第301話 解除の試練①
「なぜだ!? どうしてよりによっていま、あいつは裏山へむかった!?」
ぬか娘を追って、裏山へと走るアルテマたち。
むやみに
彼女の考えがわからず怒る六段。
「……いや、もしかしたら……やられたかもしれない」
「なんじゃ、どういうことじゃ!?」
アルテマのつぶやき。元一が聞いてくる。
背には堕天の弓と、手には
「
それを聞いた全員がショックを受けるが、裏山へ向かったとわかった時点からそんな予感はしていた。だからショックというよりは苦渋の気持ちが強い。
「どういうことや!? 今日一杯は手出ししない約束と違うんか!?? ゼエゼエ……ヒック」
「……約束は龍穴を……閉じない。ということ……だ、だけだ……ひぃひぃ」
酔っ払いの飲兵衛と極度に運動不足のモジョは送れてしまっている。
節子と占いさんは遥か後ろ。
「お前らはいい!! 万が一の時は連絡するから校舎で待機していてくれ!!」
四人にそう叫ぶ六段。
どのみち非戦闘員の三人はここから先は危険である。
少し走ると坂の途中に横道があった。
ぬか娘の匂いはその先に向かっている。
そこには小さく文様の描かれた岩があり、それは源次郎の躯へと続く洞窟、その入口となる扉だった。
「ぬか娘は!? ……どこにもいないぞ!??」
みんなで周囲を探すが彼女の姿はどこにも見えない。
アルテマが再び
「くんかくんか!! この岩の向こう側に行ったようでござるな!!」
変態レーダーのほうが早かった。
なにか無性に屈辱を感じるアルテマだったが、いまはそれよりも、
「アルテマ、これの開け方がわかるか?」
「……いや。しかし……これは…………」
元一の問い。
アルテマは、岩に書かれていた文様に見覚えがあった。
これはたしか聖王国の……。
「ああ、王家の紋章だ」
「……やはりな」
クロードが前に出てくる。
アルテマはこれで確信した。
やはり源次郎はかつての聖王国王子ジュロウだったのだ。
そして
封印に使われた聖刀は聖剣ボルテウス。
異世界で追い詰められたナーガはこの地に転移して
「クロード。たのむ」
「ああ」
アルテマはクロードに場所を譲り、一歩下がった。
――――そしてしばらく沈黙が流れる。
「ん? 俺は何を頼まれたんだ??」
真顔で振り返るクロード。
ガタガタとずっこける一同。
「いや、だからその岩を開けてくれって!!」
「俺が? ……どうやって?」
「いや、だから聖王国の紋章だろ!? だったらお前が詳しいんじゃないのか??」
かじりつきそうな勢いで胸ぐらを掴むアルテマ。
しかしクロードは心外そうに首を振り、
「いくら聖王国随一にして唯一の英傑である俺様でも、王家の紋章による封印をそう簡単に開けられるわけがないだろう?」
「いばるな!! 聖騎士ならなにか知っているだろ!? 鍵があるとか呪文を唱えるとか!!」
「……お前はなにか? 日本人なら全員、日本銀行の金庫の開け方を知っているとでも思っているのか?」
「ぐにゅにゅにゅにゅ……」
バカに論破され歯ぎしりをするアルテマ。
反論の言葉を探していると、
「……占いさんは、呼ばれた本人ならば開けられるだろうと言っていたが……?」
元一がそんなことを言ってきた。
そしてみんなの注目が集まる。
アルテマは矛先が自分に向いて戸惑った。
「いや……そういわれても……なぁ……」
わからないものはわからない。
とりあえず手を触れてみるが、ジトッとした湿気とひんやりとした冷たさしか感じない。押しても引いても、広げようとしても微動だにしなかった。
「くっ……だめだ、ビクともしない……
「誘い込まれたのなら
岩を触り、解析するクロード。
彼が触れると文様が溝にそって青くひかり、その光が流れるように渦巻いて消えていった。
「わかってるんじゃないか!? じゃあ早く開けてくれよ!!」
「いま理解したんだよ。……ふむ。これはあれだな。意外と単純な仕掛けだな」
「ほおほお……いいですね。絵になりますね」
そんなクロードの後ろでカメラを回すことを忘れないヨウツベ。
クロードは右手に魔力を溜める。
魔法に変換される前の純粋エネルギーである魔力は、そのまま術者の力量を測る物差しになる。
並の術者ならば拳が輝く程度。
クロードはその光が一メートルほどの大きな球体になっていた。
「……ほう?」
まずまずだなと感心するアルテマ。
とはいえ……思っていたよりも若干弱かった。
「……これは一種の〝試し〟だな。封印よりも強い魔力を当てれば解除される。つまり弱い者は門前払いって仕掛けだ。は、小賢しい」
余裕の笑みを浮かべ、岩に触れるクロード。
すると――――バキャァンッ!!!!
激しい炸裂音がして封印が砕け――――るかと思いきや。
「ん?」
―――――ヌゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
代わりに背後の空間が裂けて、中から一体の羽の生えた人間が現れた。
それは神に使える従者、天使という精神生命体だった。
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