第293話 むむむ……?
「ねぇねぇ……あの黒いお侍さん、なに者?」
話についていけないぬか娘。
元一の袖を引っ張って解説を要求する。
「いや、知らん」
なぜワシに聞く?
そんな目で見返された。
「まぁまぁ、台本も子供たちが書いたものらしいから、細かいところは大目に見てやろうや」
六段は笑っている。
「そうなの?」
「ああ、なんでも村の年寄たちからの
「……いや、聞いたことのない話じゃな……。ワシらよりもっと上の世代じゃないのか? さすがに口伝とか……ワシらでもせんぞ?」
「そうか? まぁそうだよなぁ……」
なんて話しているうちにも劇は進む。
自らの腹を刺し苦しむ源次郎。
崩れ落ちながらも黒い侍に訴えかける。
「拙者の刀は聖なる剣!! この龍は拙者が身をもって抑え込む!! その間にどうかトドメをっ!!!!」
「あいわかった!!」
黒い侍はためらうことなく刀を抜く。
源次郎の中にいる龍は聖剣による束縛によって身動きできないでいた。
自分ごと斬れと源次郎は言っているのだ。
「おのれぃ!!」
なんとか逃げようともがく龍(のお面)。
しかし聖剣の力によって離れなれない。
「さあ、早く!!」
「成敗!!」
「ぐわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
斬られてしまった龍。
源次郎の体を通し、断末魔の叫びを上げる。
しかし死ぬには至らず、まだかろうじて息があった。
「おのれしぶとい!! ならばもう一度たたき斬るのみ!!」
謎の黒侍は今度こそと刀を振り上げるが、
「むははははは!! やむおえん、かくなる上は!!」
不敵に笑った龍は、最後の力を振り絞ってなにかの術を使った。
すると、
「ぎゅお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!♡」
またまた礼の女の子が出てきて、なにやらキンキラキンに光る布を源次郎と龍にかぶせた。
「む、龍の姿が消えていく。これはどうしたことだ!!」
「むはははは!! これは『
「あ~~~~~れ~~~~~~~!!」
逃されたはずの娘が再び登場。
そしてくるくる回ってキラキラ布の中に入っていった。
「そうはさせるか!!」
黒侍が斬りかかるが、半分消えかかった(とされる)龍にはとどかない。
「しゅぱ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!♡」
布を泳がせ、元気に走り去っていく女の子。
その裏では政志と娘役の女の子が押し合いへし合い、動きに合わせて舞台袖へと退場していった。
そして一旦幕が下ろされた。
「え~~~~~~っと……つまりなんだろう? 龍を退治しようとした源次郎は逆に体を乗っ取られそうになるんだけど、突然現れた黒侍さんと協力して倒したって展開?」
「いや、倒してはいない。すんでのところで逃げられたって話だろう」
「あ、そっか……。でもこれが村の成り立ちとなんの関係が?」
「わからん」
首を傾げ合うアルテマとぬか娘。
しかし黄泉渡りの術……これはとても気になった。
世界を渡――――など、まさに自分やクロードではないか……?
いっけん無茶苦茶な話だが、すごく気になる内容。
はたしてオチはどうなるのだ?
気にしていると何やら大きな作業音の後、幕が上がった。
舞台の上は一新され、森が村へと変わっていた。
そして舞台の真ん中にはなぜか連れ去られたはずの娘が立っていて、
「ああ源次郎様……なんとお
いったん暗くなり、スポットライトに照らされながら泣き崩れた。
そしてすぐにライトが広がり、今度は数人の村人(?)らしき人が現れる。
「泣くなキリ。残されたオラたちにできるのは、せめて源次郎様を見守りながらこの地で暮らしてゆくことだけだ。さあみんな立ち上がろう。そして新たに村を作るんだ!!」
「「「「えいえい、お~~~~っ!!」」」」
なかば無理矢理な終幕。
そしてナレーションが入る。
「こうして悪しき龍は源次郎と黒いお侍さんの手によって成敗されました。龍がいなくなった後には村ができ、やがて龍を祀る神殿が建てられました。しかし黒いお侍さんの行方は誰も知らず、黄泉の国へと引きずりこまれた源次郎は地獄の鬼となり、いまも龍を封印し続けているそうです」
そして「おしまい」と締めくくる。
最後に演じた政志たちが一列に並び、
「最後まで見ていただきありがとうございました!!」
「ございました!!」
「この物語は、村のお爺さんお婆さんから教えてもらった『龍伝説』を
政志による締めくくりの演説が続いている。
大戦前まで続いていた『鎮魂の祭り』のこと、生贄の儀式のことまでも説明し、自分たちなりに調べた村の歴史を語っている。
アルテマはそんな政志の顔を真剣に見つめていた。
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