閑話 フィアット社兵器設計局の知られざる奮闘①

前書き 今話は創作上の人物が登場します。

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-イタリア:フィアット社 兵器設計局 軍用車輌課-

1934年10月2日

 

「クソ!今日も駄目だった」


 そう愚痴を漏らすのは設計局、軍用車輌課に配属されてから30年間勤務しているベテランのジョアキーノ・マルティ課長である。


「アマティ課長は懲りないですね」


 そう言ったのはマルティ直属の部下のラボ・ヴェロネーゼだ。


「ドゥーチェが直々に中戦車の開発を指示されたんだ!その開発に加わりたいのは当たり前だろ!」


「それはそうですけど、既に開発メンバーは決まっていますし、装甲車輌課が設計に取り掛かっているそうなので、途中参加は無理ですよ?」


「じゃあ、どうすればいいんだ!」


 それを聞いたヴェロネーゼがしばらく考えた後に答えた。


「開発を担当している装甲車輌課より優秀な戦車を開発出来れば、認められるかもしれませんね」


 その答えにマルティは、ハッと顔をあげた。


「その手があったか!ヴェロネーゼ!俺以外にも、この開発に関わりたい奴は、何人かいるはずだ!そいつ等と一緒に明日視察に来るドゥーチェに直談判してやる」


「いいと思いますけど、今日中に皆さんを説得しに行くんですか?」


「当たり前だろ!定時になったら、全員帰っちまうから急ぐぞ!」


 ともの凄い勢いで軍用車輌課から飛び出していった。


「待って下さい!せめて、この仕事を終わらせてからでも!」

 

 その後をヴェロネーゼが追って走っていった。


 勢いに乗ったマルティの行動力は凄まじく、その日のうちに会社中を探し回り、購買部・経理部・営業部から開発を共にする同志を集め、早速社長に直談判を行ったが却下された。


「大丈夫だ!ドゥーチェから直接許可をもらえば問題ない!」


「本当に大丈夫ですかね」


「問題ない!そうだろ、お前ら!」


「「「「おう!」」」」


「この人達のやる気は、何処から来てるんだか…」


 後にヴェロネーゼがマルティの同志たちがムッソリーニに会いたいから、マルティの計画にのったことを知るのは、まだまだ先の話である。




1934年10月3日


 マルティたちが一か八かムッソリーニに直談判した結果、無事に成功した。(第9話)


「よっしゃー!」


「まさか、成功するとは…」


「よし、お前ら喜んでいる暇はない!早速作るぞ、アイツ等よりも早く完成させて、ドゥーチェから重戦車開発を勝ち取るんだ!」


「「「「おう!」」」」


 マルティたちが、やる気の満ち溢れているなか、ヴェロネーゼが懸念を口にする。


「やる気があることはいいんですが、この予算的には軽戦車以上中戦車未満の戦車が出来そうなんですけど」


 その懸念にマルティが答えた。


「大丈夫だ!問題ない。駄目だった時は、追加予算を請求してやれば良いんだ。その都度改良すれば良い。まずはコスト削減のために既存の戦車を元に作るぞ!」


「「「「おう!」」」」


「まずは以前、うちで作ったFIAT3000は乗員が2人しかいなくて、車長が装填手を兼任しないといけなくて指揮に集中出来ないって苦情が来てたから、乗員を3人に増やして、車長と砲手兼装填手と操縦手に分けさせて、車長が指揮に集中できるようにするんだ!」


 その言葉に同志Aが意見を言う。


「アマティ課長!その場合、砲塔を大型化しなければなりません」


「俺らにそんな予算ねえよ!アンサルド社の奴等が作ってる※①9トン戦車の様に主砲を車体に搭載すればいいだろ!そしたら、砲塔をわざわざ新規開発しなくて良い!申し訳程度に車載機関銃を砲塔に搭載すれば問題ない!」


 次に同志Bが意見を言う。


「マルティ課長!ならば主砲の大型化が可能です」


「確かに主砲の大型化にはメリットがあるけど、主砲の新規開発をしなきゃいけなくなるだろ?予算がないんだよ!確か何輌かFIAT3000が退役しただろ、その主砲を流用すればいいだろ!」


 その後に同志Cが質問する。


「アマティ課長!装甲車輌課は軍の要望でディーゼルエンジンにするそうです。既存の戦車を元に開発するとなると、ガソリンエンジンにするんですか?」


「ガソリンエンジン?そんな高価なものはいらん!ディーゼルエンジンにして、予算削減だ!ディーゼルエンジンは、燃えにくくて、行動距離もガソリンエンジンより長いから、その方がいいだろ!それに軍の要望にも答えられる」


 最後に同志Dが質問する。


「アマティ課長!装甲はどうしますか?」


「砲塔正面と正面装甲は対戦車ライフルに耐えられる程度で問題ない!側面は小火器に耐えられる程度にしておけ、じゃないと予算的に厳しいからな」


 そうして、僅か1年で試作車まで制作され、評価試験まで行ったのだが、その時はエチオピアとの戦争中だったこともあり、実戦で評価することになり、ジョバンニ・メッセ准将が率いる機械化旅団と共にエチオピアに派遣された。両戦線に2輌ずつ配備され、実際に評価を行ったのだが、現場の兵士から苦情が殺到した。


「FIAT3000の更新はわかるが、これが中戦車?FIAT3000の方がマシだわ」

「ハルダウンの時に主砲が出てないと意味ないじゃん」

「外見をどうにかできないの?これじゃあ、凱旋の時に女の子にモテないじゃん」

「L-60軽戦車の方が性能が良い…いらない」

「燃費は良いんだけど、車輌自体を動かさないと主砲を撃てないってなくない?待ち伏せ専用の戦車ならわかるんだけど、少なくとも、これで戦場に出たくないわ」


 と散々な言われようであった。しかも、これには戦車兵のみならず、歩兵からも言われているのである。


 そのことを報告を聞いたマルティ達は、大規模な予算をくれなかった社長と軍に対して、『追加予算を寄こせ!そしたら、もっと良い戦車を作ってやる!』と要請脅迫して、追加予算を手に入れた。マルティ達と軍用車輌課は意外にも現場の兵士達の意見を参考にL-60軽戦車を元にして、改良点や軍の要望と現場の兵士たちの要望も参考に新型戦車の開発を再スタートした。彼等が開発をした戦車が次にいつ、何処で使用されるかは、誰も知らない。

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イタリア王国軍記〜美少女ムッソリーニに転生したのでイタリアを改革しイタリア軍にやる気を出させイタリアを勝利に導く〜を

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補足説明(ウイキペディア参考)


 読者の皆様はもう解っているかもしれませんが、今話に登場した戦車はM11/39です。この戦車はイタリア初の中戦車で、1939年に制式化され、100輌が生産されました。しかし、1941年初頭までに全車退役しました。しかし、この世界だとM11/35って言ったほうが正しいですかね。


性能


全長:4.73 m

全幅:2.18 m

全高:2.30 m

重量:11 t

懸架方式:リーフスプリングボギー式

速度:33 km/h

行動距離:200 km

主砲:M30 40口径 37 mm 砲×1

副武装:ブレダ M38 8 mm 車載機関銃×2

装甲:14~30 mm

エンジン:フィアットSPA 8T 4ストロークV型8気筒液冷ディーゼル

105 hp/1,800 rpm

乗員:3 名(車長兼機銃手兼無線手、砲手兼装填手、操縦手)


①アンサルド9トン戦車

 1929〜1937年にイタリア陸軍で開発していた試作戦車です。この戦車は後のセモヴェンテの先祖とも言える車輌。試作車輌の為、1輌のみ製造。


 性能


全長:4.9 m

車体長:不明

全幅:1.8 m

全高:2 m

重量:約9 t

懸架方式:リーフスプリングボギー(改修後)

速度:不明

行動距離:不明

主砲:10口径 65 mm 砲(型式不明)、弾薬(徹甲弾・榴弾・榴散弾)80発(推定)

副武装:フィアット レベリ M1926 6.5 mm 機関銃(20発マガジン装填)×1。機銃架は固定戦闘室の、正面左×1、側面ハッチ×2、後面×2、の計5か所。弾薬3000発(推定)

装甲

25~30 mm程度(正面)、14 mm程度(側面)(どちらも推定)

エンジン:Fiat 355 もしくは Fiat 355C 直列6気筒(改修後)

 75~80 hp

乗員:2~3 名

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