第299話 嫌な予感
鉄の結束荘。
その屋根に上りアルテマは集落を眺めていた。
昼を少し過ぎたけども日はまだ強く、遠くの方でソーラーパネルがギラギラと光っていた。
忌み嫌っていた光だったが、因果なもので、今はあれが最後の切り札として集落の守りとなっている。
アマテラスの陣。
過去に使用され、効果が無かったのかもしれない。
占いさんはそう言ったが、アルテマ的にはそうでもないと思っている。
誠司から託された研究ノート。
そこにはこう書かれていた。
『地を貫き天を焦がすその力は、誰もその真価をみること叶わず』
つまり誰も使いこなせなかったと解釈もできる。
ソーラーパネルの科学的構造は大雑把には理解した。
科学では測ることのできない神秘な力〝太陽の精霊力〟を利用するものではなかった。
しかしアルテマには感じることができる。
あの黒光りする御鏡の中に秘められた膨大な太陽神の力を。
そしてそれを降臨させるには並の人間では荷が重すぎると言うことを。
自分も元はただの人間。
しかし今は鬼となり魔神級の力を行使することも不可能ではない。
「……身が持つかわからないが……使わないにこしたことはないな……」
必ず封印を解いてやる、と約束をしたわけではなかったが龍穴を開いてもらった時点で取引をしたようなもの。そこを言い訳するつもりはない。
きっとヤツは怒り、攻撃してくるだろう。
わかっているのなら会いに行かなければいい。
モジョはそう言ったが、それこそ不義理。
暗黒騎士の名を汚すようなことはできない。
それに、できることならば新たな取引も持ちかけたい。
だから最大限に用心し、話し合いにいく。
結果、戦闘になるのならば全力で相手をするしかない。
「ひと ふた み よ いつ む なな や ここの たり もも ち よろず ふるへ ゆらゆらと……」
最後の言葉は唱えずに復唱する。
占いさんから教わったアマテラス召喚の呪文。
意味はわからないが『ふるべの神言』という古代の呪文らしい。
とある格好で踊りながらこれを三度唱えよと。
「ぶるぶるぶるっ!!!!」
悪寒を感じて首をふるアルテマ。
胸を押さえて丸まってしまう。
「まぁ……これは本当に最終手段だ……使うつもりなど、ない」
「真子さん、いますか!?」
ジルが慌てた様子で部屋に駆け込んできた。
魔法言葉の勉強をしていた真子は驚いて筆を止めた。
「どうしたのですかジル様。皇宮収蔵室に籠もってらしたのではありませんか?」
「はい、用事は終わりました。すぐに出発します、準備してください」
「はい? 準備って……どこに?」
「奈落の峡谷です。あなたを日本へ返す手段が見つかったかもしれません」
告げると、ジルは有無を言わさず荷物をまとめさせた。
「ジ、ジル様!! 帰る手段って!?」
乱暴に早駆けする馬に必死にしがみつく真子。
すぐ前にはジルが走って、後ろには護衛のアベールとカーマインもついてきてくれている。荒い気配を感じ取った小物悪魔や魔物が襲いかかってくるが、ジルの魔法と騎士二人の剣ですべて返り討ちにしていた。
「渓谷の謎がわかりました。……信じがたいことですが、
「書? 書とはなんだったのですか!?」
「歴代皇帝の日録です。そこに1000年前に書かれた録もありました」
「それって……?」
「はい。オリビィ伝説にあった三代皇帝アシュナ・ド・サイラス様の手記です」
「なんて書かれていたので――――あイッた!?」
激しく揺れる馬の背で顎を打ってしまう真子。
まだ異世界にきて一月と少し。
それまで馬になど乗ったこともなかった娘が、この速さに振り落とされないだけでも大したもの。
これも鬼の才覚かと恐れつつ、並走し馬を安定させてやるアベール。
「あ……ありがとう、アベールさん」
少し顔を赤らめてお礼を言う真子。
アベールは彼女の背を優しく撫でて力を抜いてやる。
「この速度で会話は困難でしょう。先にアルテマへ報告します」
ジルは携帯を取り出すと
カランコロ~~ンカランコロ~~ンカランコロ~~ンカランコロ~~ンカランコロ~~ンカランコロ~~ンカランコロ~~ンカランコロ~~ン。
いくら呼び出し続けても応答してくれる気配はなかった。
「……おかしい、繋がりませんね。これはどういうことでしょう??」
やがて画面に『接続できませんでした』と文字が現れ、困惑する。
まさか
いいや、この通信はそれとは別ルートで繋がっている。
胸騒ぎを覚えながらも止まることができず、ともかく走るしかないジルだった。
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