第297話 苦渋の判断
『それは……本当のことか……?』
携帯の液晶画面、
アルテマとのやり取りを皇帝に伝えたジル。
とたんにカイギネスの表情は曇り、側近のライジアからは毛髪が抜け落ちる。
「はい。……しかし
『し、しかし……いま
真っ青になって震えるライジア。
そんな
「声が大きいですよライジア。このことは今この場で語っている者だけの極秘事項にしなければなりません」
『そうですね。どこに耳があるかもわかりません。もしこのことが敵国に知れたらそれこそあなたのおっしゃる通りになってしまいます、ライジア副官』
そう応えたのは第一王子エフラムだった。
彼も
モジョに教わったグループ通話機能を使っているのだ。
指摘されたライジアは慌てて口を抑え、深くうずくまった。
『農作状況はどうなっているエフラムよ』
『順調です。六段様より教授いただいた農法と、送られた化学肥料で土の質は飛躍的に向上しました。これにより援助された救荒食物類はもちろん、我が国固有の作物も成長状況が格段に良化しております』
『国民の飢えは解消できそうか?』
『〝小松菜〟や〝ほうれん草〟など葉物はすでに。来月には蕎麦の実も収穫に入れます。そうなれば問題は一気に解決するでしょう』
『わかった。……それだけでも充分に感謝せねばならんな』
『龍脈は閉ざされても
エフラム王子がジルに聞く。
「おそらくは。ですがそれも確実とは言えません」
『そうですか。……もしそれさえも途絶えてしまったら戦力的にはかなり厳しくなりますね……』
『その事態を考えて、できうる限りの武器をアルテマは送ってくれた。おかげで強化された部隊も多いだろう』
『はい父上。とくに輸送隊など非戦闘部隊の強化がありがたいです』
とはいえ周辺国家をすべて敵に回してしまっているこの状況。通商経路も寸断されているいま、異世界との繋がりを絶たれてしまうのはかなり辛い。
しばらくは持ち堪えられても、いずれ衰退していくのは目に見えている。
眉間を深くすぼませ、苦い顔をするカイギネス。
エフラムも同様に難しい表情をしている。
『魔竜ナーガか……父上、その名は私も聞いたことがあります。……たしか我が皇家に代々伝わる魔剣ジークカイザーにまつわる話だったと』
『そうだな……。尾ひれの付いたただの伝説かと思っていたが、
カイギネスは携えている大剣をカチャリと揺らした。
代々の皇帝に受け継がれるその大剣の名はまさしく『ジークカイザー』
この世に二本と無い貴重な魔剣だが、彼は彼らしくぞんざいに実用していた。
「カイギネス様、その……剣にまつわる話とは」
ジルは聞いたことがなかった。
剣の存在はもちろん知っていたが、それがナーガと関わっているなど……。
カイギネスは髭を揉みながらしばらく考えると、
『
「はい」
『ではアルテマに伝えよ『俺が峡谷に着くまで交渉はするな』とな』
「は? そ、それはどういう……?」
『そのままの意味だ。そしてジルよ、お前には皇宮収蔵室への入室を許可する』
「は、はい」
それはこちらから願い出ようとしていたこと。
その中にきっとナーガにまつわる記録もあると思っていたからだ。
『そこにオリビィの町について書かれた文献があったはずだ。ただの伝説と思い詳しくは読んでいなかったが、今はその情報が欲しい。中身を確認しだい連絡してくれ。エフラムはそのまま。ただし、もしもの時の覚悟はしておけよ』
「もしも、とは!?」
『言わすな。縁起でもない』
「ふざけるな!! だったら真子はどうなる!! 俺は娘を取り返す一心でここまで協力してきたのだぞっ!!!!」
それを聞いた偽島は、当然、烈火の如く怒りを表した。
――――ドカンッ!!!!
感情のまま拳を振り下ろし、職員室のオンボロ机にヒビが入った。
偽島や村長の誠司、クロードをふくむメンバー全員は鉄の結束荘に集まっていた。
「……すまない。お前の怒りはもっともだ。……しかし
祭りのあと、蹄沢のメンバー全員と相談した。
異世界に妄想嫁(ルナ)がいるアニオタは猛反対したが、ぬか娘、元一、節子、飲兵衛、六段の5人はアルテマの判断を支持してくれた。
「危険は元より承知だろう!! アマテラスの陣も完成した、武器も準備した、どうなろうとも俺は戦うぞ!!」
殺気をも含む偽島の目。
長年の因縁を消し去りたい誠司。
異世界へ帰らねばならないクロードにとっても飲み込み難い話しだった。
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