第296話 ミッキーより好きよ

「「「オリビィ伝説!??」」」」


 ジルから伝えられた、峡谷にまつわる古い物語。

 アルテマはそれをみんなに説明した。

 聞いたみんなは口をポカンと開けて戸惑っていた。


「ちょ、ちょっと待ってやアルテマ? それって『木津谷の龍』と話が似てへんか!??」


 驚く飲兵衛。

 コップからポタポタと酒が溢れるのにも気付いていない。


「……似てるな。舞台は違うが登場人物がもう、そのまんまだ……」

「ナーガと難陀なんだ。源次郎と……ジュロウ?」


 考え込むモジョ。


「村娘キリは……シスターか? すると黒い侍は――――」

「アシュナ・ド・サイラス。はるか昔の帝国皇帝ということになる」


 アルテマが答えた。

 と、


「「うぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉおおぉぉぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉおおぉぉぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉおおおおぉぉぉおおぉぉぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉおおおおぉぉぉおおぉぉぉおおおぉぉぉおおおっ!?????」」


 ぬか娘とアニオタが突然騒ぎはじめた。

 それにびっくりして飛び上がってしまうアルテマたち。


「もうもうも~~~~~~う、話がこんがらがってイライラするでござるよ!! けっきょくなんなんでござるか!?? なにがどっちのお話でござるか!???」


 2・5次元以上の話には頭が回らないアニオタ。

 ごろごろごろごろ転がって頭を掻きむしっている。


「そうよそうよ。私だってこんな話イヤだし!! なんか怖いぃぃぃ!! ミステリーとか古代の謎とか、そういうの昔から苦手なの!! なんかゾッとするの!! ねえもっと明るい話ししよスヌーピーの話とかしよ??」

「ス……スヌーピってお前……」


 ブンブン首を揺さぶられながら呆れるアルテマ。

 気持ちはわからなくもないが……いまは問題放棄をしている場合ではない。


 ――――婬眼フェアリーズ

『スヌーピー。元の名は原作者チャールズ・シュルツの愛犬「スヌーキー」☆』


「――――だそうだ」


「はぁぁぁぁぁぁぁ……癒やされるわぁぁぁぁぁぁ……」


 座ってお茶をすすりはじめたぬか娘。

 邪魔なアニオタもどっかに転がして話を進める。


「……ともかく、その伝承では王子ジュロウはナーガとともに消え、町も消滅してしまったとされている」

「消滅?」


 アルテマの説明に不思議そうなヨウツベ。


「そこのところは違うんですね。こっちは村が現れて、異世界では町が消滅……あれ?」

「気付いたか?」


 言われてハッとする。


「まさか……話が似ているんじゃなくて……繋がっている?」





『そうですか、そんな物語が……それは確かに興味深い話です』


 祭りから帰り、出来事をジルへ報告しているアルテマ。

 新たに知った村の伝承。

 オリビィ伝説とそっくりだったその内容と、みんなで考えた仮説をジルにも聞かせた。

 仮説とはつまり、二つの物語は本当は一つでそれを二人の目線で語られているのではないか? ということだった。


 劇を見てみると、最後に語っていたのはキリという村娘。

 オリビィ伝説の中で彼女のポジションにいたのはナーガに惚れられたシスター。

 二人が同一人物で、自身に起こったことを語っている物語が一方なのだとしたら色々と理解できることもあるのだ。


 二つの話を混ぜて一つにしてみると。

 異世界で追い詰められたナーガはジュロウとシスター、そしてオリビィの町を巻き込み日本へと転移。そのまま封印され難陀なんだとなる。

 シスターは一緒に転移してしまった町の住人とともに、その地に住み着いた。

 それが木津村であり木戸家の先祖(季里キリ)なのだ。

 そしてオリビィ伝説のほうは異世界へ残された誰か。


『そしてこちらの『奈落の峡谷』は、元々そちらにあった『木津谷』だったと』

「はい」

『ナーガは消えたのではなくて転移――――いいえ、土地ごとそちらの世界と入れ替わったということですか……』

「はい。そう考えれば黒い侍が消えたことも納得できます」

『シスターの目線からすればそうなりますね。……しかしこちらの伝承では黒い侍は現れておりませんが?』

「その辺りは1000年の時間で物語が変わっていったのではないのかと。ナーガを撃退したのはジュロウともう御一人おひとり

『時の皇帝ですね』

「はい。黒い侍に当てはめるとしたらその人しかおられません」

『……わかりました。であれば城の書庫を当たってみます。なにか残されているかもしれません。しかしアルテマ』


 ジルは心配そうに弟子を見る。


「なんでしょう」

難陀なんだの封印を解くのは明日なのでしょう? もし難陀なんだがナーガだとしたら……大人しくはしていませんよ?』

「……はい。ですから私は封印を解かないことにしました」


 アルテマの返事に、その展開も予想していたか、暗い表情を浮かべるジル。


『いいのですか? それですと……』

「はい。龍脈は閉ざされ二度と開かれることはないでしょう。……ですから……もしかすると……帝国への援助も……これが最後になるかもしれません……」


 辛そうに報告するアルテマ。

 ジルは落胆を隠さず、力なく座り込んだ。

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