第291話 開演
「僕たちが住む木津村。かつてこの土地は『
利発そうな男子の声がスピーカーから流れてくる。
開幕前のナレーションである。
能舞台には
舞台前には立て看板が置いてあり『
「よかったよかった。間に合いましたね」
撮影係りの特権か、正面最前列を予約していたヨウツベは一番いい場所で三脚を立てカメラを回しはじめた。村長の誠司からの依頼で、どうせなら村のPR動画も作ってくれと頼まれているのだ。
いろいろ秘密事が多い村だが、逆に開き直ってオカルト路線に走ってしまえば誤魔化しやすいのでは? との算段だ。
これにはヨウツベも乗り気。
村ぐるみで『マジカル☆ミコブラック』の撮影、つまり映画村的な活動をしていると世間にアピールできればとても都合かいい。
前列は劇を楽しみにしているチビッコと老人たちで押し合いへし合い。
椅子など上等なものはなく、ゴザの上に三角座り。
だけどもそんな雑さが暖かくて良い。
少し出遅れてしまったアルテマたちは後ろの方で立ち見になってしまった。
「むむむ……しまったな……。これでは舞台がよく見えない」
背伸びをして舞台を見ようとするアルテマだが、同じく立ち見をしている大人たちに阻まれてしまう。
ぬか娘も見づらそうに、ぴょんこぴょんこジャンプしている。
モジョはブレステ7の箱を抱きしめ一刻も早く帰りたいオーラを出し、アニオタはいつの間にか屋台の食べ物に釣られいなくなっていた。
「……どうしようアルテマちゃん。せっかくの劇なのにオジサンたちの頭が邪魔で見えないよ~~。ね、ちょっと魔法でどかせないかなぁ。こう……火傷しないくらいの温度でさ、メラメラと……」
「バカを言うな、騒ぎを起こしてどうする。それよりもお前……その格好どうにかならんのか、注目されてるぞ?」
ぬか娘はいつもどおりのビキニアーマー。
呪いのせいで上に布を羽織ることもできない。
ジロジロと大人の視線が刺さり、チラチラと青少年が目覚めていく。
「しょうがないじゃない……コレ高いんだから。いつかお金に変わるのを信じて私……いまを耐え抜くわ」
発想がA◯女優じゃないかと突っ込みたかったが、不毛なので止めるアルテマ。
「……しかしもっとよく見える場所は――――おおっとっ!??」
移動しようとしたところで不意に体が持ち上げられた。
「げ、元一!?」
いつの間にか戻ってきていた元一が肩車してくれたのだ。
「……どうじゃ、よく見えるじゃろう?」
「う……うん……お父さ――――ゲ、ゲンイチ……」
「アルテマちゃん、いいんだよ!!」
――――ゲシッ!!
興奮するぬか娘をつま先で小突くアルテマ。
高くなった視線。
そういえば、昔もこんなことがあった気がする……。
邪魔されることなく、舞台がはっきりと見える。
はずだったが。この懐かしい高さに目が
「アルテマちゃん、いいんだ――――」
――――ゲシッ!!
それはそれとして、
「……『
タイトルが気になって眉をしかめる。
龍とはかつて祀っていた龍神――――
政志は
それは政志の家にとって不都合なのではないか?
そう考えるのは心配しすぎだろうか……?
少し不安になるアルテマだった。
「それではお楽しみください。
ナレーションと息を合わせ
大きな歓声が上がる。
舞台の上は子供たちみんなで作ったのだろう、当時の風景が一面に描かれた書割が張られていた。
自然豊かな森の中。
小川のほとりにポツンと小さな鳥居と地蔵様が。
そこに一人の旅人が通りかかったところから物語は始まる。
「おや、こんなヘンピな場所にお地蔵さんがおられるぞ? ちょうどいい、ここでひとつ休憩とするか」
小さな男の子が演じる旅人。棒読みながら元気よく声を張ってとても可愛らしい。
隣でぬか娘が『はぁはぁ』と息を乱しはじめ、節子から思いっきり尻をつねられている。
お地蔵様には串に刺さった団子が供えられており、どうやら旅人はそれを目当てにしているようす。
「はて……たしかこの辺りには人など住んでいなかったと思うがのう? するとこの団子は誰が供えなのじゃろう?」
首をかしげながらも旅人はお地蔵様のお団子を取り上げ、
「うん、うまいうまい。こりゃ上等なお団子じゃ、お地蔵さんに供えとくのはもったいない。おいらが全部たいらげてやろう」
そうして、供えられていたお団子を一皿全部食べてしまった。
満腹になった旅人が「満足満足」と腹をさすり横になったそのとき、
――――ど~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっ!!!!
スピーカーから大きな雷音が鳴る。
そして小さな女の子が雷様の格好で登場し、舞台を走り抜けた。
同時にサッと幕が下りてくる。
なんだなんだとザワつく観客。
アルテマも興味を惹かれ舞台に注目する。
屋台で焼そばを頬張っていたアニオタも別の意味で惹かれて目を輝かせていた。
やがて幕が上がると――――そこには村人の姿はなく、一匹の龍がいた。
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