第292話 なんだこの話し??
「やや!? こ、これはどうしたことじゃ!?? ワシはどうして龍になんかなっておる??」
慌てふためく龍(のお面をかぶった男の子)。
どうやらバチの当たった旅人が、龍の姿に変えられてしまったようだ。
「んな……バカな」
「し!! いいじゃない昔話なんだから、野暮なこと言わないの!!」
後ろでボソッと呟くモジョに、ぬか娘が注意している。
確かにその通りなのだが、魔法の世界で育ったアルテマにはそこに不思議は感じなかった。
悪魔の憑依でドラゴン化など異世界じゃよくある話――――とまでは言わないが昔そうやってドラゴンになった英雄の話をどこかで聞いた気がする。
物語は進み、龍となった旅人はその地で人を襲うようになった。
舞台では逃げ惑う人々を遅い、次々と食べていっている。
「……おい、人はどこから出てきたんだ? 辺りに村とかはなかったはずだろう?」
「いたのよどこかに、細かいこと言わないの!!」
どうにも話の展開に納得いかないモジョ。
やがて龍は一人の、とくに美人の村娘を捕まえて、
「ひっひっひ。こいつは美味そうな娘っ子だ。お前はとくに味わって食べてやろう」
龍(役の男子)は娘っ子(役の女子)に抱きついて、少し恥ずかしそうにしつつも悪い表情を作り、健気に龍を演じている。
「いやいや、違うでござろう!! そこはもっと感情を込めて!! 娘っ子の髪の匂いを嗅ぎつつ耳の裏をれんろれんろ――――――ぐはぁっ!!??」
焼そばを撒き散らし、熱い演技指導を叫ぶアニオタに六段のドロップキックが炸裂する。
アルテマたちは当然、他人のフリをした。
村娘が龍の毒牙に襲われようとしたそのとき。
「待て待て~~~~い!!」
舞台袖から一人のお侍が登場した。
白い甲冑に大きな刀を携えて、龍の前へと立ちふさがる。
演じていたのは政志だった。
「お? やっと登場したな」
アルテマが注目する。
「なんだ貴様は?」
「拙者の名は源次郎!! 罪なき人々を襲う暴れ龍よ、娘を離してやりなさい!!」
声高に叫ぶ政志。
やや芝居がかっているが、なかなかの演技力。
しかしそんなことよりも、
――――源次郎!??
その名を聞いて顔を見合わせるアルテマたち。
それは
村娘にイタズラをし、恋人にふられ、謎の侍に退治されたあわれな変人。
その恨みで
驚く龍のすきをつき、転がり逃げ出す村娘。
「ああ……見知らぬお侍さん。どうかお助けください!!」
「うむ、拙者が来たからにはもう大丈夫。安心なされよ!!」
娘を背に隠し、凛々しい笑顔を向ける源次郎。
チラッとアルテマにも目線を送るが、彼女はなにか上の空。
人知れず傷を負った政志は引きつった笑顔で、
「さあ、いまのうちにお逃げなさい!!」
涙目で娘を舞台袖へと連れて行き、退場させた。
怒りに身を震わせる龍。
「おのれおのれ、よくも邪魔をしおったな!! こうなったら貴様ごと世界を燃やし尽くしてくれるわ!!」
激高して、激しく炎を吐き出した。
「ご~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!♡」
さきほど雷様を演じていた女の子が、今度は赤い炎の扮装をして元気に登場した。
そして森の書き割りに、炎の絵を描いた画用紙をペタペタと貼り付けていく。
『おお~~~~~~~~!!』
パチパイパチパチ、やんややんや。
その可愛らしい演出に暖かな拍手を送る観客たち。
もちろんアニオタだけは別の意味で拍手を送っている。
「ふはははは!! ワシを怒らせたらどうなるか、思い知ったか!! うわははは~~~~!!」
「く……おのれ邪悪な龍め、かくなる上は!!」
燃え落ちる森に高笑いする龍。
源次郎は刀を天高く掲げると、
「聖なる光よ!! 邪竜を滅せよ!!」
空に向かって祈りを捧げた。
すると、
「ピカピカピカピカ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!♡」
剣からまばゆい光が発せられ、素早く衣装を替えたさっきの女の子がキラキラ光る羽衣をまとって舞台に躍り戻ってくる。
そして龍に向かってポカポカポカポカ。
「ぐわあぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
不思議な術にやられた龍は苦しみだし、その隙をついて源次郎が龍に飛びかかる。そして――――
――――ずぶぅっ!!!!
「ぎゃあぁーーーーーーーーっ!!」
「勝負あったな、拙者の勝ちだ忌まわしき邪竜よ!!」
胴に刀を突き立てられた龍。
成敗された――――かと思いきや、
「おのれ人間風情が……!! これしきのことでワシが倒せると思うなよ!!」
苦しみながらも不敵に笑った。
そして演じていた男の子は龍のお面を外し「えいっ」と源次郎に付けてしまう。
「ぬわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
途端、代わり苦しむ源次郎。
変身が解けた旅人は人間へと戻ったのだろう。そのまま倒れ息絶えた。
そして黒子にズルズルと引きずられご退場。
「おのれ……邪龍め……今度は拙者に乗り移り、しぶとく生き延びようというのぁぁぁぁぁっ!! どこまでも卑怯なぁぁぁああぁぁぁぁっ!!」
政志の迫真の演技。
アルテマを見ると今度は凄く真剣に見てくれている。
それを確認し、嬉しさに思わず半笑いもしてしまう。
「ほう? 苦痛に潜む快感をも演じているのでござるな政志殿。……その才能や
望まぬアニオタの高評価。
観客のほとんどは眉をひそめて政志を見る。
ともかく、龍へと
そうはさせじと残る気力を振り絞り、自分の腹に刀を突き刺した。
「――――ぐぐぅ!!」
崩れ落ちる源次郎。
そこに新たに唐突に、走り出てくる一人の男。
「源次郎!!」
現れたのは黒い甲冑に身を包んだ、さらなる謎のお侍。
「いや、誰だよ!?」
「えぇ~~……」
モジョのツッコミに、今度はなにも言えないぬか娘だった。
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