第289話 境内にて

「ア、アルテマさん、来てくれたんだ!?」


 前夜祭当日、政志のお誘いに応じてアルテマは村のお寺へとやってきていた。

 劇は本堂から渡り廊下を渡った能舞台で行われる。

 境内は紅白幕や簡単な屋台などが出ていて、すっかり祭り色に飾られていた。


 時刻は夕方。

 小さな村だが、ぽつりぽつりと人が集まりだしてそれなりの賑わいを見せている。

 アルテマはいつもの巫女服に、今日はとくに角が目立たないよう頭巾をかぶっていた。

 金魚すくいを覗き込みながら昔を思い出していたところで声をかけられた。

 呑気に顔を上げると、顔を真赤に染めた政志が手足を同時に動かしながらこちらへやってくるところだった。


「ああ、お招きありがとう。今日は楽しませてもらうぞ?」


 半袖の運動着、頭には白い和風兜をのせている。

 衣装なのだろうが、どんな話なのだろうか?


「う、うん!! き、き、き、今日は、アルアルアルアルテマさんの為に最高の舞台を見せるから!! たのたのたの、楽しみにしていてね!!」


 アニオタかな?

 こいつはこんなキャラだっただろうか? 内心首を傾げるアルテマ。

 まぁ男子三日会わざればどうのこうのと言うからな、いろいろ物代わりするお年頃なのだろう。

 原因は自分だなどと露ほども思わず、勝手に納得してしまう。

 開演まではまだ少し時間があった。


「誘ってもらったお礼、というわけではないが何か奢ってやろうか? たこ焼きか焼そばでも……あ、りんご飴があるな、どうだろうか?」


 ささやかながらも『マジカル☆ミコブラック』のギャラが入った。今日ぐらいは無駄遣いしてもバチは当たるまいと太っ腹になっているアルテマ。

 まさかの逆お誘いに政志は脳天からピーと湯気を拭き、何度もうなずいた。


「も、も、も、も、も、もちろん!! あ、で、で、でででんでんで、でも今日は僕に払わせてくれないか? だ、だだって最初に誘ったのは僕だし、この間のお礼もしたいから」

「? お礼は舞台なのだろう?」

「いいから!!」


 ――――ぐっ。

 と、どさくさに手を取って歩きはじめる政志。

 とくに意識なく引っ張られていくアルテマだが、

 

 ―――――「エンガチョーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 ずばっしゃーーーーーーーーっ!!!!


「「痛ったっ!???」」


 猛スピードでスライディングしてきた元一にエンガチョ切られてしまい、手を離されてしまった。


「おうおうおう、やっぱりのう~~!? まさかと思って隠れていたが、貴様やはり本性を表しおったな~~!? この悪ムシコロめがぁ~~~~っ!!」

「お、お父――――げ、元一、どうつもりだ!??」

「ご、ご、ご、誤解です!! ぼ、ぼ、ぼ、僕たちそんなつもりじゃ」

「ぬぁにが僕タチじゃこのませガキめ!! ワシのアルテマにちょっかい出すなんぞ30年はやいぞっ!!!!」

 

 ジミに言葉が刺さるアルテマ。

 慌てふためく政志の頭を鷲掴みにして睨み下ろす元一。

 そこへさらに節子と六段も追加される。


「まぁ~~たしかにいきなり手を繋ぐとかは、勇み足だったかの~~」

「そうですねぇ~~。女の子としては悪い気はしないですが……軽薄と思われても仕方なかったですねぇ~~いまのは」


 気持ちはわかるが、とニヤける六段。

 ホホホと困り笑いの節子。

 昭和前期世代の三人にとって、子供同士の初デートでいきなり手をつなぐというのは悪い子以外の何者でもない。


「う……うわぁ~~~~助けておばあちゃ~~ん!!」


 これはお仕置きと再教育が必要だ。

 これまた昭和のノリで他人の子供を勝手に教育的指導するべく〝裏〟に引っ張っていく三人。

 残されたアルテマは呆気にとられてポカンと見送るが、


「はて……そういえば飲兵衛がいないな……?」


 ふと気がついて周りを見回した。

 あんなに祭りを楽しみにしていたのだ、一緒にたわむれていそうなものだが……?

 占いさんもいない。

 なんだか胸騒ぎがして境内を探し回ってみるアルテマ。

 しばらく歩いていると、


「おい、俺様の前を素通りとはいい度胸だなアルテマよ」


 嫌な声に足を止められた。

 みると『ひもくじ』と書かれた暖簾のれんの下に、ねじりハチマキと半被ハッピを着込んだクロードあほが腕を組んで偉そうに立っていた。


「……なにやってんの……お前……?」

「なに、とはご挨拶だな。見てわかるだろう、くじ引き屋の店主をやっている」

「いや……ど・う・し・てやっているのか聞きたかったのだが……。集落の見張りはどうした?」

「占いババアが許可をくれた。なにかあったら呼び出されるが、それまでは遊んでいて良いとな」


 ……遊びでやっているのか……?

 赤丸の中に偽島組とプリントされた半被。

 よく見ると屋台の半分ほどが偽島関係の暴力団――――もとい、ヤンチャなオジサマたちだった。

 クロードは「ふっふっふ」と不敵に笑いアルテマを見下ろした。


「どうだアルテマ、せっかくのお祭りだ。ここで一つ俺様と勝負をしてみないか?」

「……勝負?」


 まだ懲りていないのかと、面倒くさそうなアルテマ。

 しかしクロードはお構いなしに話を進める。


「お前が勝てば、この俺様が何でも一つ願いを聞いてやろう。しかし俺が勝てば電脳開門揖盗サイバー・デモン・ザ・ホールを一組譲ってもらう。……どうだ面白い話だろう?」

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