第300話 変身☆怪人ゲロゲロベロベロ

「……こんな武器が本当に通用するんでしょうか……?」


 不安な表情でヨウツベがつぶやく。

 校庭に乗り付けられた幌付きのトラック。

 その中には現場監督の他に二人の部下と、大量の銃火器が詰められていた。


「わからねぇ。けど課長の指示だし、なにより真子ちゃんを取り戻すために戦うってんだろ? ……だったらヤルしかねぇ……だよなおめぇらぁっ!!」

「おうっ!!」


 監督の気合に、妙なテンションで応える二人。

 三人はカチコミ前の893ばりに覚悟が出来上がっていた。


「ん~~~~……?」


 気合はわかるが、難陀は悪魔。

 つまり実態のない精神生命体で、物理攻撃はほとんど意味がない。

 そのあたり偽島も理解しているはずだが……?


「そいつは大丈夫だぜ。クロードに頼んでロンなんとかって魔法の加護をかけてもらってる。弾も全部にだ。これなら相手がどんなバケモノでも一撃で吹き飛ばしてやれるぜっ!!」


 息巻いて監督が担いだのは小型バズーカ。

 アニオタに言わせれば『M72 LAW対戦車ロケットランチャーでござる!!』と怒って訂正しそうだが、まぁ一般的にはバズーカである。それらには全てクロードの聖魔法『ロンギヌス』の加護がかけられているようだ。


「ふ~~~~ん……まぁなら、ないよりはマシかな……? 戦闘をするつもりはないらしいですが……もしそうなったら頼みますよ?」

「ああ、任せとけ!!」


 とはいえ、交渉に行くメンバーは決めている。

 アルテマ・元一・偽島・クロード、この四人だ。

 アルテマと元一は当然。偽島も被害の当事者として。

 クロードは盾役として同行させるらしい。


 役割に納得いかないクロードだったが『俺様一日自由券』を使われてしまい文句が言えなかったようだ。

 なので他のメンバーが武装する必要はないのかもしれないが、しかし万が一、難陀なんだが暴れようでもしたら何が起こるかわからない。用心するにこしたことはないのだ。


「ていうか、だったらもっと人数が来てくれてもいいと思うんですが……」

「それがなぁ、前回の河原での戦いとゾンビ騒ぎでウチの連中もすっかりビビっちまってなぁ……」


 100対3で壊滅させられてしまった河原での激闘。

 あれで組員の心はほとんどへし折られていた。

 バケモノだと恐怖した蹄沢の老人。

 それが殺されかかったほどの悪魔に自分たちのような雑魚がいくら束になっても無意味と怖気づいたのだろう。

 監督は面目ないと頭を下げた。


「いやまぁ……その判断で正解だと思います。監督さんたちも無理と思った場合、全力で逃げてください。そのほうがきっと生存率が高い」

「おいおい……情けないこというなよぉ~~」


 苦笑いしてタバコを吹かす監督。

 知らぬが仏。難陀なんだを眼の前にしたらそんな余裕はなくなるぞ?

 一度対峙した自分だからわかる。

 本当ならカメラを回して、これから起こる全てを記録したい。

 しかし再びあの目――――圧倒的捕食者の目で見下されたら思うと……恐怖でどうしても体が動かない。

 それほどの畏怖いふをあの一回で植え付けられてしまった。

 情けないと言われても、返す言葉はないが。

 そんなとき――――、


「お~~~~い……」


 パタパタとモジョが校庭に走り出てきた。


「どうしたんだい? そんなに慌てて……珍しい」


 モジョが走っているところなんて初めて見た。

 これはこれでレアだなとカメラを回すヨウツベに息を切らせたモジョは言った。


「ぬか娘を見なかったか!? 昼からずっと姿が見えないんだ!!」





 時は夕暮れ、日が山の影に隠れようとしていた。

 アルテマたちは、いなくなったぬか娘を探して集落中を走り回っていた。

 偽島やクロード、村長の誠司も一緒。


「いたか!?」

「いや、いない……」


 いったん校庭に集まり、確認し合う。

 しかしみな首を振るばかり。


「どっかで粗大ごみおたからでも漁ってるんじゃるないのか、呑気によ」


 六段がお気楽に言うが、


「携帯も繋がらないんだ、それはおかしいだろう?」


 モジョが反論する。

 普段ならこんなことで大騒ぎしないのだが、時と場合が悪すぎる。


「社員に確認した。村や街にも出ていないみたいだな」


 難しい顔をしてメーセージアプリを閉じる偽島。

 もし出かけていたのならあの格好だ、嫌でも人の目に止まる。

 復興作業で街中に散っている作業員全員が見ていないというのだ。ならば街にはいないだろう。


「ほんなら……あとは……」


 嫌な予感しかしないと、裏山を見上げる飲兵衛。

 モジョは懐から一枚のハンカチを取り出すとアニオタに嗅がせた。


「ぬか娘のハンカチだ。これでなんとか探し出せないか……?」

「そんな……警察犬じゃないんですから」


 呆れる誠司。

 アニオタも不機嫌な顔をしている。


「バカにしないでほしいですな。真子殿の靴の匂いならば余裕で判別できるでござるが、成人女性のハンカチなどには興味がござらん。おととい来るでござるよ」

「おい、いま聞き捨てならないことを言ったか!??」


 般若の顔でアニオタを睨む偽島。

 モジョはそれならばと、もう一枚布切れを取り出した。


「あいつの洗濯前、脱ぎたてパンツだ。これで一つ頼む」

「匂いは裏山へと続いているでござる」


 瞬殺。

 そして奪われる脱ぎたてパンツ。

 よく考えれば婬眼フェアリーズを唱えてもらえば良かったんだな。

 気付いたのは美味しく丸呑みされた後だった。

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