第286話 丸聞こえ

「な……なんじゃ!? なんでここにアンタがいるんじゃっ!??」

「何もクソも……邪心はゴーレムを通うじてみな私に伝わっておる。忘れたか?」


 呆れ口調で占いさん。

 元一は「ウソだろう?」と目を丸くして驚く。


「な……!? ということは……!?」

「もちろん。おヌシとアルテマがやろうとしていることは筒抜けじゃ」


 言って、占いさんは退魔の杖で元一の頭をポカリとやる。

 罠だと分かっていながら難陀なんだと取引をしたこと。そのことを皆に黙っていたことは二人にとって大きな負い目を感じさせていた。

 それがゴーレムに邪心と判断されたのだ。

 叩かれた元一はなんとも気まずそうな顔で、


「みんな……知っておるのか……?」

「ああ。集落の者と偽島、村長もみな知っている。私が話してやったからな」

「~~~~~~~~~~…………」


 元一はその場にうずくまって頭を抱えた。

 少しおかしいとは思っていたのだ。

 難陀なんだのことについて誰も追求してこなかったから。

 てっきり目の前のトラブルを処理するのに手一杯だからだと思っていたが、なんのことはない。占いさんを通じてみんな知っていただけのことだ。


「……まぁ、お前たちが世界を危険に……なんて誰も思っちゃいないさ。とにもかくにも龍脈を開けてもらわにゃどうにもならんかったからの。大方、要求をのんだふりして二人で対策を講じていたのだろう?」

「…………ま、まぁそうじゃ……」

「それでも惨事が起こったときは、自分だけで責任を負うと黙っておったのじゃな?」

「そ……そんなことまで伝わっているのか?」

「そこに負い目があれば全部伝わる。まったく……みなも呆れておった「今更なんだ?」とな。言う通りじゃよ。さんざん巻き込んでおいて今更誰のせいもないじゃろう」

「……すまん」

「帝国を見捨てられんのは私らも同じじゃ。多少の危険があろうとも、そこは全員(クロード以外)納得している。残念なのは相談されなかったことじゃな」

「……それは本当に申し訳ない。アルテマはワシが口止めしたんじゃ、あの子には責任はない」

「それもわかっとるわい。そうまでして繋げた龍脈じゃろう? ヘタに探りを入れて難陀なんだの機嫌を損なうようなことをするな。また閉じられでもしたらどうするつもりじゃ。私はそれを言いに来たんじゃよ」


 そしてもう一度頭をポカリ。

 占いさんの前では元一も悪ガキ同然の存在なのだ。


「……いざとなればアマテラスの陣もある。いまは龍脈を最大限活用するのに徹するのじゃ。みな戦う覚悟は出来ておる」


 それを聞いた元一。

 自分はどうかしてたと反省した。


 責任を背負わせたくないなどと。

 アルテマのこと、異世界のこと。

 みなはとっくに自分のことと考えてくれていたのだ。

 それを理解していなかった自分が情けなくて恥ずかしくて……涙が出てくる。


「さあ、戻るぞ。まだまだ送ってやらなければならん物が沢山あるんじゃ。マジカルなんとかとか騒いでる連中もそろそろ引っ叩かなきゃいかんしの」


 先を歩く占いさんに、とぼとぼ付いていく元一。

 まるで悪戯を叱られた子供のよう。


「……そういえば」

「ん、なんじゃ?」

「若い連中……特にアニオタの邪心ぼんのうはどうなっとるんじゃ……? まさか……全部聞こえているのか?」


 だとすれば聞くに堪えないものだろうとゾッとする。

 しかし占いさんは肩をすくめて言った。


「いや、不思議とアイツの心は何も伝わってこん。……おそらく聖も邪もなく本能のままで行動しておるんじゃろうな」

「……それはそれでゾッとする話しじゃな……」





「オーライオーライ」


 今日も朝からひっきりなしにトラックが入ってくる。

 消毒液や止血剤、解熱剤、鎮痛剤など兵士の治療に必要な物資も積んでいる。

 十数万人いるという兵士全てに行き渡らすにはとても足りないが、それでも無いよりはまし。

 栽培効率を上げる科学肥料や農薬も用意した。

 できることなら使ってほしくはないが、飢えてしまうよりはこちらもましだろう。

 使うかどうか、判断は皇帝に任せて送るだけは送る。


 工作機械やインフラ整備の基礎知識などもアルテマが翻訳しなおして書物にまとめてある。

 しかしこちらは異世界にとって極めて価値のあるものと魔神が判断したのだろう。

 それに見合う対価を帝国側が準備できずにいる。


『……アルテマ大丈夫ですか……? 顔色が悪いですよ……?』


 開門揖盗デモン・ザ・ホールの向こう側から真っ青な顔をしてジルが心配する。


「し、師匠こそ……げ、限界が近いんじゃないですか……?」


 負けずに真っ白な顔をしたアルテマが応えた。

 二人とも連日魔力の尽きる限界まで開門揖盗デモン・ザ・ホールを開け続けている。使えるのもが他には皇帝しかいないので仕方がないこととはいえ、ご苦労さまなことである。

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