第302話 解除の試練②

「……ちょ……ちょっと……な、なんですかこれ!??」


 裂け目から一体、二体、三体と天使が現れる。

 銀色に輝く鎧を身につけたそれらは力天使ヴァーチュースと呼ばれる戦闘に特化した神の兵隊。

 誠司は抜けた腰を引きずってアルテマの背に隠れた。


「……それは私が聞きたい。どういうことだクロード」

「どうやらトラップが発動したようだな。解除に失敗すると不審者とみなされ排除される仕組みらしい」


 睨むアルテマ。

 解せぬ、と仏頂顔のクロード。

 つまり自分の魔力では失格だったということだ。


「お前、余裕しゃくしゃくだったじゃないか!!」

「知らーーーーーーーーん!! だって王族の封印だぞ!? そんな簡単に解けるわけないではないか!! 俺は悪くなーーーーーーーーい!!」

「最低か、なんだその言い訳は!!」

「喧嘩している場合じゃない、来るぞっ!!!!」


 掴み合っている二人を怒鳴る元一。

 力天使ヴァーチュースたちはそれぞれ剣を抜き不審者を排除しようと目を光らせた。


『……ハカアラシメ……カミノサバキデ、ジョウカシテクレヨウ』

「誰が墓荒らしだ。アルテマ、こいつら退治してしまっても構わんよなぁ?」


 ホーリークロウを装備した六段が嬉しそうに指を鳴らした。

 アルテマも竹刀を抜き、クロードも勇者の剣を構える。

 二人ともそれぞれの加護は付与済み。


「ああ、問題ない。しかし…手強いぞ?」

「倒したら魔素は回収させてもらうぞ。……どうやら俺は本調子ではなかったようなのでな……ふっ……」

「また見苦しい言い訳を……」


 悪魔の魔素を吸収し魔力に変換するのが魔族と呼ばれるアルテマたち帝国国民。

 天使の魔素を吸収し魔力に変換するのが神族と呼ばれるクロードたち聖王国民。

 異世界ではこの二派閥を中心に魔法世界が区切られている。


 なので天使はクロードにとって魔力の素。アルテマにとっての悪魔のようなものなのである。

 睡眠でもある程度回復できるが、ここ最近のこき使われようは異常。

 クロードの言い訳もあながち間違っていない。


『カクゴセヨ』


 ――――ドドドッ!!!!

 問答無用。三体が一斉に飛びかかってきた!!


 一体がアルテマ。

 もう一体がクロード。

 最後の一体を六段が迎え撃つ。


「ちょこざいなっ!!」


 ――――ギャンッ!!


 物凄い勢いで突き出された剣。

 六段はそれをホーリークロウで受け流す。

 そのままの勢いで力天使ヴァーチュースの懐に潜り込み、


「ぜいあぁっ!!!!」


 渾身の正拳突きをお見舞いする!!

 ――――ズドゴッ!!!!


『――――!??』


 ホーリークロウは聖属性。

 なので上位属性である天使には効果が薄いはずなのだが、


 ――――ドグワラッシャァァァァァンッ、バキバキメキッ!!!!


 分厚い鎧ごと粉砕し、吹き飛ばす!!

 体に大穴を開けられた力天使ヴァーチュースはそのまま霧散し、光の玉となり空に漂った。


「ほう?」

「ろ……六段??」


 まさか一撃で葬るとは思っていなかったアルテマ。

 目を丸くして六段を見た。


「意外そうな顔をするな。最近、悪魔憑きの仕事で散々悪魔共の相手をしているからな、昔の実践感覚が蘇っているだけだ。天使だろうがなんだろうが敵になるならブチのめすだけよっ!!」


 うわはははははっ!!!!

 笑いながら力こぶを見せつけた。

 勘を取り戻したというか、もしかしたら経験値を稼いでレベルアップしたのかもしれない。



「それは頼もしいことだ――――なっ!!!!」


 ――――ギキャンッ!!!!

 アルテマも加護の竹刀にて相手の剣を弾くと、


黒炎竜刃アモンっ!!」――――ズドゥヌッ!!!!


 うまく背中に回り込み悪魔の炎を叩き込んだ。

 こちらも声もなく、一撃で蒸発する。

 天使狩りはアルテマの得意とするところ。

 九層存在する天使のヒエラルキーにおいて、力天使ヴァーチュースは五層。

 悪魔に例えれば中級悪魔に匹敵するが、覚醒したアルテマにとってはまるで相手にならない。


 そしてクロードは、

 ――――ザシュゥッ!!!!


「痛ったぁっ!! ぁ痛ったぁっ!!??」


 蹴っ飛ばされ背中を斬られて転げ回っていた。


「……なにやっとるんだアイツは」

「……まぁ……相性が悪いからなぁ……」


 クロードの得意魔法は光魔法ラグエルと風魔法ザキエル。

 二つとも実体のある敵には威力があるが、精神生命体である天使や悪魔には効果は薄い。

 剣にかかっている加護も聖属性で、本家の天使には魔法の強度で負けていた。


「な……なぜだぁ!! 六段じじいが通用して聖騎士オレさまが負けるとは!! そんなことがあってたまるかぁ!!」

「敵の装備を破壊するのが得意技のお前だ、どうせそのぶん白兵戦の鍛錬を怠ってきたのじゃろう」

「ぐっ!!」


 ――――ガァアァァァァンッ!!!!

 響く炸裂音。

 魔属性の加護がかかった銃弾は、綺麗に天使の眉間を貫いた。

 後ろで敵の動きを冷静に見極めていた元一。

 おもにアルテマの援護をしてやろうと構えていたのだが、よりによってこのバカを助けてやることになろうとは……。


「……礼はいらんぞ、気持ちの悪い」

「い、言うかぁ……魔族の親めがぁ……」

「なんじゃと? 面白い態度じゃのう奴隷風情が」

「喧嘩をするな二人とも――――どうやらそんな場合ではなさそうだぞ?」


 二人を叱るアルテマ。

 しかしその目は二人ではなく、空に向いていた。

 見上げるとそこには、さらに大きな空間の裂け目が開いて、


「……少し、厄介なやつが現れたかな」


 中からさらに十数体の力天使ヴァーチュース

 そしてそれらを従えるように、一際豪華な鎧を纏った天使がゆっくりと現れた。

 それは第三層・座天使ソロネと言われる上級天使だった。

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