第273話 突撃・アルテマ軍①
「ばかな!! あの化け物は一年も前に自決しているはずだぞ!? その旗がなぜ今また上がるっ!??」
雑にローブを羽織って
領主を処刑して手に入れたこの館は、カイザークの街全体を見渡せる高台に立てられている。
生臭い汗を拭おうともしないバルカスは、さらに臭い冷や汗を流しながらテラスに上がった。
アルテマだと!?
まさか……ハッタリだっ!!
こちらの混乱を誘おうと偽の旗を上げているだけだ。
愚かな!! そんなお粗末な計略に我が守備兵が惑わされるとでも――――。
街を囲う城壁。その上に守備の弓兵が集まり、一斉に矢を放っている。
偽アルテマ軍がそこまで迫っているということ。
しかしたったそれだけの兵で城門突破など、できるわけがない。
無駄死にを増やすだけ、そう思ったとき、
――――ドゴォォオオオオォォオオオオォオオォオオオォオオォォォォォォァアアァァアアァァァァァァァァァァァァァァアアアァァァァァァァァンッ!!!!
朝日に
黒は
それは
暗黒騎士アルテマだけが従えるといわれる魔神の炎であった。
「アルテマ様、初撃は命中です!! 城壁の弓兵たちは散り散りになって逃げて行きます!! ひゃっほーーーーーーいっ!! さっすがですっ!!」
大はしゃぎして喜ぶのはルナ救出作戦に一役買った猫型獣人エイミイ。
彼女はそのまま城壁内の情報を持ってアルテマ軍に加わった。
アルテマ軍は敗退した六軍を再編成したもの。
とはいえ変えたのはトップである将軍だけ。
『ふん、まあまあだな』
エイミイの掲げた
数日前――――。
死んだと思われていた帝国の英雄騎士が異世界で生きていたからだ。
討ち死んだ将軍にかわって代理を務めていた副官は、すぐさま指揮権をアルテマに譲った。
それが皇帝カイギネスの命令だったのと、そうでなくてもアルテマの方があきらかに統率が高かったからである。
新たに暗黒騎士アルテマの旗印を掲げた新生六軍は、兵の士気も爆上がりした。
もともと人気が高かったというのもあるが、一般兵に配られた現在のアルテマの姿絵がなぜかとても愛らしい少女だったのもだぶん大きい。
「アルテマ様、門の閂は昨晩、諜報部隊が忍び込んで壊れやすく細工してあります。一撃与えれば簡単に外れるはずですよ」
アニオタが用意した夜間行動用アイテムはルナ救出作戦以外でも大いに活躍した。
銃器の威力は魔法に及ばないものの『サイレンサー』なるものを付けた静音性と隠密性、なにより軽い訓練で誰でも扱えるという利便性が圧倒的に有効だった。
『わかった、ならもう一発デカいのをお見舞いしてやろう』
アルテマが言うと、画面の奥で怪しい黒の光が輝きはじめた。
「……お~~い、やってるかぁ~~……」
眠そうな目をしょぼしょぼ擦りながらモジョが部屋に入ってきた。
ここは鉄の結束荘二階、モジョとぬか娘の部屋である。
中にはお茶菓子を広げたぬか娘と元一、そして立てかけた携帯に向かって「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」と気合をためるアルテマがいた。
「あ、いまいいところなんだから!! 早く早くっ!!」
モジョを手招きするぬか娘。
同時に、
「吹き飛べ!!
――――ドゴッ!!!!
携帯に向かって暗黒魔法を撃ち放つアルテマ!!
一瞬、部屋が黒い炎に包まれるが、すぐに
そして――――。
――――どぐわぁぁあぁぁあぁあああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあああぁあああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあああぁあああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁんっ!!!!
スピーカーから爆発音が返ってきた。
「やったぁ開いたわ!! さすがアルテマちゃん!!」
キャーキャー喜んで、画面に映る異世界の戦場にバンザイするぬか娘。
画面の中には焦げた城壁と破壊された門が見えた。
門の向こうには、うろたえたリンガース部隊が混乱気味に待ち構えていた。
「よし!! いまがチャンスだ!! 半分はそれぞれ北と南の門へ、残りは私に続け!! 突撃ーーーーーーーーーーっ!!!!」
二手に陽動部隊を送りながら、本隊を突撃させるアルテマ。
号令を受けたエイミイ以下全兵士はすでに勝ちを確信して呼応する。
『『『『『『オォオオォォォオオオォォォオオォォォオオォォォオオォォォオオオォォォオオォォォオオォオオォォォオオオォォォオオォォォオオォ』』』』』』
携帯から兵士の怒号と戦の音が聞こえてくる。
城壁内に突入したアルテマ軍は雪崩のごとく敵兵を打倒し、みるみるうちに区画を奪還していく。
「……まるでゲームでも見ている気分だな……」
モジョがつぶやく。
画面に向かって叫び、身振り手振り指示を飛ばすアルテマは一見遊んでいるようにしか見えない。
しかしこれは紛れもない本当の
人と国の行く末をかけた真剣勝負なのだ。
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