第317話 正義とは

「……ふぅ~~~~ん……なぁんだ……意外と諦めがいいんだねぇ~~」


 格差を悟り、戦意を喪失したクロード。

 膝をついたまま動けないでいる。

 その心境を敏感に感じ取った油取りはつまらなそうに眉を歪めた。


「もがき苦しんでのたうち回る格好が好きなのにさ~~~~こんなんじゃあつまんないよねぇ~~~~。これだから大人って嫌い。もっと考えなしに足掻こうよ子供みたいにさぁ~~。おびえておくれよぉ~~~~小便たらしてさぁ~~~~くすくすくすくすくす」


 針をクロードの脳天に当て、最後の挑発をする油取り。

 しかしクロードは目を伏せ表情を作らなかった。

 負けるにしても無様だけは晒すまい。

 それは聖騎士にできる最後の反撃。


 油取りは心底不愉快に短いため息を吐いた。


「あ、そ。じゃあべつにいいや。また新しく子供さらって遊ぶから。じゃあねぇ」


 動かなくなった玩具に興味はない。

 さっさと壊してしまおう。

 サクッと脳を貫いて、それで終わり。

 興味を失った目で針を振り上げた。


「クロードっ!!」「くそう、バケモノがっ!!」


 ヨウツベの悲痛な叫び。

 六段もぬか娘を置いて飛び出すが、とても間に合わない。

 間に合ったところで対抗する術も思いつかないが。


 ――――やられてしまうか!?

 二人がそう思ったとき。


「んれろぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」

「うっひゃぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!??」


 とどめが刺さるギリギリのところ。

 背後からいきなり出現した糸引く臭い舌。

 油取りの頬を、んれろ~~んと擦り上げるように舐め上げた。


「んなんあんあんあなななんんあななあなっ!???」


 突然の超絶不快感にびっくりし、跳ねて転がる油取り。

 舐めた者の正体は説明不要。一人しかいない。


「はぁぁぁぁぁ~~~~……。ケモミミ美少女だと大目に見て……いやむしろでござるが……。貴重な少女を……まさかそんな残忍な……いやエロゲ界ではむしろ定番イベントござるが……しかしそれはあくまで様式美としてのセレモニーであって……ともかくチミに確認したいことがあるわけで……」


 ゆら~~~~り歩み出て。

 ぶつぶつ呟きながら、おかしなオーラを漂わせるその変質者、名はアニオタ。


 彼はずっと葛藤していた。

 性癖にドストライクな狐耳美少女、油取り。

 されど幾人もの少女を手にかけてきた。


 許すべきか。許さざるべきか。


 常人ならばそんな葛藤するはずがないのだが、彼は特別な人間。

 多少(イベント的な)イタズラをしたのち、苦しませずにほふったと言うのならば、それも悪魔の所業(むしろ良し)として受け入れたかもしれない。

 しかし単に怖がらせ苦しませた(だけ)で猟奇的に処分したというのなら、到底許せる話ではない。


「彼女らは……ちゃんと剥いたのでござるか…………?」

「――――はっ?」


 言葉の意味がわからない油取り。

 アニオタはもう一度、ゆっくりと質問をくりかえした。


「するべき『イタズラ』をして『役割』をまっとうさせてやったのでござるか。と、聞いているのでござる」


 真剣な目、それはケンシ◯ウの如く。


 この場でその意味がわかったのはクロードとヨウツベの二人。

 六段は、この変態がなにを言っているのか検討すらついていない。

 理解者の二人もさすがにドン引きしているというか……『マジかこいつ』と犯罪者を見る目を向けざるをえないでいる。


 アニオタは血の涙を流していた。

 少女が惨殺されていたことに対してのショックなのだろう。

 だからこれを現実とは受け止め難く、ゲームの世界と混同してしまっているのではないか?

 せめてそう解釈してやるしかない二人。


「イタズラ? も、もちろんたっぷり可愛がってあげたよぉ。聞いていただろう?」


 頬の、粘り気の強いおぶつぬぐいながら、後ずさる。

 油断していたとはいえ、この私の背後を取るなんて……こいつ……何者?

 真面目に考えた時点で負けていたのかもしれない。

 後に油取りはそう反省するのだが、いまは知る由もない。

 殺気に満ちた目でアニオタは唸った。


「そんなクソみたいな趣味を聞いているのではござらぬ。もっと意義のある、付加価値のある、全世界〇〇趣味お兄さんが狂喜乱舞リビドー全開床踊りするようなイベントを開催したのかと聞いているのでござるぅっ!!!!」


「し、知らないよそんなもの!! お前さっきからなにを言って!??」


「クリア後CG特典はあるのでござろうなっ!! シーン回想はあるのでござろうなっ!! 全分岐点で個別セーブはしているのでござるぉぉぉぉぉぉなぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!」


「し、してるわけないだろうっ!?? なんなのさっ!!??」


 まったく意味がわからない。

 有無を言わせない変態の迫力に圧され、冷や汗を爆流させる油取り。


「じゃあもうチミは役立たず決定~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ぃっ!!!! 無駄にストーリに走ったクソ展開!! いろはを知らぬど素人のチミは『くっ殺の刑』に処す!! 処すったらしょ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っす!!!!!!!!」


 どおぉぉぉおおぉぉぉおおおぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉんっ!!!!


 役に立たない聖騎士を蹴っ飛ばし、我らが正義の執行者アニオタがいま、爆裂する炎を背に立ち上がった!!

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