第4話 伊墺首脳会談と総統の就任

-イタリア:リッチョーネ-

1934年7月29日


 暫く固まっていたドルフース首相だったが、私が声をかけたことで我に返り、私に話しかける。


「ムッソリーニ首相。二重帝国はイタリアと未回収のイタリアをめぐって、先の世界大戦で、我々は戦ったじゃないですか?そんなことをすれば、イタリア国民が黙っていないと思いますが?」


「そこのところは、私がなんとかしますよ。それに万が一、ソ連に攻め込まれた時にバルカン半島の国々が各個撃破されるより、先の二重帝国の様な大国がある事で抑止力にもなりますからね」


「…そうですか。しかし、仮に二重帝国が再建されたとしても、イギリスとフランスの反発があると思うのですが?」


「そこのところは、大丈夫だと思いますよ。イギリスとフランスはドイツナチスよりもソ連共産主義者を脅威に思っていますから、共産主義の盾となるのなら、恐らく抗議程度ですむでしょう」


「しかし、我が国とハンガリーが合併したところで、それ程抑止力にもならないと思いますが?」


「実は最近、ドイツの工作員がズデーテン地方で、ドイツ系住民ズデーテン・ドイツ人を煽っているそうなのです」


 それを聞いたドルフース首相の口元が僅かに笑っているように見えた。


「そうですか、つまりムッソリーニ首相はチェコスロバキアからズデーテン地方をドイツに割譲させて、チェコスロバキア国民の不満を爆発させたところに我が国との合併を提案させると?」


「ええ、恐らく5年もすれば、貴方が言った事が現実に起きるでしょう。そして、二重帝国と合併すれば軍事・経済の支援並びに高度な自治権を与え、ドイツの脅威に対抗する事ができると会談を持ち掛ければ良いのです。まあ、その前にハンガリーと合併し二重帝国となっていればの話しですが」


 そしてしばらく考えた後、ドルフース首相は口を開いた。


「わかりました。ドイツの脅威に対抗するには、それしかなさそうですね。帰国したらホルティ摂政と会談してみようと思います。今回は良い話を持ち帰れそうです」


「それは良かったです」 


 ドルフース首相との会談は、その後も続き最終的に午後5時まで続いた。


「本日はありがとうございました」


「こちらこそ、有意義な会談になりました」


 その2時間後にドルフース夫妻は子供達を連れてオーストリアに帰って行った。


 それから4日後の8月2日に史実通りの事が起きた。


 トントントンといつもより早く響くノックの音でただならぬ様相でアンナが首相室に入って来た。


「ドゥーチェ。駐ドイツ大使館から、緊急の報告です」


 アンナが新しい書類を渡してくる。


「やっぱり史実通り起きるか」


 そこには※①パウル・フォン・ヒンデンブルク大統領が死去した事と共にヒトラーが8月1日に制定した※②ドイツ国元首法により、総統(指導者兼首相)となり。8月19日に民族投票が行われることが記載されていた。


 ヒトラーが総統になった事で、恐らくオーストリアの併合に動くだろうから、二重帝国が再建されるまでの間は、ドイツに居る諜報員の数を増やしておいた方がいいかな。


 その後も各国の情報を読んでいたが、史実通りに動いているので変化はないと思う。


 そういえば、第二次エチオピア戦争時に英仏が利権を侵害されるのを恐れていたから、少しでも制裁を減らす為に5年の不可侵条約でも結んでおいた方がいいかもしれない。


 史実でイタリアが第二次世界大戦に参戦するのは6月10日だけど、それより早めに参戦したいから5月くらいまでには結びたい。まぁ、その前に軍の武器の更新を進めないと行けないから大臣達と相談しておかないと。


「アンナ」


「はい、なんでしょう?」


「ドイツに対する諜報員の強化と、英仏と来年の5月までに5年の不可侵条約の締結を持ち掛けるように諜報機関と外務次官に連絡して。それから、軍の兵器の更新の話をするから、大臣達に連絡をお願い」


「わかりました」


 なお、外務次官の負担が増えたのは言うまでもない。



-イギリス:ロンドン-

 その日、史実には無かった。英仏首脳会談が行われていた。


「※③ルブラン大統領。ようこそ、大英帝国へ!歓迎しますよ」


「このような会談の場を設けて下さり、ありがとうございます」


 両国の代表者が席に座った時にルブラン大統領が口を開いた。


「では、早速お聞きしますが、※④ラムゼイ首相」


「なんでしょう?」


「貴国にもイタリアからの不可侵条約を提案されたと伺いましたが、どう思いますか?」


「ええ、提案されましたよ。本格的にイタリアがエチオピアに侵攻するのを加速し始めたと思いましたよ。まぁ、昨年の12月にバドリオ元帥に遠征準備を命令、来年のおそらく2月頃に軍事侵攻を開始すると諜報機関からの報告が上がってきていましたから、イタリアからしたら、恐らく前回第1次エチオピア戦争の様にエチオピアに支援をすることがないように我々に釘を刺しておきたいのでしょうが」


「では、結んでおいた方が良いでしょうか?結べば前回に危惧していた我々の利権は守れますが?」


「結んでおいた方が良いでしょう。世界大戦と世界恐慌で弱体化した我々にエチオピアを支援する力はありませんし、それに良き口実となります。」


「そうですね。そうしましょう」


 それから、ドイツナチスの事へと話が移ったが、共産主義の盾として使う事を合意した。


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イタリア王国軍記〜美少女ムッソリーニに転生したのでイタリアを改革しイタリア軍にやる気をださせイタリアを勝利に導く〜を

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また、前回から3週間も遅れての投稿で申し訳ございません。

作者が調べながら投稿していくのと学校等の両立で

今回の様にあくかもしれませんが、

気長に待ってくれるとありがたいです。


※①パウル・フォン・ヒンデンブルク

ヴァイマール共和制ドイツでの第2代大統領。

過去には第15代陸軍参謀総長を務め第一次世界大戦のタンネンベルクの戦いにおいてドイツ軍を指揮してロシア軍に大勝利を収め、ドイツの国民的英雄となった。


※②ドイツ国元首法

ヒンデンブルクが死去する前日に制定された法。大統領と首相の職務を統合し国家元首となること。


※③ルブラン大統領

本名アルベール・ルブラン。フランス第三共和制第15代大統領。1900年に鉱山技師を辞し総選挙に共和左派から立候補し当選する。1912年植民相。1913年、陸相兼自由県担当相。1925年から1929年まで元老院上院副議長を経て、1931年に元老院上院議長に選出された。


※④ラムゼイ首相

本名ラムゼイ・マクドナルド。イギリスの第56・58代首相。本作では58代の頃。彼は他の労働党党首とは異なり、労働組合との距離を置いていた。

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