郎は創作上の人物です。】


 しかしそこで彼は驚くべきところを目撃した。人民戦線政府を支持する共産主義者がカトリック教会を襲撃し聖職者を虐殺している場面に居合わせてしまったのだ。見ているだけで吐き気がする様な光景ではあったが、彼はカメラを取り出し数十枚の写真に収めた。その後彼はすぐに本国の新聞社に数枚の写真と電報を送った。


 それを受けた新聞社は翌日に重大な事件としてスペイン内戦での共産主義者による聖職者の虐殺を写真付きで報じたのだ。それが国内外に伝わるのも時間は掛からなかった。それを受けて、ヨーロッパの各新聞社は鈴木記者の撮った写真を幾つか買い取り写真付きで報じた事で、世界中のキリスト教徒を激怒させた。


 それがキリスト教世界の総本山であるバチカン市国の第259代ローマ教皇である※⑤ピウス11世に伝わるのは時間が掛からなかった。史実世界の彼は19世紀以来関係が途絶えていたヨーロッパ諸国との関係正常化に努め、イタリア政府と交渉してバチカン市国の設立させた人物である。彼はナチス政権とイタリアのファシスト政権は必ずしも良好な関係ではなかったが、この世界ではバチカン市国設立時に内政不干渉を確立させて独立した為、基本的に良好な関係を築いていた。


 史実のカトリック教会がナチス政権とファシスト政権を容認した理由の一つに反共産主義で一致していた事が知られている。それはこの世界でも変わらない。それがこの事件を報じた事で世界にとっての大きな歯車が動いたことは間違いなかった。


 そして後にローマ教皇からの数世紀ぶりの大号令がキリスト教世界に宣言されたのだった。


 後の歴史書でのスペイン内戦は第二次レコンキスタ、聖十字戦争等の様々な呼び方があるが、その中で世界に最も広く知られているのが“第十回十字軍“である。

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イタリア王国軍記〜美少女ムッソリーニに転生したのでイタリアを改革しイタリア軍にやる気を出させイタリアを勝利に導く〜を

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補足説明(ウィキペディア参考)

①エミリオ准将

本名はエミリオ・モラ・ビダル。武力による人民戦線政府打倒の軍事運動の指導者。フランコ将軍とはライバル関係だった。1937年6月3日に飛行機事故で亡くなった。


②メリリャ

アフリカ北西部沿岸にある都市。

モロッコ王国がメリリャの領有権を主張し返還要求をしているが、スペイン側は「固有の領土」と主張して要求に応じていない。


③カナリア諸島

大西洋のアフリカ大陸北西部に近い場所にある7つの島からなるスペイン領の群島。

大西洋のハワイとも言われる。


④アストゥリアス州

イベリア半島北部の地方州。1934年に労働者が「アストゥリアス革命」を起こしたが当時無名の将校だったフランコ指揮の政府軍が鎮圧している。


⑤ピウス11世

19世紀以来途絶えていたヨーロッパ諸国との関係正常化に努め、1929年2月11日にムッソリーニと交渉してバチカン市国を設立した。

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