第324話 んだよそりゃぁ!!

「「「な、ななっなっなっなっな~~~~~~~~~~~~~っ!!???」」」


 飛び退いた三人は心臓を爆発させながらスマホに注目する。

 せっかく鬼畜道に落ちると決めた覚悟がガラガラと崩れ、おしっこをチビりそうに、いや密かに全員ちょっとチビっていた。

 そんな三人の胸中などつゆ知らず、のんきな口調でモジョは質問してきた。


『それってほんとにソコからじゃないとダメなのか?』

「ど、どどどどどどどど、どういうことだ貴様っ!!!!」


 殺気立つクロード。

 ほかの二人は泣きそうになって抱き合っている。


『……いやだからぁ、もともと開いてる穴からじゃないとダメなのかって話し』

「そ、そ、そりゃ、そうしないと体内に手を突っ込めんだろうがっ!!!!」

『でも、どうせヒールで回復するんだろう?』

「それがどうしたっ!!!!」

『……だったら、ナイフか何かで腹にでも開ければいいんじゃないか? 穴』

「…………………………………………」


 静まり返る空間。

 三人はダラダラと汗を流しながらお互いを見た。

 そしてスマホ向こうのモジョに怒鳴った。


「そ」「そ」「そ」

「「「それを早く言え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」」」





「はい。……じゃ、じゃあ頼んだよクロード……」


 ナイフはヨウツベが持っていた。

 準備のいい彼らしく、十徳ナイフ。


 刃渡りは頼りなかったが、ぬか娘のぽよぽよお腹ぐらいなら切開できるだろう。

 血は相変わらず流れ続け、すでに肌は青みがかり血の気はない。

 息も細くなって猶予のない状態である。


 両目を隠して縮こまるヨウツベ。

 六段は耳をふさいで天井を見上げている。

 格闘家だからこそ、怪我に慣れているからこそ人一倍わかる痛み。

 想像するだけで歯を食いしばってしまう。


「瀕死なのが逆に幸いしたな。意識があったら地獄だったぞ」


 腹に刃をあて、二人とは対象的に落ち着いているクロード。

 異世界では数え切れないほどの人を殺してきた。

 この世界ではすっかり間抜けなイメージが定着してしまったが、血みどろの世界こそ本来、彼の居場所。

 女の腹を裂くことなど、どうということはない。


 すくなくとも。


 お尻の穴に手を突っ込むよりは全然大丈夫な行為である。


「……いくぞ」


 ナイフに力を込める。

 つぷ――――。

 皮膚が破れて、玉のような血が膨らんだ。

 ずぶずぶずぶ……。

 さらにナイフを埋めて、肉を裂いていく。


「――うっ?」


 ピクリと反応するぬか娘。

 わずかに開いた目と、一瞬だけ視線が合うがすぐに手元に戻し、

 ――――ずずず――――ザシュッ!!!!

 一気に裂いた!!


「ゔあっ!??」


 びくりと跳ねるぬか娘。

 瀕死の身体でも、さらに致命的なダメージには反応を示す。

 クロードはかまわず、さらに口を開けると――――ずぶぶぶぶっ!!!!

 ナイフを放り投げ、躊躇ためらわず手を腹に挿し込んだ!!


「ゔあぁあぁぁああぁぁっ!??」


 激しい苦しみが襲ってきたのだろう。

 ぬか娘は目を見開いて痙攣するが、しかしそれも一瞬の辛さだった。


「神の加護。我が力を彼に授け、奇跡の炎を灯さん――――ヒール!!」


 パアァァアアァァァアアァァァァァァァァァァァァッ!!!!


 素早く唱えた呪文。

 クロードの気持ちに応えるよう、すぐに発動する聖なる光。

 パチパチ――――ババババババババババッ!!!!

 腹の内から漏れた光が、逆神ぎゃくしんの鏡に反応し、乱反射した。


「うおぉ!?? だ、大丈夫なのかこれは!?」

「クロード、頑張って!!」


 きらめく光の中、不安にさらされ待つ二人。

 ぬか娘の体が内側から、光に包まれる。

 やがて首に刺さっていた針が溶けるように消滅した。

 同時に出血も止まる。


「ゔあぁあぁあっ!?? あああ???」


 人形のように曇っていたぬか娘の目に、せいの光が戻った。


「よし。……運が良かったなエロゲ戦士」


 ヒールの光が収まりかける。

 それに合わせて手を引き抜くと、腹の傷を丁寧に合わせ、接合を確認した。

 やがて完全に光が収まると、玉の汗とともに大きく息を吐くクロード。


『……終わったか?』


 モジョの声が聞こえた。

 ぬか娘の体は完全に回復し、息も穏やかになっていた。


「ああ」


 短く返事すると、スピーカーの向こうから小さな声で「……よかった」と聞こえ、鼻のすする音も聞こえてきた。





「――――はっ!??」


 目を覚ますぬか娘。

 クラクラする頭を押さえて上半身を起こした。


「大丈夫か?」


 すぐさま六段が駆け寄ってくる。

 ヨウツベも安心したように胸をなでおろしていた。


「あれ? ……私、いったい……ここは??」


 暗く冷たい石床の通路。

 まるでゲームのダンジョンみたいな景色。

 まったく見に覚えのない場所。

 たしか自分は……決戦に備えて『魔法のスター・マジカルエミ ハートブローム ステッキ 80年代版』を磨いていたはずだけど……?


「実はね……」


 ヨウツベはこれまでの事情を事細かく説明した。

 たったいまのハレンチ騒動も全部。

 話を聞いたぬか娘はお尻を押さえて真っ青になった。

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