第331話 お鉢が回ってきたってか?

『よかった繋がりましたねアルテマ。そちらの状況はどうですか? 難陀なんだはどうなりました!?』

「ああ、師匠!!――――それが……」


 アルテマはいま起こっている状況、村の危機をザッと説明する。

 ジルはそれをすぐに理解するとアルテマに指示を与えた。


『そこに玉の形をした神具はありませんか?』

「神具!? いえ、そんなものはどこにも……。あったとして、それがなんなのです??」


 ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご……!!!!


 揺れはいまだ続いて、まわりの石壁がいまにも崩れてきそうだ。

 天井からはバラバラと砂が落ちてくる。


『探してください、それは――――』


 ジルはサイラスの手記、カイギネスらと相談した内容をアルテマにも説明した。

 聞いたアルテマは険しい顔で唇を噛み締めた。


開門揖盗デモン・ザ・ホールの放棄!? そんなことをしたら……。カイギネス皇帝はなんと??」

『カイギネスだ』


 ジルに代わってカイギネスが回線に割り込んできた。

 アルテマはかしこまり、揺れる床の上で膝をつく。


『いまはよい。それよりも開門揖盗デモン・ザ・ホールのことだが……。私はサイラスの手記に従おうと思う』

「皇帝!? しかし、それでは帝国はどうなるのです!??」


 龍脈を止められている時点で異世界間の交易はできない。

 それはもうすでに諦めている。

 しかし開門揖盗デモン・ザ・ホール自体を手放すとなると、帝国内での情報伝達や転送もできなくなり、それは極めて大きな戦力低下へと繋がってしまう。

 周辺国家をことごとく敵に回してしまっているいま、そうなってしまうのは致命的と言っていいほどの事態。

 反対だと言いかねないアルテマ。

 しかしカイギネスは毅然とした態度で意志を伝えた。


『ナーガの封印はすでに弱まっているのだろう? ならば、いますぐとは言わずとも……50年か100年か……それほどで完全に封印は解けてしまうだろう。そうなってはもはや帝国だけの問題では収まらん。やつを倒す宝剣がそれぞれの世界に分かれてしまっている限り倒す手段はない。それは日本国――――いや両世界にとって壊滅的な脅威となる。そんな問題を後に残しておくわけにはいかないのだ』


 そこでジュロウの声がアルテマに届いた。


『よく言ってくれましたね時の皇帝よ。ナーガの封印はまだすぐには解けません。たとえナーガとしての本性を取り戻しても……あと200年はこの山から動けないことでしょう。しかし集落を破壊し尽くされてしまえば……倒す手段を失ったまま……時などすぐに流れてしまう……』


 この声はアルテマたちにしか聞こえない。

 だが時代を越えて両国の王が意見をそろえたのだ、アルテマがそれに異を唱えることなど、出来はしなかった。





本家開門揖盗ナーガオリジナルの側、そこに必ず神具はあるはずです。ナーガの強い魔力が込められ、禍々しい気配を放っているはずです』


 ジルに説明され、アルテマすぐ駆け出した。

 心当たりは一つだけ――――龍穴の石祠。

 たしかにあった。玉の神具が。

 はじめにクロードがいじり、それで難陀なんだが現れたのだ。


「アルテマちゃん!?」

「石祠だ!! やはりあれがすべての元凶だっ!!」





 突如、山腹に現れた邪竜難陀なんだ――――いや、魔竜ナーガ。

 モジョたちが唖然と立ちすくむなか、ナーガの放つ黒い咆哮は圧倒的破壊力を持つ光線となり、集落の土をえぐり取っていく。


 ――――タランタラ~~。タランタラ~~。タランタラッタラッタタッタ。タランタラ~~。タランタラ~~。タランタラッタタン――――……。


 モジョのスマホが鳴った。

 相手はヨウツベ。

 放心しつつ反射的に出ると、向こうからゼイゼイと息切れした声が聞こえてきた。


『モジョっ!! そっちは大丈夫っ!???』

「あ……ああ、ヨウツベ……いや、それが……。もしかしてそっちで何かやらかしたのか?」

『あのね――――!!』


 走りながら喋っているのだろう。

 息がうるさく、聞き取りづらいなか状況を説明される。

 動画制作の技術なのか、ヨウツベの説明は要点だけを的確に、わかりやすかったのが幸い。

 ザックリと状況を理解したモジョと占さん。


「つまり、あの魔竜から集落を守らないと、倒す手段が失われるということか?」

『さすがモジョ。そういう理解は早いね!!』

「伊達にゲームオタクじゃない。つまりはラストバトル前哨戦ってところだろう?」


 あえてゲームに例え、場の緊張を緩めるモジョ。

 スピーカーホンで話を聞いていた現場監督たちも、その一言でやるべきことを飲み込めた。


「嬉しいじゃねぇか、持ってきた武器ごとモブキャラで終わるかと思ってたんだけどよ、こんなところで見せ場がやってきたぜ!! おい、お前ら!! 真子嬢の帰り道、死んでも守り通してやるぜぇっ!!」

「おおっ!!!!」


 気合を入れた偽島組の三人。

 武器を満載したトラックに飛び乗ると、すぐさまエンジンを起こした。


「モジョ」

「……ああ~~まぁそうなるよね……」


 占いさんの目配せで、苦笑いしながら偽島組についていくモジョ。

 あの男たちをうまく操作できるのはお前しかいないだろう。

 そんな視線だった。


 かくして対ナーガ、蹄沢集落防衛戦のステージは開始されたのだった。

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