第335話 蚊が刺す程度には

 ――――グドォオォオオォォォォオオオォォォォォオオォムッ!!!!


『――――――――――っ!??』

「しゃおらぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!!!」


 現場監督の放ったロケットランチャーが、ナーガの顎に命中した。

 次の咆哮のために充填していた魔素が光の破片になって飛び散った。

 監督は会心のガッツポーズでモジョに振り返る。


「……いいから次弾を装填しろ、すぐまたくるぞ」


 トラックを止めてナーガに注目する。

 さすがのナーガも戦車装甲すら破壊する近代兵器、しかもアルテマの加護レリクス付きの一撃は効いたらしく、それまで目にも入れていなかったモジョたちに視線を向けた。

 そして鬱陶しい虫けらでも叩き潰すがごとく、その無数の足、一つ一つに魔力を込めはじめた。


「まずい」


 危機を察知してトラックを急発進させる。

 その直後に――――カッ――――ガガァアァァァァァァァァァァァンッ!!!!

 足の一対から放たれた黒い稲妻が地面をえぐったっ!!


「どぉおおぉぉぉぉおおぉぉぉっ!???」

「だぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!?? 耳が耳が壊れるっ!!!!」


 ギリギリのところで躱したが、荷台の二人にはもろに衝撃が襲ったらしくひっくり返ってもがいている。


「大丈夫か、オメェらっ!??」

「だ、大丈夫です!! で、でもなんスかいまの雷はっ!!???」

「あん!? ……そりゃおめぇ……」


 監督も説明できずにモジョを見る。

 できるだけ蛇行運転をしながら、


「いいから振り落とされないように踏ん張っていろ。狙い通りヤツの気を引き付けた。……このまま攻撃を続けて時間を稼ぐぞ」

「あん!? 倒さないのかよっ!??」

「不可能だな。よく見ろ。一瞬こっちを向いたが胴体には傷一つ付いていない。いまの一撃、ヤツにとっては小石を当てられた程度だろうよ」

「じゃあどうするんだよっ!??」


 本当に無傷なのを確認して青ざめる監督。

 ――――カッ――――ガガァアァァァァァァァァァァァンッ!!!!

 同時に二撃目の稲妻がトラックの横をかすめた!!


「だから言ったろ、時間稼ぎだっ!!!!」


 よろめくトラックをなんとか制御しながら怒鳴るモジョ。

 集落から出そうになるが、橋の手前でスピンターンする。

 そして再び蛇行運転しながら逆方向へと戻っていった。


 稲妻の威力はそこまで無い。

 せいぜい地面を1メートルほどえぐる程度。

 直撃したらひとたまりもないが、集落を破壊することには多分ならない。

 だからできるだけうっとおしく立ち回り、あの強烈な咆哮を撃たせないようにする。

 これがひとまずモジョたちにできる最大の抵抗だった。


 ――――カッ――――ガガァアァァァァァァァァァァァンッ!!!!

 ――――カッ――――ガガァアァァァァァァァァァァァンッ!!!!

 ――――カッ――――ガガァアァァァァァァァァァァァンッ!!!!

 ――――カッ――――ガガァアァァァァァァァァァァァンッ!!!!


 ――――ギャキキキキキキキキキキキキキキキキキキキッ!!!!


「ぐあぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!!??」

「危ねぇっ危ねぇっ危ねぇっ!?」


 連続して放たれる黒い稲妻。

 そのことごとくを、ほとんど無茶苦茶なハンドルさばきで躱し続けるモジョ。

 愚鈍な1トントラックでよくもそんな器用な動きができるなと感心する監督。

 しかしモジョにとってはこの程度の障害、マリ◯カートで死ぬほど経験している。

 ゲームによってつちわれた第六感が、いまこそ火を吹いていた。


 ――――ダラララララララララ、ダララララララララ――――ボシュゥッ!!!!


 スキを見て監督たちも応戦してくれている。

 ライフルの弾もロケランも、当たるたびにナーガは鬱陶しがり、いきり立つ。

 そうして引き付けている間、ナーガが咆哮を放つ気配はなかった。


 よし、このまま、このまま!!


 なんとが時間を稼いで――――そうしていればきっとアルテマたちがなんとかしてくれる!! それを信じてモジョはハンドルを回し続ける。 


「――て、おい嬢ちゃん……またなんか変なのが湧いて出てきたぞ!??」

「――――ん、げっ!??」


 監督が険しい顔をして山の方を見ている。

 確認したモジョの顔がこわばった。

 ナーガが首をもたげている周辺、山林の中からなにやら半透明の浮遊物が無数に湧いてくるのが見えた。

 それらはそれぞれ醜悪な昆虫、凶悪な猛獣、奇っ怪な人型。

 一言でいうと魑魅魍魎。

 それらが一斉に空へ舞い上がり、モジョたちに向かって飛んできた。


「お……おおおおおおい!? なんだなんだあいつら、気持ち悪い、幽霊か!!?」

「悪魔だ、くそっ!! 応戦してくれ!!」


 あっというまに四方を囲まれたトラック。

 悪魔の鑑定などできないモジョ。

 だが、悪魔祓いを観察していた経験でだいたいわかる。


 ほとんどが中級悪魔クラス。


 最近の感覚だと雑魚に感じるが、それはただの錯覚。

 中級でも生身の人間ならば余裕で殺される。


「悪魔ぁっ!?? ナーガの野郎、助っ人呼びやがったってのかぁっ!!」


 卑怯者がと叫びながらロケランからショットガンに持ち替える監督。

 これもアルテマの加護がかかっている。


「くたばれ、悪霊どもがぁっ!!!!」


 ――――ドゴォンッ!! ドゴォンッ!!!!


 正面から向かってきた群れに向かってぶっ放すっ!!

 三体がそれで四散し消えてなくなるが、まだまだ悪魔たちは無数に出現している。


 群れの風穴に飛び込み、逃げるトラック。


 蛇行しながらでは追いつかれてしまうので直進で全力疾走!!

 それだとナーガの稲妻に当たってしまうが、しかし今度は稲妻がこない。

 雑魚にんげんは雑魚にまかせ、ナーガは再び黒光線を充填していた。

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