第323話 全集中

『ケ◯だな。◯ツに入れろ』


 スピーカーフォンに設定されたスマホからモジョの冷ややかな声が聞こえてきた。

 けっきょく自分で判断することなどできず、六段は外の控えチームに相談の電話をかけることにした。

 カクカクシガジカ。これまでの状況を細かく説明した。

 その返事がこれなのだ。


「ケ、◯ツか……? 本当にそれでいいんだな」


 やや戸惑いながらも聞き返すクロード。

 逆神ぎゃくしんの鏡は、ビキニアーマーの形をしているが、呪いのおかげで決して脱ぐことはできない仕様になっている。

 なので出かける時はもちろん、寝るときも、風呂のときまでずっと同じ格好。


 では排泄の場合はどうなのか?


 都合の良いことに、股間の部分だけ鉄板に偽装した柔らかな皮になっていて、用を足す時はそこをペロンとめくって済ますのだ。


「……つまり誰かがこいつのパンツをめくって、俺が腕をその……なんだ? 菊?? にぶっ刺してヒールをかけろと言うことか……?」


 瀕死の状態で横たわっている彼女を見下ろし、さすがに血の気を引かせる三人。


「バッババカ野郎っ!! いくらなんでもお前、助けるためったって……そんなお前……痴漢(強め)まがいなことぜぜっぜ絶対だめだ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だっ!!!!」

「しかしもうこれしか方法はないだろうっ!?」


 やはり絶対反対な六段と、仕方がないと主張するクロード。

 下の惨劇は幼女(見た目)という不可侵が対象だったため、スイッチを切ったが、今回はれっきとした成人女性(一応)。


「なのでコレは医療行為医療行為。大丈夫、コンプラには触れてない触れてない。ドキュメンタリードキュメンタリー…………」


 言い訳を呪文代わりに、しれっとカメラを回しているヨウツベ。


『……サイズと健康を考えると本当は前のほうが良いのだろうが……。あいにくソイツはまだ非貫通でな。……最初の男がクロード、お前(の腕)だと……いや、私はソイツの気持ちなど知らんが、なんかものすごく恨まれるような気がしてな……』


 スピーカーから神妙なモジョの声。

 なんかどころか確実に恨まれる。恨まれるどころが訴えられる。

 巨額な賠償金を請求される。そのうえ社会的抹殺。

 そんな未来に震え上がる三人。

 しかし、だからといってこのまま死なせる選択は――――さすがにない。

 なにがなんでも〝誰かがめくって治療行為〟をしなければならないのだ。


「だ、だ、だ、だったらお前がめくれっ!! お前が治療するんだからなっ!!」


 すかさずクロードに全責任を押し付けようとする六段。


「馬鹿か!? 俺はすでに手を突っ込むという大罪が決定しているんだよ!! 片棒はどっちかが担げっ!! 俺は一人で地獄に落ちる気はないっ!!」

「えぇぇ~~~~~~っ!?? ぼ、僕はさすがにまずいですよ!?? だって無職のアラサーですよ?? どうあっても言い訳できないじゃないですか??」

「バカ野郎、それをいうなら俺だってアルバイトだし、住所だって不定だし~~~~怪しさだったらこっちも負けてませ~~~~ん」


 ベロベロバ~~~~~~~~~~~~~~。

 むなしい言い争いをする二人。

 六段は頭をかかえて。


「わ、わかった……じゃあ、こうしよう……」

「「ん?」」


 ごろんとぬか娘をうつ伏せにする、そして三人に布を配った。

 受け取った二人はハテナ顔。


「……片棒は俺が担ぐ、そのかわり全員目隠しをしろ」

「目隠し? ……見なかったからといって到底許される罪じゃないと思いますけど……?」

「わかっとる!! しかしせめてもの誠意はいるだろう!! ワシたちはできる限りの配慮はした。ここから先はあくまで人命救助だ、もう仕方がないんだ!!」


 腹をくくって観念する。

 二人に向けて、いや、スマホ向こうのモジョに向けて念を押す。

 モジョからはなんの返事も返ってこなかったが、それは黙認の意思表示だろう。


「よ……よし……全員目は隠したな?」

「ああ」

「はい」


 返事つつも、カメラは回し続けているヨウツベ。

 これはわざとではなく自然に忘れていたのだが、目隠しが仇となって二人は気づいていない。

 六段は震える手で、ぬか娘の背中に手を触れた。

 そしてトタトタトタと指を歩かせてお尻の膨らみまでもってくる。

 ビキニパンツの縁に指が当たった。


「!! ……よし……ここだな。い、いいか……めくるぞ。じゅ、準備はいいかク、ク、ク、クロード……」

「う……お、お、おう~~~~……。ちょっとま……いや、大丈夫だ。え~~~~っとうん、大丈夫だ」


 迫るリアルにドギマギ動揺している三人。


 若い二人はともかく六段までも緊張しているが、いくら人生経験があろうとも、瀕死の女のパンツをめくってケ◯に手を突っ込むなど究極最低お下劣展開はさすがに初体験なのだろう。


 お尻の膨らみを包む皮の部分、足ぐりと言われる部位からめくることができる。

 そこに指をかけ、じりじり……じりじりと引っ張っていくと、やがてプルンとした感触が伝わってきた。

 片尻があらわになった感触。


「よ……よし、第一関門(?)突破だ。次だぞ、いいか、一気にいくぞ!!」

「…………あ、ああ、わかった!! ど、どんとこいっ!!」


 どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき。


 地獄(監獄)に落ちる覚悟を決めたクロードは、指先を目標に合わせ準備完了。 


 どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき。


 無事帰ったらすぐにでも痔の薬を買ってきてやろうと考えるヨウツベ。


 どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき。


 パンツがめくれていよいよ、ぬか娘の、小ぬか娘が、初お披露目しようとした。


 どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき。


 その瞬間――――、


『ところでさぁ』

 スピーカーからモジョの声。


「「「どきどきどき――――どうわわわわぁぁぁぁぁぁわわっ!!???」」」


 緊張を粉砕された三人。

 飛び上がり、腰を抜かして散り散りに転がってしまった。

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