第304話 解除の試練④

「暗黒騎士をナメるな、クソ天使風情が!! クロード、あとの始末は任せたぞっ!!!!」

「だから待てってっ!!!!」


 襲い来る力天使ヴァーチュース

 アルテマたち8人にそれぞれ3体ずつ向かい、無感情に剣を突き刺してくる。

 これには手負いの六段、クロードはもちろん。元一、偽島も抵抗しようがない。

 アニオタ、ヨウツベが抱き合って、誠司が万事休すを覚悟した。


 アルテマが何をしようとしているか皆目検討つかないが、こんな状況、切り抜けられる策などありはしない。

 あったとしても、全員無傷でなど絶対に済まない。

 涙目でそう思った誠司。

 振り下ろされる力天使ヴァーチュースの剣の向こう側で、クロードがヒールの魔法を準備しているのが見えた。


 そしてアルテマの体を包む、真っ黒な業火。

 ギチギチに圧縮されたそれを見て誠司もなんとなく、直感で理解した。


 ……ああ、この子はやっぱり鬼。そして暗黒騎士なんだ。

 ヘンに納得した直後。


「もろともまとめて燃やし尽くせ――――黒炎竜刃アモンっ!!!!」


 ――――ドッ――――ガァアアァァァァァアアアァァァァァアアァァァァァアアアァァァァァアアァァァァァアアアァァァァァアアァァァァァアアアァァァァァアアァァァァァアアアァァァァァアアァァァァァアアアァァァァァアアァァァァァアアアァァアアァァァァァアアアァァァァァアアァァァァァアアアァンッ!!!!


 黒炎竜刃アモンの爆発が起こった!!

 ――――アルテマを中心としたその場で。


 爆炎は敵味方一切関係なくすべてを焼き尽くし、吹き飛ばし、粉砕した。

 力天使ヴァーチュースはすべて消滅し、光の玉に。

 後に残ったのはクレータの中心で丸焦げになって気を失っているアルテマと、同じく焼けて瀕死の仲間たちだった。





「……お前なぁ……いい加減にしろよ」


 目覚めたアルテマを見下ろし、真っ黒な顔で文句を吐き捨てるクロード。

 ヒールで治療された体はすっかり治り、火傷の跡も残っていなかった。

 元一、偽島、六段もすでに回復して、目覚めたアルテマにホッとした笑みを向けていた。


 黒炎竜刃アモンの爆風で吹き飛ばされた周囲は、ごっそりと土がえぐられ木々が千切れ飛んでしまっていた。


「……どうやら、うまく切り抜けられたようだな。みんな無事か?」


「無事か? じゃないだろう!! なにがうまく切り抜けられただ!! こんなものただの自爆攻撃だろうが!! 貴様よくもそんな品性もクソもない作戦に俺様を巻き込んでくれたものだなっ!! どうしてくれる、これ古着で高かったんだぞ!!」


 クロードも自分のヒールで回復しているようだが、焼け焦げた服はどうにもならない。良い感じにダメージの入ったジーンズを履いていたが、いまはダメージというかもう半ズボン状態になっていた。Tシャツもボロボロで乳首がオハヨウと言っている。


 アルテマも自分の服を確認したが、さすが巫女服は頑丈で多少焼け破れてはいたが大事なところはしっかりと守っていてくれた。(へそは出ている)


「……我々帝国騎士は同士討ちなどを気にして手を緩めることはない。そうなればその場全員の責任として玉砕の道を選択する」

「俺は聖騎士なんだよ!!」


「まぁまぁ……クロードよ。全員無事だったのだから良かったじゃないか。今回はお前もお手柄だった。饅頭の薄皮一枚分くらいは見直したぞ」


 肩を叩いてやる六段。


「俺はけっこうやってるぞ!? 実は一番活躍してるかもしれないと思っているからな!!」

「わかったわかった。じゃあ今度、猪鍋でも食わしてやる」


 アニオタやヨウツベ、誠司はいまだ固まって震えている。

 回復してもらえたとはいえ一瞬でも焼き殺された恐怖はきっとトラウマになっているだろう。

 元一と六段、偽島はさすがに肝が座っている。

 アルテマの判断に腹を立てたようすはなく、むしろあの場面で躊躇ためらいいなく危険な判断ができたことを頼もしく思っていた。


「ソロネは消滅したか……?」


 元一が空を見上げる。

 開いていた亜空間への裂け目は消え、ソロネも消えていた。

 しかし、


「いや、まだ……いる」


 クロードが呟いた。

 アルテマも驚いてはいない。

 倒したならば漂っているはずのヤツの魔素がなかったからだ。


 ――――ギュオォォォォォォッ!!


 空間の一部が歪む。

 その歪みから絞り出されるように光がにじみ出てきた。

 光は形を整え、燃える車輪の形になった。


「どうして、どいつもこいつも……中ボスっていうのはしぶといんだ……」


 うんざりとした目でため息を吐くアルテマ。

 車輪の中に現れたのはやはり上級天使ソロネ。

 静かに呪文を唱えるアルテマ。

 強烈な一撃を放ったとはいえ、まだ魔力は残っている。

 そんなアルテマにソロネは手を広げて、制止の意志を示した。


「……?」

『力アル者ヨ、免許ヲ認メム。王ノネヤニ入ルベシ……』


 ――――ゴコ……。


 後ろで何かが割れる音がした。

 振り返ると、文様の岩が跡形もなく消えていた。

 再び空を見上げるとソロネも消えて、空間の裂け目も無くなっていた。


「……認められたようだな。さしずめ王家の墓守ってところか?」


 偽島が銃を収めた。


「あんなものが守っていたのなら、これまで誰も源次郎を掘り起こせなかったのもうなずける。なあゲンさんよ」

「そうじゃな」


 頭をかく元一。

 あのとき占いさんに止められていなければ自分は今頃どうなっていたか。

 頭を叩かれた意味がいまわかった。

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