第330話 ナーガの思惑

「……仮に開門揖盗デモン・ザ・ホールを放棄したとして、それからどうやってナーガを呼び寄せるというのだ?」


 大きな問題はとりあえず置き。話を進めるカイギネス。

 ここで無理だと却下しても、なんの問題解決にもならないからだ。

 ともかく最後までジル――いや、サイラスの主張を聞いてみる。


「そこで鍵となるのが神具です」

「神具? さっきも言っていたがそれは?」

「ナーガが異世界へ逃げるとき、一つの神具を媒体とし本家開門揖盗ナーガオリジナルを発動させました。これはサイラスとの戦いで魔力が大きく削られていたからだと推測されています」

「そうだったな。……それで、それはどのような物なのだ?」

「はい。手記にはなにか玉のような物だと書いてありましたが、はっきりとは……だた、それと対をなす異世界の神具ならば――――あそこにあります」


 言ってジルは峡谷の下。光が影に飲み込まれる堺あたりを指さした。

 そこには石で出来た人の膝丈ほどの人形が岩に埋まっていた。

 地蔵菩薩という神像――いわゆるお地蔵様だが、ジルたちにはわからない。


「え……? お地蔵様……?」


 しかし真子にはわかったようで、思わずその名を口にした。


「真子、あれが何か知っているのですか?」

「はい……いえ……私もそこまで詳しくはないのですけれど……その、道端とかによく見かける身近な仏様だと……」

「ほう? ならばやはりあれは異世界の神具なのだな」

「そう……ですね。そんな感じだと思います」


 興味深げに確認するカイギネスに、自信無げな真子。

 しかしいまはそんなことよりも、


「それで? あれをどうするというのだ?」

「……あれを起点に本家開門揖盗ナーガオリジナルを再使用するということです」


 ジルの言葉に、アベールがたまらず質問した。


「ま、待ってくださいジル様。あれを起点にと申されましても……そもそも本家開門揖盗ナーガオリジナルはナーガのものなのでしょう? どうやってそれを発動させるのです?」


 それに対してジルは薄く笑って、


「勘違いされていますね? 本家開門揖盗ナーガオリジナルはもうすでに発動されています。1000年も前から」


 そして深い深い谷底を指差す。


「あ……」

「いかにナーガといえども自分の能力で自分を飛ばすことはできなかったようですね。そこで彼はいったん能力を神具に預け、そこから自分に向けて本家開門揖盗ナーガオリジナルを発動させました」

「その時にサイラスに片腕を落とされ、機能不全を起こしたわけか……」


 カイギネスが後を続ける。


「はい。ですからあの神具に開門揖盗デモン・ザ・ホールを返却すれば、きっと本家開門揖盗ナーガオリジナルは本来の機能を取り戻すはずです」





 ――――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!


 揺れる石壁にもたれながら、アルテマたちはジュロウの話を聞いていた。


『ナーガが本家開門揖盗ナーガオリジナルを発動したとき、オリビィの街の一部も一緒にこの地に転移しました。……それがいま、あなたたちが住む集落の元となった土地です……』


 それを聞いた元一たちは、やはり……とお互いの顔を見る

 そうなると、元々この地で生まれ育った元一や偽島、誠司は異世界人の子孫ということになる。もちろんアルテマもそう。

 しかしそれをいま語っている場合ではない。


『そして異世界側、ラゼルハイジャンには元々この地にあった谷が転移しているはずです』

「ああ、たしかにあった。しかしその話と、ナーガが自分を倒させまいとするのといったいなんの関係があるのだ!?」


 アルテマが聞く。

 外の様子が気が気でなく、表情に余裕はなかった。


『……ナーガを倒す方法は一つ。この聖剣ボルテウスと、帝国にある魔剣ジークカイザーの共鳴。これを起こさなければ消滅させることはできません。……そしてそれをするにはナーガを再び異世界へ飛ばさねばなりません』

本家開門揖盗ナーガオリジナルか!?」

『ええ、しかし本家開門揖盗ナーガオリジナル開門揖盗デモン・ザ・ホール。アルテマ、あなたならそのルールは充分理解していると思います』


 それを聞いてハッとするアルテマ。

 そうか、それでナーガは地上を……蹄沢集落を攻撃しようとしているのか!?


「アルテマ、どういうことだ!? ワシにはまるで何が起こっているのかわからんぞっ!?」


 六段が怒鳴ってくる。

 ほかのみんなも、クロード以外はみな同じ顔をしていた。


開門揖盗デモン・ザ・ホールで物を転送するとき、互いの物の価値を揃えなければならないという絶対的定めがある。ナーガが異世界とこの世界を交換したときも同じだったはずだ。だから元に戻すときも同じ価値の物が必要になる」

「え、え、え?」


 混乱するぬか娘。

 偽島は気がついたようで、しまったと強く舌打ちした。


「チッ、そういうことか!? つまりヤツは村を破壊して等価交換のバランスを崩そうとしているってわけか!? たとえ何らかの方法で開門揖盗デモン・ザ・ホールを使われたとしても、どうしようもないように!!」

「な、なんじゃと!??」

「そ、そ、それじゃあワシたちの集落はいまヤツに攻撃されとるってことか!?」

「と、と、と、止めなきゃっ!! アルテマちゃん」


 慌てる元一と六段。

 事態を理解したぬか娘は外にいるモジョたちに連絡を取ろうとする。

 が、それに重なるように、


 ――――カラ~ンコロ~ン。


 全員の携帯に電脳開門揖盗サイバー・デモン・ザ・ホールの呼び出しが鳴った。

 呼び出し人はジル。

 アルテマはすぐに回線を開いた。

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