第316話 どうすることも……。
「……ヒール」
パアァァァァァァァァ――――。
自らのヒールで傷を回復するクロード。
押し出された針が地面に落ちる寸前、霧散して消えた。
「これも妖術ってわけか……?」
強い疲労感を感じる。
血は回復したが、魔力は消費したまま。
このまま刺され続ければ、いずれヒールも使えなくなるだろう。
それをわかっていて、にやにやと余裕に笑う油取り。
「いいねぇ~~いいねぇ~~そうこなくっちゃ。簡単に死んでくれちゃあ私、つまんないからねぇ~~~~あははははははははははははははははは」
まるで壊れない
ひとおもいに急所を突けば良いものを、わざと外していたぶっている。
「悪趣味だな」
「そりゃさ、長生きしてりゃ誰だって歪むよ。くふふふ」
――――ヒュッ――――ブスッ!!
また消えて、また刺された。
反撃する間もなく、また消えて――――ブズッ!!!!
また刺される。
「ほらほら、早く私を倒さないと。そこの淫乱娘が死んじゃうよ~~~~いいのかなぁ~~~~? 苦しそうだよぉ~~~? くふふふふふふふふふふふふふ」
よく言う。
エロゲ戦士を即死させなかったのも遊びの一つだったろうに。
この悪魔が本気になれば全員の頭を貫いて、そこで終わりなのだ。
さすがのクロードもそこをやられては回復できない。
――――ヒュッ――――ブスッ!!
――――ヒュッ――――ブスッ!!
――――ヒュッ――――ブスッ!!
――――ヒュッ――――ブスッ!!
だけどもそれをせず、まるで猫がネズミで遊ぶように、いたぶりを止めない。
舐めやがって。
しかしその油断と見下しは、格下にとってむしろありがたいこと。
ムカつく気持ちを抑え、クロードは冷静に対処した。
見えない相手、移動途中を狙えない相手に対抗するには――――、
――――ヒュッ。
七度目の突きを繰り出してきたとき、意を決し、捨て身の作戦に出た。
ザクッ――――「ん?」――――ブォンッ!!!!
刺されてしまうことを諦め、油取りが消えたと同時に回転斬りを繰り出す。
狙いは全周、360°。
刺してきたタイミングに合わせてがむしゃらに剣を一周してやった。
点で捉えられないならば線で捉る。
いくら瞬間移動しようとも、標的が俺なのだから、タイミングさえ掴めれば反撃のしようもある。
これまでの数回で、そのリズムを測っていた!!
「――――おやぁ!?」
狙い通り。
回した剣の先に油取りがいた。
――――とらえたっ!!
そう思った――――のだが、
「ざんねぇ~~ん」
「………………――――!!」
刃が首を斬る寸前、残像を残して油取りは消えた。
そして離れた場所に現れて、にや~~~~っと余裕の笑みを浮かべた。
「………………………………これは……まずいな……」
やはり思った通り、この程度の戦術など通用しないか……。
そうでなければ聖王国王子をもって評価などされていない。
捕縛不可能な瞬間移動に、一瞬の刃にも反応できる驚異的な反射神経。
まさに野生の狐の如く、迎撃不能な暗殺者。
それが上級悪魔、油取り。
「……なら、しかたがない」
クロードは戦うのを諦めて逃げ道を探した。
やはりどうあっても勝てないと諦めたからだ。
悔しいがここで判断を間違うほど馬鹿でもない。
こいつを倒す手順はカットする。
その上で全員を逃し、エロゲ戦士を回復させる。
それがいまの最善策。
そのための手段は一つ。
「聖なる
――――ゴッ!!!!
ザキエルの竜巻を呼び出した。
今度は小さくない、巨大な竜巻。
これに自分もろとも全員巻き込んで、上階まで逃げる。
アルテマの
それを期待して、いまは逃げの屈辱を選択する。
仲間――というわけではないが、コイツらを守りきれれば勝ちを宣言してもいいだろう。
いろいろ言い訳をしながらも竜巻の出力を上げる。
風がすべてを弾く壁となり敵の接近を許さない。
いくら瞬間移動しとうとも、現れたそこに鉄の強度と化した風壁があるのなら手出しなどできないだろう。
体が浮き上がったとき――――ズヌッ。
「ぐっ!??」
「だめぇよん~~逃げちゃぁ」
それでも刺された。
どこから?
正面から。
油取りは――――いない。
あるのは鋭利な風の壁のみ。
しかし針は深々とみぞおちに刺さり、背中まで突き抜けていた。
よく見るとそこに針を握った手首が浮いていた。
空間の裂け目から、手首だけが現れていた。
「――――……な……なんだと??」
「くすくすくすくす。……あんたなんか勘違いしてるねぇ~~~~?」
――――バヒュンッ!!!!
風船が割れるように、弾けて消えてしまうザキエル。
貫かれた痛みが、魔法の集中力を引き裂いてしまった。
大ダメージをもらって両膝から崩れ落ちるクロード。
そんな聖騎士を、空間の割れ目から見下ろして勝ち誇る。
「いったでしょう~~~~? 私の能力は『世渡り』だって。空間の裏側を移動するって~~~~。くすくすくす。風の壁だか知んないけど『裏の世界』にはそんなの関係ないって、当たらないって~~~~きゃはははははははははは」
「………………………………げほっごほっ!!」
びしゃびしゃと血を吐き出す。
風を避け、俺の体との僅かな空間に手だけ出したのだろう。
そんなことまでされてしまっては、いよいよ本当に打つ手が無い。
たとえアルテマの炎であってもそれは同じこと。
逃げることもできない。
攻撃も当てられない。
どんな防御も、隙間を縫って襲ってくる。
「……やっぱりな…………」
プライドの高い自分が負けるかもしれないと予感した相手だ。
まったく地味だが、つけ入る隙がない。
クロードはあらためて実力差と敗北を確信した。
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