第285話 最狂の敵

「地の底より湧きし怨霊たちよ!! 愛と正義と情熱の炎に焼かれ地獄に戻るがいい!! マジカル☆ミコファイアーーーーッ!!!!」


 何もない場所に向かって叫ぶアルテマ。

 しばらくして顔がみるみる赤くなっていく。


「オッケーィ!! よかったですよアルテマさん!! じゃ次はシーン125、怪人ゲロゲロベロベロとの決戦シーンです。ぬか娘~~メイク直しよろしく」

「はいは~~い♡」


 呼ばれたぬか娘はルンルン笑顔でアルテマの元へとスキップしていく。

 アルテマはピンクのフリフリミニドレスにランドセル。輪っかを作ったツインテールに羽つき魔法ステッキを持たされゲンナリしていた。


「……なぁ特撮コレ、いまさらいる?」

「何言ってるんですかアルテマさん、いるに決まっているでしょう?」

「そうかなぁ……もう妙な連中は占いさんに任せておけばいいと思うのだが……」

「この間の騒ぎはコレだって、ファンの人達はみんな信じているんですから期待に応えないと」

「ねえ、私の出番もちゃんとあるんでしょ?」

「愛の戦士ヌカムスメーンだね? もちろん。キミも人気キャラだからちゃんと用意してるよ。お~~~いアニオタ、そっちはオッケー?」


 カメラ片手に手書き台本をチェックしながらヨウツベ。

 ゾンビ騒ぎのあと、持ち動画チャンネル『マジカル☆ミコブラック』が大盛況。

 騒ぎの写真や映像は、すべてこの特撮のPRだったと言い張ったら既存のファンはもちろん一部の(バカな)一般人も信じてくれて注目を集めたのだ。

 おかげで登録者数は一気に10万人を突破し、まだまだ増えている。

 お小遣いも稼げて、そこだけは大変けっこうなのだが……。


「オッケーもなにも素顔のままでござるが……?」


 怪人役に抜擢されたアニオタは、ただのランニングシャツとステテコパンツ。

 ぱっつんぱっつんの三段腹に透けた乳首。愉快なデベソが出てしまっている。


「大丈夫大丈夫、そこにコレをぶっかけて」


 どろ~~~~ん。


「あぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ」

「じゃあシーン125行ってみようか~~」


 かけられたのは大量のローション。

 シーン125は怪人ゲロゲロベロベロがマジカル☆ミコブラックに組み付き、得意の粘液攻撃で動きを封じるという、ある種マミアックなサービス回となっていた。

 そしてその後、ヌカムスメーンも乱入しヌルヌルグチョグチョな泥沼展開ローションずもうへと突入していく。


 台本を読んだアニオタは俄然やる気の大興奮。

 ぬか娘は青くなり、アルテマは額に怒りマークを浮かばせた。


「覚悟するでごじゃるよマジカル☆ミコブラック。今日こそこの僕、怪人ゲロゲロベロベロがお前をお嫁に行けない体にしてやるでごじゃるよゲロゲロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロ(アドリブ)」


 そして突撃していく怪人ゲロゲロベロベロ∞。

 その直後、広場一体が特別デカい黒炎に焼かれたのは言うまでもない。





「異世界の龍と封印の剣ですか……」


 帝国領の外れに一人隠れ住む老賢者。

 奈落の峡谷にまつわる伝承に詳しいとされる彼の話を聞きに、ジルは早馬を蹴って訪れていた。


 蹄沢集落で起こっていることを伝えたジル。

 賢者はその話を聞き、なにか思い当たったように乱雑な本棚を漁りはじめた。

 がたがたバサバサと本やら小物が落ちて埃が上がるが、気にせず探す。

 やがて一冊の古い本を持って戻ってきた。

 皮で作られた表紙はすり減って、文字がかすれているが『オリビィ伝説』と読むことができた。


「……これは彼の地に伝わる古い伝承……おとぎ話のようなものなのですが……」


 前置きをして、賢者は本を読みはじめた。





「ここじゃな」


 裏山のほとり、難陀なんだが巣食う石祠へと続く道の途中。

 そこに小さく文様が描かれた大きな岩があった。

 文様は角が丸くなり苔も生えて、そこにあると言われてなければ誰も気づかないほど自然に溶け込んでいた。


 アルテマの話によると、ここが源次郎の躯へと続く洞窟になっているらしい。

 元一は一人先にやってきて様子を調べていた。

 アルテマには危険な行動は止めてくれと言われていたが、大事な娘をこんな得体のしれぬ場所に向かわせるなどとんでもない。

 入れるものなら先に入って、奴を拝んでやろうと思って来たのだ。

 しかし押せども引けども岩はびくともしない。

 文様に触れて魔力を込める真似事をしてみるが、やはり何も起こらない。


「どうしろというんじゃ? なにか鍵があるのか……?」


 途方に暮れていると。


「アルテマをご指名なのじゃろう。……なら本人じゃなければ開かんて」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉうっ!???」


 突然かけられた声に、心臓が飛び出そうになる元一。

 振り返ると、そこに占いさんが立っていた。

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