第318話 執行

「な、なんだいお前は気持ち悪いっ!!??」


 目を光らせて絶叫するアニオタ。

 意味不明な汚物からいったん距離を取ろうと〝裏〟に逃げ込む油取り。


「ちょっと借りるでござるよ」

「お、おう……?」


 アニオタはクロードから聖剣を借りると――――つかつかつかザシュ。

 なにもない空間を切りつけた。


「ぎゃあぁぁああぁぁーーっ!! 痛ぁああぁぁぁぁっ!!???」


 するとその場所から油取りが転がり出てきて、痛そうにのたうち回った。


 はぁ!?? なんで!?

 なにが起こったっ!??


 クロードと油取り。

 ふたり同時、頭の上にハテナマークを浮かべる。


「しゅこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!??」


 レロレロベロベロと舌をくねらせながら近づいてくる変態デブ。

 全身に鳥肌を浮かべ、油取りは再び裏へと逃げ込むが。


 ――――くんかくんか、くんかくんか。

 アニオタのセンサーは、そんな油取りの動きを完璧に追従し――――ザシュ。


「ふんぎゃあぁぁああぁぁぁああぁぁぁぁっ!!???」


 またも見えない空間から油取りを引きずり出した!!


「なになに、なんで!? どうなってんの!?? なんで私の場所がわかるの!???」


 聖気に焼かれ、パニック気味に転がりまわる。

 そんな彼女に――――どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。

 全体重をのせて馬乗りになったアニオタは、


「……まずはいろはの〝い〟でござる」


 怪人ゲロゲロベロベロと化し、全身からピンク色のオーラをかもしだす。

 そして――――(合掌)


 ベロベロベロベロベロレロレロレロレロベロベロベロベロベロレロレロレロレロベロベロベロベロベロレロレロレロレロベロベロベロベロベロレロレロレロレロベロベロベロベロベロレロレロレロレロベロベロベロベロベロレロレロレロ!!!!

「あんぎゃああぁぁああぁぁぁああぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁああぁぁぁあぁああぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁああぁぁぁあぁああぁぁぁぁああぁぁあああぁぁぁあぁああぁぁぁああぁぁああぁぁぁああぁぁぁあぁぁっ!!??」


 全身を、上から下までくまなく舐め回しまくった。

 顔、首、脇、へそ、太もも、膝裏、足の裏。


「ぎゃあぁああぁぁぁぁぁぁっ!! 変態変態変態変態変態変態っ!!?? やめろやあめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろっ!!!!」


 臭い唾だらけにされて半狂乱になる油取り。

 大暴れしながら針でグサグサと反撃するが、効いているのかいないのか、ド変態は一向に怯むことなく、舌をタコの足のようにレロレロベロベロ。

 たまらず転がり離れて、三度みたび裏世界へと逃げ込むが、


「はい、そこっ!!!!」

 ――――ザシュっ!!!!

「ぎゃああぁああぁぁぁああぁぁっ!????」

 ベロベロベロベロベロレロレロレロレロ。

「ぎゃああぁああぁぁぁああぁぁっ!????」


 まるで迷うことなく逃げ道を見破り、続きをねぶる。


「な、なんで!?? なんであんた私の場所がわかるのさ!??」

「愚問っ!!!!」


 答えになっていない答え。

 そんなことよりとにかく舐めさせろと舌の動きを止めないゲロゲロベロベロ。

 ヨウツベは静かにカメラの録画を止めるとクロードに目配せした。

 言いたいことを理解したクロードはヨウツベとともに六段、ぬか娘と合流しザキエルの魔法を唱え始めた。


「あっ!?? バ、バカお前たち逃げるなっ!! こんなド変態を置いて逃げるなバカバカバカバカバカバカバカバカっ!!??」

「……悪いが、そいつには常識が通用しないのだ。お前はたしかに強かった。……しかし喧嘩を売った相手が悪すぎたようだな」

「ちょっとまって!! ちょっとまってって!! こんなのオカシイじゃん理不尽じゃん!! 聞いてないよ!! こんなバケモノチートいるなんて聞いてないよ!??」


 油取りの能力『世渡り』とは、空間一枚隔てた裏側の世界を行き来し、身を隠しつつ神出鬼没に攻撃を繰り出す暗躍特化の秘術。

 しかしアニオタにとってケモミミ美少女を隠す空間一枚の壁など、あって無いようなもの。それこそ第六感、いや、十感くらいまで働かせて気配を探る。

 さらに囚われし美少女に対する絶対的お約束イベントを流された怒りも加わって、その感覚は神にも匹敵するほどに研ぎ澄まされているはず。


 理不尽。


 そう。それこそアニオタの能力であり、けっして開いてはならないアニメオタクの深淵なる渦なのであった。


「……そして次は――――いろはの〝ろ〟でござるぅぅぅぅぅぅぅ↺」


 びりびりびりびりっ!!!!


「うぎゃあぁぁああぁぁぁああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁっっ!!??」


 着物が破られる音がした。

 脱がすわけではない。

 裾を切って太ももを露出させただけ。

 そして上半身は帯を緩め(けっして取るわけではない)肩を見せて、小さな上乳・下乳も見せる。しかし絶対に乳首は見せない。


 ケモ娘はあくまで純真純潔で、その先はプレイヤー(?)の想像力に委ねられなければならないからだ(断言)


「……ゆるせ。これもお前が招いた因果応報」


 これ以上は見てられない。

 クロードはザキエルの魔法を完成させると、他のを巻き込んで、落ちてきた穴から上階へと飛び去った。

 後に響くのは、


「ま、まってーーーーーーーーっ!! 助けてぇーーーーーーーーっ!!!!」


 という油取りの悲痛な叫びと、


「最後は〝は〟!! チミを逆さ吊りにしてキモオタ男のホニャララをホニャにラララしてンニャララを全開◯。◯。でクリア特典映像その①をまずは埋め尽くしてやるんにょほほほほほほほほほほほほほほほほ~~~~~~~~~~~~っ!!!!」


 アニオタの荒々しい鼻息だけだった。

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