第325話 二つの扉

「おいお前たち、大変だぞっ!!」


 ぬか娘が目覚めるまで、通路の先を探りに出ていたクロード。

 なにやら慌てたようすで帰ってきたが、


「ん゛~~~~~~~~~~~~~~だらだっしゃぁあぁぁぁぁぁいっ!!!!」

「ぐっはぁぁぁぁっ!???」


 いきなり薙ぎ払われた後ろ回し蹴りにより顔面を強打!!

 壁に吹き飛ばされワンバウンドした。


「ぐわぁぁあぁぁっ痛ぁ~~~~~~い……!! き……貴様なにをっ!!」

「なにをはこっちのセリフよ!! あ、あんた人のおケツに、人のおケツになんてえことしてくれちゃってんのおぉぉぉぉぉおおぉぉっ!????」


 襲いかかってきたのはぬか娘。

 元気に回復したようだが、大いなる勘違いをしている。

 彼女の後ろには、殴られ蹴られ、ボコボコになった男二人が折り重なっており、それだけで話が通じない状況なのは察しがついた。





「はぁはぁはぁ……そ、そうなんだったら最初に言いなさいよ!!」

「……だ……だから言ったぞ最初に……。それでも暴れたのはお前だろう」


 顔面を真っ赤に腫らしながらヒクつく六段。

 なにもひどいことはなかったのだと、いくら説明しても『ケツの穴に腕を突っ込む』というパワーワードが大暴れし、話を聞いてもらえなかった。


 ようやく理解してもらえたときには、すでにクロードは殴られ放題。

 お返しにズボンを下ろされ魔素回収用付属空中線デビルソードを醜い穴に突っ込まれる直前だった。


「ほら……もう大丈夫だよクロード。刺さってないよ。刺さってない」

「ほ……ほんとか……? 俺、まだ処◯か? ◯女でいいのか??」

「ああ、大丈夫大丈夫、清らかなままだよ」


 泣きべそかいて鼻水を垂らしているクロード。

 どうやら二丁目に履歴書を持って行くことにはならなさそう。

 背中をさすり落ち着かせてやるヨウツベ。


「でっ!! アルテマちゃんよ、アルテマちゃん!! アルテマちゃんはどこ行ったのっ!! 無事なのっ!!!!」


 あらためて冷静に、状況を理解したぬか娘。

 自分を探してさらに元へと向かったと知り、今度は心配して殺気立つ。


「ああ……グス……そ、それなんだが……」


 まだシャックリが収まらない赤ら顔。

 それでも健気にクロードは説明した。

 

 通路をこのまま進むと、途中、いくつもの罠が作動した跡があった。

 おそらくアルテマたちが通った跡なのだろうが、その先、登り坂になったところで異常があったという。


「異常??」

「ああ……なにかとてつもない魔力を感じた。難陀なんだとはまた違う……いやそうでもあったのだが、半分は別の気配だった」

「別?? どういうことだい? また別の悪魔が潜んでいたということかい!?」

「わからん……ともかく、なにかマズイ気配がした」

「マズイ気配ってなんなのよっ!! ハッキリ言いなさいよこの変態クソナルシストがっ!!!!」

「誰がナルシストだ!! 元気になったならついて来いっ!! 実際に行ったほうが早いっ!!」


 そんなわけで変態クソナルシストについて行き、その場所までやってきた三人。

 途中、たしかに罠が作動した跡があった。

 半月型の大きなやいばや、落ちた吊り天井(棘付き)、片方の壁から射出されただろう矢が逆側の壁に無数に刺さっていた。

 間違いなくアルテマたちが通った跡だろうと確信してここまでやってきた。

 坂を見上げると、言う通り、奥からただならぬ気配が漂ってきた。


「……なに……このドロドロとした気配……?」


 鳥肌をあげながらヨウツベが震えた。

 坂の先は真っ暗なもやがかかっていて奥を見ることができないが、不思議なことにその中心には光が見えた。

 それは物質に反射する光ではなくて、ただそこに存在する光り。

 聖なる気、そのものであった。


「アルテマちゃんっ!!」

「お、おい待て!! ここは様子を見ないと危険だろう!?」


 躊躇ためらわず坂を登っていくぬか娘。

 六段はそんな彼女を止めようとするが、この奥にアルテマたちがいるというのなら悠長に調べている場合ではないというのも理解する。

 突っ走ってしまった勢いのまま、一か八か近付いてみた。


「ち、あの野郎!!」「あぶないよぬか娘!!」


 クロードとヨウツベの二人もあとに続く。

 すると黒い靄がモモモモモ……と四人の行く手を塞いできた。

 構わず進もうとするぬか娘だが、全身を覆った靄はなにかの呪いのように四肢を固まらせ足を止めた。


「ぐぐぐ……な……なにこれ……体が動かない……わ」

「……これは……魔の……結界だ……」


 同じく靄に絡みつかれたクロード。

 バチバチと全身から火花のようなものを反応させる。

 六段もおなじような火花を出して固まっている。


「魔の結界……? な、なんだそれは!??」

「天使を拒む壁だ。俺やあんたは聖なる加護を纏っているから同じく拒絶される」

「ぼ、僕は?? ぬか娘も」

「俺たちほどじゃないが、やはり拒絶される」

「どうにかならないのっ!?」

「いまやる」


 短く返事するとクロードは解呪の魔法『リスペル』を唱えた。

 魔の呪いを解くこの精神魔法は魔の結界にも有効なはずだが、


 ――――「リスペル」

 し~~~~~~~~~~~~ん。

 ――――「リスペル」

 し~~~~~~~~~~~~ん。

 ――――「リスペーーーーーールっ!!」

 し~~~~~~~~~~~~ん。


「……おい、なにも起こらんぞ……?」

「おかしい……そんなはずは?」


 消滅するはずの魔の結界は、なに揺らぐことなく拒絶を続けていた。

 結界が強力だったとしても、無反応と言うのはおかしい。

 どういうわけだと思案したそのとき。


『俺が犠牲になっているうちにやれっ!! 太陽砲アマテラスをぶち込んでやれっ!!』


 鬼気迫った偽島の声が、結界の向こう側から聞こえてきた。

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