第277話 シナシナ唐揚げが好き
「カイギネス皇帝、聖王国の進攻が弱まってまいりました」
「……みればわかる」
アベールの報告に苦虫をジョッキ一杯噛み潰した顔で返事をする皇帝。
いまのいままで激戦を繰り広げていた聖王国の軍隊が、徐々に戦線から後退し始めたのだ。
本来なら防衛側としては
聖王国軍第一騎士大隊隊長アシュラウム。
聖王国にその人ありと謳われた随一のエルフ騎士。
かつて、アルテマを異世界へ飛ばしてしまう原因となった戦い。
その敵将だった男である。
剣技と統率ではカイギネスの圧勝。しかし魔法と戦術では向こうに利があった。
一騎打ちでは負けはしない相手だが、戦となれば兵
総合的に両軍の戦闘力は
それをどこかで楽しんでいたカイギネスは、遊びに終わりを告げられた子供のように不機嫌になるが、それは国を護る皇帝として持ってはいけない感情。
気持ちをぐっと抑えて馬を休ませる。
「西側、北側、南側ともに戦線を押し返しているそうです。その情報を得て、おそらくアシュラウムは引いたのでしょう」
突然息を吹き返した帝国軍。
それに不穏を感じ、警戒したということだ。
「……だろうな。戦勘の鋭い男だ、しばらくは様子見で攻めてこんだろうよ」
アベールの骨折は
他の負傷兵も同様に魔法治療を受けている。
ヒールの使い手は少ない上に効果もまちまちで、並の術者なら止血がせいぜい。
ジルやクロードのように骨折レベルの怪我を一瞬で完治させてしまうほどの手練はなかなかいない。
その貴重な魔法力を全軍で共有できるようになったのは、どんな援護兵器を送られるよりも強力だった。
「アルテマ様もジル様同様、各軍を転々と通信魔法で援護してくださっています。帝国包囲網が崩れるのは、もはや時間の問題かと」
「そうか」
異世界の支援を期待するとは言ったが、ここまで有効な物を送ってこられるとは思ってもみなかった……。
カイギネスは持たされた、電源の入っていない
「「「「「カンパーーーーイっ!!!!」」」」」
ガチャコンと盛大にビールジョッキが合わせられた。
カイザークの街を取り戻して一ヶ月。
鉄の結束荘職員室にて、アルテマたちは祝勝会を開いていた。
薄汚れたテーブルに
それを若者たちは奪い合うように貪り食っていた。
「しっかしモグモグ、アルテマちゃん凄かったね。圧勝だったもんねモグモグ」
「ふん、相手が弱かっただけだ。本来、リンガース軍など帝国の足元にも及ばない。負けていたのはあくまで奇襲を受けたからだ」
フライドチキンの油でコテコテになりながらぬか娘が圧倒的勝利を振り返った。
それに同じくイカリングの油でコテコテになりながら応えるアルテマ。
モジョもエビチリで口周りをベチョベチョにしながら聞いてきた。
「……間抜けな敵将……バルカスと言ったか? どうなった? ムグムグ」
「捕虜として第一王子エフラム様の元へ送った。おそらく交渉道具として取引につかわれるだろう」
「エフラム王子か……あれはなかなかの色男だったな」
飲兵衛と異世界酒をやりながら六段がボソリと感想を言った。
六段や占いさんは帝国穀倉地の農場指導員として
「え、そうなの? 若い人??」
その言葉に敏感に反応するぬか娘。
「ああ、二十歳そこそこだと思うぞ。金髪で優男風だったが体格はしっかりしていたな。横柄な態度もなく真摯な受け答えができる好青年といった感じだった」
つい先日、農地管理について色々と打ち合わせをした。
そのときの感想である。
「え~~いいなぁ……異世界のキラキラ王子様……私も会いたかったなぁ~~」
「おや、意外だね。ぬか娘って小さな女の子以外興味ないんだと思っていたけど」
頬を染め、妄想にふけるぬか娘を茶化すヨウツベ。
「し、失礼な!! 私は可愛いものとロマンが好きなだけなの!!」
「でもこれで戦況は安定するかアルテマ殿?」
しっかり宴会の輪に入っている偽島。
費用はすべて彼が出してくれた。
秘密を共有した偽島組はもうすっかり蹄沢集落のスポンサー(ヤバメの武器弾薬・お金)になっていた。
娘が世話になっている恩もあるが、異世界との強いパイプを構築できるという下心もしっかりあった。なので出来得る限りの協力は惜しまない。
「ああ、南の蛮族共もコテンパンにノシてやったからな。しばらくは膠着状態が続くだろう。真子の身もひとまず安全と言えるだろうな」
それを聞いて心底安心する偽島。
カイザークを奪還した後、アルテマは街の管理を現地の副官組に任せ、南軍の応援に向かった。
向かったと言っても
南はリンガース公国にそそのかされた小国連合が攻め込んでいたが、神出鬼没のアルテマにより軍隊は壊滅、撤退を余儀なくされた。
ジルも軍を転々と、回復魔法を使って回っていた。
敵からすれば、突然特級の攻撃魔法使いと回復魔法使いが増殖したように見える。
その混乱が帝国を包囲する全ての軍の足を止めた。
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