第333話 凄惨なる

「石祠だ!! やはりあれがすべての元凶だっ!!」


 そう目星をつけ、外へと急ぐアルテマ。

 しかしそれをジュロウの思念が呼び止めた。


『そっちではありません。神具はこの神殿の地下にあります』


「なんだとっ!??」

「あ痛っ!??」


 急激に立ち止まるアルテマ。

 その背中に、ぬか娘がひっかかり、ヨウツベと六段もお互いにぶつかった。


「地下だと?? 地上の石祠じゃないのか!?」

『あれは仮の祭壇。オピリィ神殿の中核はそこの真下に位置しています』

「オピリィ神殿??」

『はい。この建物は元々大神殿としてオピリィの街、そこの中心に位置していました。ナーガはその膨大な魔素を利用し、そして霊堂レイドウの神像を媒体に本家開門揖盗ナーガオリジナルを使ったのです』

「…………な……なんかよくわからんが、地下に行けばその神具とやらはあるんじゃな!??」


 細かい話にはまったくついて行けない元一。

 そもそも理解する気もない。

 とにかく目の前の目標だけわかればそれでいい。


「ああ、その通りだお父ちゃ――――元一」

「いいんだよアルテマちゃんっ!!」

「いいから、その地下とやらはどこから行くんだっ!!」


 イラついた口調で偽島。

 クロードはアルテマを追い抜くと、


「こっちだ、ついて来い!!」


 先頭を切って走り出した。





「……こ、ここから飛び降りるのか?」


 アニオタが作動させてしまった落とし穴。

 下には油取りという上級悪魔がいたと聞いたが……?

 底が見えない、真っ黒な闇を見下ろしてアルテマはクロードを見上げた。


「ああ。下は大きな部屋になっていて、その奥に通路らしきものが確かにあった」


 油取りが登場したとき、ゴゴゴゴと扉が上がって、その奥から現れた。

 ならば向こう側に何かあったということだろう。


「その先が霊堂に続いているのか?」

「わからん」


 ガクッとよろめくアルテマ。他数名。


「わからんってお前……じゃあここは絶対に違うだろう?? 霊堂なんだから、ちゃんと正規の通路があるはずだっ!!」


 至極真っ当なことをいうアルテマ。

 クロードはジュロウに呼びかけた。


「ジュロウ王子、正式な道筋はご存知でしょうか?」

『……申し訳ありません。私も部外者。ここ1000年、難陀なんだとしても地下へおりることはありませんでした。ただ霊堂の力を感じるばかりで……』


「ということだ。だったらここしかないだろう? それとも悠長に他を探してみるか?」

「ぐむむむ……」

「それに下には油取りもいる。ヤツから情報を聞き出してもいい」


 ――――ドゴォォォォォォン……ドゴォォォォォォン……!!


 遠くから爆発音が聞こえる。

 モジョたち戦闘を開始した合図だ。

 ヨウツベは険しい顔で穴の端に歩み出る。


「お、おいヨウツベ?」

「早くしないと外が危険ですアルテマさん。……ナーガ相手にモジョたちがそう持ちこたえられるとは思えません。大丈夫、落ちても擦り傷程度ですみますから」


 みんなを見回すと、ニコリと微笑んで飛び込んだ。

 一番頼りない男がまず行動したのだ、これは躊躇ためらっている場合ではないなと、アルテマや元一も覚悟を決める。

 うなずき合うみなにクロードが忠告した。


「……いいかアルテマ。ここから先はきっと地獄だ。覚悟はしておけよ」





「ぃやぁめてぇ~~~~っ!!許してくれるって言ったじゃな~~~~~~~~~~~~いっ!!!! ぶえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~……」

「や……止めなさいアニオタくん!! 話が違うじゃないか!? これ以上ハレンチな真似は私が許さないぞっ!!」


 なぜかスクール水着にエプロン姿で石床に座り、号泣しているケモミミ少女。

 それを庇うように怪人の前に立ちふさがる誠司。


 怪人の名はゲロゲロベロベロV3。


 別名アニオタと言われる彼は、おかしなピンク色のオーラを発し、誰も見たことがないほどの男前な顔で、赤に銀の横縞がはしった筒を握りしめていた。


「なぁにも違ってはござらぬぅ~~~~!! 僕が店長に就任したあかつきには、その娘を店の看板娘として働かせるでござぁるっ!! 二次元美少女ケモミミコーナーを特設して売り子をしてもらうでござぁ~~~~る!! リアルケモミミ美少女の汚れなき手で我が同胞ケモナーたちの商品おぶつを包んでもらうでござぁ~~~~る。そこから得られる背徳感は、きっと同胞たちにプライスレスな興奮を――――」

「…………黒炎竜刃アモンっ!!」


 ――――どごぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーうっ!!!!


 アルテマが唱えし、わりとマジな黒炎竜刃アモン

 冷ややかな殺気が幼女の体を突き抜け、大人の姿を形づくる。

 それが生み出した黒炎は標的の怪人のみを爆炎に包み、弾き飛ばした。


「……な。言ったとおりだったろう?」

「いや……まだ地獄のほうが品がある……」

 

 爆炎とは真逆に、氷の目でアルテマ。

 クロードは返す言葉がみつからず。

 ほかのメンバーもただただ呆れてリアクションに困っていた。


 落下地点にはクロードが作ったザキエルのクッションがあり、みな怪我することなく無事に下りていた。


「……そ、村長……これはどういう状況ですか?」

「い……いや……そ、その……色々あって……」

 

 疑惑の目を向けるヨウツベ。

 焼けて転がっているアニオタと油取りのエプロンにはなぜか『漢のDVD』とプリントされ、あの後、一体何があったのか想像が追いつかない。


 六段はもちろん、実はソッチ系統にも明るいムッツリクロードさえも困惑していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る