外伝 相澤事件後編

前書き

本編からは脱線しますが、今話は様々な人物(創作の人物有り)が出てきます。

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-日本:陸軍省 兵器課長室-

1935年8月12日 早朝


 ※①山田長三郎大佐の元に永田少将の副官が会いに来ていた。


「軍刀を持ってこいと…永田閣下がそう申し上げたのか?」


「はい」


「そうですか…わかりました。と言うことは、※②新見大佐にも同じことを言ったのですか?」


「はい」


「...わかった。軍刀を持っていこう」



-駐日イタリア大使館 執務室-

同日午前7時頃


 駐日イタリア大使のいる部屋に駐在武官が入って来た。


「失礼します。パロミロ・マルコ中佐です。お呼びでしょうか?」

【※創作上の人物です。】


「朝早くにすまんが、早速君には陸軍省に行ってもらいたい」


「陸軍省ですか?」


「あゝ陸軍兵器局局長の永田少将に会ってもらいたい」


「確か、世界三大女将せかいさんだいじょしょうの1人でしたよね?」


「そうだ」


「そんな方になんの様ですか?」


「去年に日本から四四式騎銃と八九式重擲弾筒を輸入しただろう」


「そうですね」


「その前に伊独首脳会談があったのは覚えているか?」


「はい、兵器と重工業製品、石油関係の工業製品等の取引だったと記憶していますが」


「実は会談が終わった後にドゥーチェがヒトラー総統から日本の四四式騎銃と八九式重擲弾筒を貰ったそうなのだ」


「そうだったのですか…まさか!」


「そのまさかだ、ヒトラー総統経由でドゥーチェに渡したのが永田少将だったらしい。その礼をして来てくれとチャーノ外務大臣から電文が届いて君を呼んだんだ」


「そうだったのですか」


「午前9時45分頃に陸軍省の軍務局局長室で会うことになっているのだが、生憎私は別の予定があって行けないから、君が行ってくれないか?」


「わかりました。謹んでお受け致します」


「あゝ女性とはいえ相手は軍人だ、見惚れて礼をするのを忘れるなよ」


「そのくらい大丈夫ですよ」



-陸軍省 整備局局長室-

同日 9時30分頃


 相澤は尊敬していた山岡重厚中将のもとへ訪ねていた。


「失礼します。相澤中佐です」


「入れ」


 中から山岡中将の返答が聞こえたので扉を開け中に入って敬礼し山岡中将の答礼が行われたあとに話し始めた。


「お久しぶりです。山岡閣下」


「久し振りだな、なにかあったか?」


「台湾に異動となったので最後にご挨拶をと思いまして」


「なる程、私からはなにもあげられる物はないが異動先でも頑張ってくれ。最近満州がきな臭くなっている。数年以内に何か起こるであろう、直ぐに貴官も出番が来る。準備をしておけ」


「わかりました」


「では、失礼しました」


 相沢が部屋を出ようとしたところで、扉の近くでお茶を入れていた給士を見つけて声をかけた。


「失礼、永田閣下は軍務局局長室に在室しているか?」


「はい、山田大佐と新見大佐と一緒に在室して居ます」


「ありがとう。失礼しました」


 相澤は給士に礼を言った後、部屋から出ていった。



-陸軍省 玄関前-

同日 9時40分頃


 陸軍省前にFIAT社製の車が到着した。車の中からマルコが出ると一人の軍人が出迎えてきた。


「お待ちしていました。永田鉄花少将の副官、山本次郎中佐です」

【※創作上の人物です。】


「出迎えありがとうございます。駐日イタリア大使館所属のパロミロ・マルコ中佐です」


「到着して直ぐ申し訳ありませんが、お時間が後5分と迫っているので私の後についてきてください」


「わかりました」



-陸軍省 軍務局局長室-

同日 9時45分頃


 軍務局局長室には、永田少将と山田大佐、新見大佐が綱紀粛正の打ち合わせの最終段階に入っている時に突然、扉が勢いよく開かれた。その時に永田少将は小声で「来たか…」と呟いた。そこには相澤中佐が立っていた。


「貴様何者だ!階級を名乗れ!」


 ノックもせずに扉を開けた事で東京憲兵隊長の新見英夫大佐が怒鳴り声で叫ぶが、そんな者には目もくれずに相澤は、永田少将を見るやいなや抜刀し、永田少将目掛けて走り出した。


 相澤の狙いが永田少将だと気づいた新見大佐は間に入り相澤からの渾身の一撃を受けてその場に倒れた。その間に永田少将と山田大佐は抜刀し、山田大佐が相澤に斬りかかるが、相澤がそれを受け止めたあとに凄まじい体当たりで廊下まで吹き飛ばし、山田大佐は壁に衝突し気を失った。


 そして、相澤は永田少将に向けて軍刀を構え「維新の為に!!」と叫びながら再度、永田少将目掛けて突撃した。永田少将も軍刀を構え相澤と激突し壮絶な斬りあいが20畳程の軍務局局長室で発生した。


 その頃、階段で移動していた時に相澤の叫び声に気づいた二人は何事かと急いで階段を駆け上がった。声のした方を見ると山田大佐が壁に打ち付けられ気を失っていた。二人は慌てて近づいたが、開けっ放しの軍務局局長室から軍刀の斬り合う金属音と凄まじい気迫のこもった叫び声が響いていた。そして、山本中佐がその様子を感じ取りマルコに言った。


「憲兵隊を連れてくるから永田閣下の援護を!!」


 マルコにお願いして走って階段を下って行った。


 マルコが部屋の中を見ると、永田少将が相澤中佐に端の方まで追い詰められて今にもやられそうなところであった。


 マルコは直ぐ様、部屋に入り相澤に体当たりかまして相澤を吹き飛ばした後に


「大丈夫ですか」


 マルコが永田少将に声をかけた。


「ええ、大丈夫よ…」

 

 永田少将の言葉を聞いたホッとした後にマルコは相澤に向けてイタリア訛りの言葉で叫んだ。


「女性になんてことをするんだ!」


 吹き飛ばされた相澤は凄まじい殺気を二人に向けた後に再び軍刀を構えて二人に突撃して行った。マルコは倒れていた新見大佐の軍刀を取り横に構えて相澤の一撃を食い止めたところを永田少将が相澤を斬り込んだ。


 その時、相澤はまるで鬼のような顔で二人を睨みつけた後に吐血しその場に倒れた。相澤がお倒れてから数秒後に山本中佐が連れてきた憲兵隊が来たのか、何十人もの足音が廊下から響いていた。


 そして、そんな事は気にも止めずにマルコは、永田少将の前に立ち片膝をついて右手を差し伸べた。


「一目惚れしました。私と付き合ってくれませんか?」


「「「「「「は...?」」」」」」


 突然告白された永田少将と部屋に突入した憲兵隊と山本中佐の声が揃った。山本中佐達は何が起こったのかわからず気不味い雰囲気になり、そして言われた本人の永田少将が呆れたのは言うまでもない。


 その後、丁重に永田少将はマルコの告白にお断りしたのだが、この事件の後もマルコは永田少将に訪れ続け告白し続けた。そして、永田少将が折れて二人が付き合うのは、まだまだ先である。

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イタリア王国軍記〜美少女ムッソリーニに転生したのでイタリアを改革しイタリア軍にやる気を出させイタリアを勝利に導く〜を

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補足説明(ウイキペディア参考)

①山田長三郎:1935年8月12日に発生した相澤事件において、永田少将と新見大佐と共に在室していたが新見大佐は永田少将をかばって重傷を負ったが山田大佐は局長室から姿を消していた。事件後に「自分の軍刀を取りに兵務課長室へ走って戻った」弁明したが軍内部及び世間から上官を見捨てて逃げたと批判を受け、事件から約2ヶ月後の10月5日に「不徳の致すところ」という遺書を残し、自宅で自決した。


②新見大佐:本名は新見英夫。相澤事件において相澤中佐の襲撃に気づき永田少将をかばって重傷を負った。事件後に京都憲兵隊長に異動となったが1年後に予備役になった。




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