第298話 どちらにも感謝
「……偽島の気持ちも痛いほどわかる。しかしこれは……ともすれば、こちら世界全体の危機に繋がりかねない問題なのだ」
アルテマとて
偽島に負けず始末したいと思っている。
「しかしアルテマよ。ヤツをそのままにしておいても生贄という犠牲は出続けるだろう。それはどうするつもりだ?」
「クロード……それは……」
苦い表情でうつむくアルテマ。
言い辛いことだが、しかしはっきりとしなければならない問題
「大災害を防ぐには……多少の犠牲は致し方ないと考えている」
「ふん。帝国兵らしい考え方だな」
侮辱の言葉を吐き捨て、背もたれを鳴らすクロード。
しかし相応の覚悟をもっての決断なのは理解した。
ここのところ二転三転、意見を変えるアルテマ。
それだけ私怨と戦っているということだろう。
それがわかるクロードは自分の都合だけを主張するわけにもいかず、ひとまずは黙り込む。
「し、しかしアルテマさん。
誠司が聞いてきた。
「伝承が本当なら、帝国はヤツ一匹に帝都を火の海にされている。そんな相手の言葉を保証もなしに信用するというのか?」
「約束を反故にしてしまえば、それこそ怒りを買うのでは?」
「それでも
「僅かな犠牲を我慢して封印を維持するか、解いて決着をつけるか……。古代人は前者を選んだのじゃろうな。そしてその古代人とはおそらく異世界人じゃ。彼らがそう判断したのじゃからこの世界ではナーガを倒す方法が見つからなかったのかもしれん……ワシらはそう考えたんじゃ」
アルテマに続き元一が説明する。
ぬか娘たちも大きくうなずいた。
「きっと超強力な魔法とかアイテムとか必要なんだと思う。それが見つからなくて諦めたんじゃないかなって……」
「アマテラスの陣はどうなんだ!! あれも通用しないというのか!?」
偽島が吠えるが、それには占いさんが答えた。
「……わからんが、望み薄じゃのう。魔法に達者じゃった異世界人が陰陽術に目をつけんはずはない。……と言うか……以前わたしの結界を見て『封魔の結界と瓜二つ』だとアルテマはいったの? もしかすれば陰陽術そのものが異世界人が作り出した『この世界での魔法』なのかもしれんの。だとすればアマテラスの陣でも討伐には及ばなかったのかもしれん。……あくまで想像の話しじゃがな」
それを聞いて深く肩を落とす誠司。
半生を費やした研究が、使うまでもなく無駄だと推測されたのだ。
「しかしナーガは帝国皇帝によって退けられているのだろう!? ならば倒す方法は必ずあるはずだ!!」
諦めない偽島。
そんな彼にアルテマはカイギネスからの指示を知らせた。
「……だから皇帝からの連絡があるまでは、私も独断はしない。いま話したのはあくまでも私の考えだ。皇帝が戦えと命令されるのならば……従おう」
――――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
重い音を引いて重厚な石扉が開かれる。
厳重な見張りと幾重もの結界に護られたその場所は皇宮収蔵室。
武具や魔法書、マジックアイテム。どれも国宝級に希少な物ばかりを収めた皇族専用の宝物庫である。
本来は皇族以外は立ち入ることの許されないその場所。
しかし緊急事態としてジルは入ることを許された。
もちろん表向きは皇后の付き添いという話になっている。
そうでもしなければ他の高官にいらぬ誤解を与えてしまうとの皇后の配慮である。
「申し訳ありませんイザドラ様、お手数をお掛けしてしまって」
深い感謝を表すジル。
「構いません。……ですが私もここへは滅多に入ることはありません。目当ての書がどこにあるかは……」
広い広い収蔵室を見回して途方に暮れるイザドラ。
端正な顔立ち、年を感じさせない凛とした
収蔵室の天井は地下にもかかわらず高く、上の方に飾っている宝物はそれが何なのか肉眼で判別するには難しい。
奥もずっと長く、収納点数を数えれば何万点にでもなりそうだ。
それぞれの宝はそれぞれに輝きを持っていて、魔法の光が乱反射し、部屋は黄金色に染まっていた。
「ご心配なくイザベラ様。……アルテマお願いできますか?」
そう言うとジルは
アルテマは皇后に一礼するとすぐに
『左、奥から3番目の書棚、一番下の段、右から4冊目。チカチカする~~☆』
『だそうです師匠』
「ありがとうございます。……ここから先は許可なきものは進めません。申し訳ありませんが……」
『はい。心得ております』
わきまえ、通信を切ろうとするアルテマにイザベラが一言。
「アルテマ。向こうでの生活は幸せですか?」
それに戸惑うことなくすぐに返事を返す。
『はい。……ですが帝国での生活も私は幸せでした』
「そうですか」
それを聞いたイザベラは微笑み、ジルに笑いかけた。
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