第332話 男たち

 コワァァァァァァァァァァ――――――――…………。


 ナーガの口に魔素が集まる。

 溜めて溜めて――――充分に充填されたところで――――、


 ゴッ――――――――――――――――ガァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


 雷鳴をも震え上がらせる轟音っ!! 黒光線が放たれた!!!


 ドッッッッッッッッッッバァァァアァアァァァァァァァァァァァァァァァアァアァァァァァァァァァァァァァァァアァアァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!


 下から上へと舐め上げるように放たれた光線は、裏山の木々を粉砕し、肌を削り、集落の地面を捲りあげて彼方へと消えていく。

 一瞬おくれて衝撃波が追いかけて、モジョたちの乗るトラックはそれにあおられ片輪走行。


「ぐあぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ倒れる倒れる倒れるっ!! 嬢ちゃんふんばれふんばれっ!!!!」

「わかってる」


 力に逆らわず受け流す方向にハンドルを切るのはモジョ。

 隣にはM72 LAWロケットランチャーを抱いた現場監督が。

 荷台にはFA-MASアサルトライフルを構えた部下A。MP40サブマシンガンを二丁持ちした部下Bが鼻息荒く座っていた。


「オメェら振り落とされんなよっ!!」

「わかってまさぁっ!! けどいいんスか本当にコレ撃っちまってもっ!!!!」

「いいんだよっ!! 責任は全部オレ――――いや、偽島さんが全部取ってくれるってよっ!!!!」

「ひゃっはーーーーーーーーっ!!!!」


 血の気の塊。

 選りすぐりのゴロツキ二人は目の前の魔竜よりも、実銃、実弾を打てる興奮のほうが強いらしい。

 あるいは非現実過ぎて感情がイッてしまっているかだが、どっちにしてもパニックを起こさないのはありがたい。


 悪魔戦に慣れているモジョですら正直チビリそうになっているのに大したものだ。

 やはり男はバカにかぎるな。

 ナーガを見上げて笑っている現場家督を横目に、わりと本気でそう思うモジョ。


 コワァァァァァァァァァァ――――――――…………。


 ナーガの口に再び魔素が集まっていく。

 一発目から数えていたが、撃ってから次がくるまで大体5分。

 それまでに何をどうするべきか、行動を考えなければならない。


 やるべきことは一つ。蹄沢集落の防衛。


 しかしそう言われてもどこまで守れば良いのかラインがわからない。

 すでに咆哮は二発放たれ、集落の地面には深いギズ跡が二本、村へと突き抜けるように走っていた。

 そして粉々に破壊されメラメラと燃え上がっている廃屋が一軒。


 これは良いのか悪いのか?

 良いわけがないだろうが、セーフなのか。それすらもわからない。


 とにかくこれ以上の被害を出さないように立ち回るしかない。

 トラックの体制を立て直し、ナーガを横に見るように走りながらモジョは三人に指示を出した。


「あの黒光線を撃たせるなっ!! タメてるあいだ――あの間抜けに開いた口になんでもブチ込んでやれっ!!!!」

「おーけぃ~~~~っ!!!!」


 嬉しそうに返事した監督はM72 LAWロケットランチャーの照準をナーガに合わせ――――、

「あ、ちょっ――バカッ!!??」


 引き金を引いた――――ドシュウッ!!!!

 飛び出すロケット弾。同時に反対側から火を吹いてバックファイアー!!!!


「んぎゃぁあぁぁぁぁっ!!??」


 すんでのところ、監督の背中にしがみつく形で爆風をかわすモジョ。

 ちょっと髪が焦げてしまう。


「ああ? なんか言ったか嬢ちゃん!???」

「……バカな男は嫌いだって言ったんだっ!!」





 ピュゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーィッ!!

 指笛の音が荒野に反響する。

 カイギネスが鳴らしたそれに反応し、彼方から現れたのは死霊竜ドラゴンゾンビ


「んな、な、な、なっ!? か、カイギネス様、な、な、なにを!?」


 一介の騎士では絶対に勝てないその凶悪モンスターを見上げ、声を裏返らせるアベール。

 カイギネスは二人の若き近衛兵に命令した。


「お前たちは俺等の馬を連れてここから離れよ」

「な……何をおっしゃいます!??」


 ナーガのと戦闘に備え、むしろ大軍を用意しなければならないと、やきもきしていた二人はまさかの指示に目を丸くした。


「馬鹿者。ただの兵がいくらいたところで被害を増やすだけだ。それよりもここにいては本家開門揖盗ナーガオリジナルに巻き込まれお前たちまで異世界に飛ばされてしまうぞ?」

「――――なっ!? し、しかしそれはカイギネス様も同じことでは!?」

「だから死霊竜こいつを呼んだのだ。ギリギリのところでオレとジルは空へと逃げ延びる。真子は――――」


 カイギネスは真子の頬に手を添えると、本当のおじいちゃんのように優しく微笑んであげた。

 不安げにその顔を見上げる真子。


「あの……私は」


 帰れなくてもいい。

 そう言葉を続けようとしたが、飲み込んでしまった。

 父と名乗る、あのおじさんの顔が浮かんだから。

 カイギネスは『そうだ』と力強く、肩を握りしめて言った。


「お前の、いやアルテマと真子おまえたちの強い想いが世界を繋げるのだ」

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