第311話 人さらい

「う……? う、うう……??」


 まわりを取り囲む無数の蛇を見て、ヨウツベは言葉を失った。

 叫び声を上げなかったのは事前に婬眼フェアリーズからこの情報を聞いていたから。

 だけども、だからといて対処法があるわけではなく、ただ恐怖で固まっただけ。

 少し離れたところにはアニオタと誠司、それと六段が倒れていて、すでに蛇に噛まれていた。

 三人ともぐったりとして動かない。


「みんなっ!?」


 咄嗟に助けに行こうとするが、その肩を誰かに掴まれた。


「まて、ヘタに動くな」


 クロードだった。


「ク……クロード? 大変だ三人が蛇に!!」

「わかってる。あのデブが先に落ちて蛇どもを引き付けておいてくれたから、俺たちは助かったようだな。二人は落ち所がわるかった……」

「……そんな…………」

「まだ死んでいないなら問題無い。……この蛇どももただの毒蛇だ」

「ただのって……でも毒蛇なんだろう? どうするんだい?」

「どうもこうも……蛇ぐらい聖騎士たる俺にかかれば虫けらだ」


 クロードは呪文を唱えると手に風を宿した。

 それはザキエルの渦だった。


「ど、どうするんだ??」

「こうするんだよ」


 コマを投げるように腕を振る。

 すると小さなザキエルは石床を這うように進み、

 ――――シュゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!

 蛇たちを吸い込み、渦内に取り込んだ。


「それ」


 続けてその渦に、天高く舞い上がるよう指示をする。

 すると渦はクロードたちが落ちてきた穴に向かって一直線に上がっていき、やがて見えなくなった。

 そして――――シュゴシュゴ、シュゴオォォォォォォォオォォォォオォォォッ……。

 同じ渦をいくつもつくると、どんどんどんどん蛇たちを飲み込んでいく。


「ダ……ダイ◯ンかな?」

「だれかサイクロン型掃除機だ。……まぁやっていることは同じだが」

「で、でも上に捨てちゃって大丈夫かな……あっちにはアルテマさんが……」

「突き落とした相手の心配をするなお人好しめ。あいつなら蛇ごとき黒炎竜刃アモンの一撃で丸焼きにするだろうよ」

「そ……そうだろうね」


 やがて一匹残らず掃除すると、残ったのは真っ青な顔をして泡を吹いている三人だけになった。


「まったく……世話のかかる」


 ため息混じりにヒールを唱える。

 キラキラ光る三人の体。

 みるみるうちに血の気が戻ってきた。


「……ヒ、ヒールって毒も消せるのか……?」

「魔法によって自己治癒能力が一時的に強化される。それが毒を消しているだけだ」

「そうなんだ……?」

「そんなことよりも、上へ戻る方法を考えろ。ここは恐らく侵入者のゴミ捨て場だろう? このままでは俺たちはずっとここに足止めになるぞ?」

「そ……そうだね。……でも」


 ヨウツベはライトを回した。

 四方を確認してわかったのは、ここが完全に行き止まりの空間だったこと。

 部屋は正方形で一辺が50メートルくらいある大きな大きな部屋だった。

 天井も高く10メートルはある。

 落ちてきた穴は壁の途中にあり、斜めに、滑り台のようになっているようだ。


「妙だな……」


 穴の形状を見て疑問に思うクロード。


「そう……だね」


 ヨウツベもうなずいた。

 侵入者を始末するだけならば、直線に落下させ床に叩きつければいい。

 なのにわざわざ角度をつけて落とし、衝撃を和らげようとしているのはなぜだろう? まるで殺す気はないと言っているようにも感じるが……?

 と――――。

 ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご。


「「!?」」


 石の擦れる音がして、壁の一部が下にスライドしていった。

 空いた空間は暗く、奥が見えなかったが、トラック一台通れるくらいの大きさがあった。


「な……なんだ?」


 怯えつつカメラを回すヨウツベ。

 クロードはただならぬ気配を察し、前に出た。

 すると暗闇の奥から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 いや、聞き慣れてはいるのだが、いつもとはあきらかに雰囲気が違う。

 まるで別人のように艷やかな声色。


「なぁ~~~~んだ。蛇たち処分されちゃったんだ……つまんないなぁ」

「……え?」


 現れたのは、


「ぬ……ぬか娘!?」


 ハレンチなビキニアーマー姿。

 いつもなら多少は恥ずかしそうにしているが、いまはむしろ誇らしげに肢体を見せつけ、怪しげに胸をそらしている。


「わざと弱っちい蛇に噛ませて~~~~。じわじわ苦しめていくのが楽しかったんだけどな~~~~くすくすくすくす……」


 小馬鹿にしたように笑いながら、腰をゆらして歩いてきた。

 あからさまに怪しい雰囲気。

 目は誘うように笑ってはいるが、どこか虚ろ。

 戸惑うヨウツベを後ろに、クロードは剣を抜いて構えた。


「お前……エロゲ戦士ではないな。……どこの『悪魔』だ?」

「ん?」


 聞いたぬか娘(?)は立ち止まり、嬉しそうにクロードを見る。


「……へぇ~~あんたわかる系なんだ? ああ、そういえばジュロウ様に突っかかってきてたバカが一匹いたわねぇ? それってもしかしてあんた?」

「バカが適切ならば俺ではないな」

「あんたしかいないって……くすくす……。……いいよ、わかってんなら名乗ってあげる。私は悪魔『油取あぶらとり』隠し神の油取りさぁ~~」


 れろ~~ん。

 油取りと名乗った悪魔。

 胸の谷間から太く大きな針を抜き出すと、そこからしたたる油を扇情的に舌で舐め取ってみせた。

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