第272話 鬼・再臨

『あ……ありがとうございますだにゃん。……ア……アニオタ様』

「のんのん、僕ちんを呼ぶときは『おにいたん』って教えてあげたでござるよ~~~~ルナとぅわん♡」

『く……お、おにいたん……あ、ありがとうだにゃん……ぐぐぅ……』


 電脳開門揖盗サイバー・デモン・ザ・ホールの向こう側で、フリフリ蝙蝠コウモリ羽根付きゴスロリセパレートドレスに身を包まれたルナが顔を真赤にして震えていた。

 むろん寒いのではなく、屈辱に耐えているのだ。


「どうだアニオタ『電脳開門揖盗サイバー・デモン・ザ・ホールVer2』の完成度は?」


 興奮でメガネを真っ白に曇らせ、涎をたらすアニオタ。

 それに何をツッコむわけでもなくモジョが声をかけた。


「か、か、か、完璧でござるよ!! 画質も音声も!! ピンチアウトしてもほれこの通り、ルナとるるるるるるるるるぅわんの綺麗なお肌がくっきりでござるぅ!!」


 拡大された絶対領域(おヘソ・太もも)に頬ずりしながら大満足なアニオタ。

 さすがにそれは気持ち悪いなと思うモジョだが、アニオタが絶賛するのなら機能的に問題は無さそうだ。


 龍穴が開かれ龍脈の流れが安定すると、アルテマの暗黒魔法は復活し本家・開門揖盗デモン・ザ・ホールも再開通した。

 それにともない電脳開門揖盗サイバー・デモン・ザ・ホールの通信速度も格段に上がり、精度が跳ね上がった。

 それならばとモジョは即興でプログラムを修正し、これまでこちら側からの一方通行だった交信を改良。向こう側からも声と映像が届くようになった。

 さらに複数台通話可能にし、武器とともに異世界に送った。


「すまないなルナ。……お前の分も絶対に用意しろとアニオタが脇腹を噛んでくるものでな……」


 半泣き茹でダコ状態になっているルナに謝る。

 電脳開門揖盗サイバー・デモン・ザ・ホールの最大の特徴は通信に加え、魔法も通してしまえるところ。

 これを持っていれば、たとえ前線に魔法使いがいなくともジルやアルテマ級の魔法を共有することができる。

 そのため戦略レベルで有効な兵器と言えるのだが、逆に敵の手に渡ってしまったら厄介だというリスクもある。

 なのでほんの十数台、限られた人間だけに送った。

 それでも効果は絶大で、押されつつあった戦況は少しずつ改善されている。


『いえ、め、め、め、滅相もございませんモジョ様!! 貴方様のおかげで我軍はアルテマ様の援護を獲得!! 再びカイザークを取り戻そうとしています、感謝しこそすれ――――』


 アルテマは西側方面軍に配属され電脳開門揖盗サイバー・デモン・ザ・ホールを通じて魔法による援護を行っている。とくに魔法力に乏しかった六軍にはとても頼もしい存在となっているようだ。


「ぼ、ぼ、ぼ、僕が送った兵器もよかったでござろう? むふふん」


 アニオタが用意したのはサーマルスコープやトーチバーナーなどの便利道具。

 銃器は偽島組のものだったが、ちゃっかり自分の手柄にしてしまっている。


『は、はい!! も、もちろんです。おかげさまで諜報部隊の活動範囲が飛躍的に拡がり捕虜開放も進んでおります!!』

「じ~~~~……」

『あ、いや……だにゃん!! お、おにいたま……くっ!!』


 ともかくルナは無事だった。

 アニオタも幸せそうでなにより(?)なのだが、


「しかし……どうして難陀なんだは大人しくなったのだろうな……」


 アルテマに聞いても「話はついたのだ」の一点張りで詳しくは話そうとしない。

 状況が落ち着いたら説明すると言っているが……なんだか嫌な予感がする。





 ――――異世界、カイザークの街。早朝。


「将軍、撤退した帝国軍が反撃に転じてきました!!」

「なんだと!? そんなに早く立て直せるはずがあるか!!」


 見張り兵からの報告に、まだベッドから起きてもいないリンガースの将、帝国攻略軍司令官バルカスは耳を疑った。


 街を占領してからまだ半月も経っていない。

 四割は兵を削ってやった。

 包囲網を敷かれた帝国にそこまで早く軍を立て直せる余力はないはずだ。民兵をかき集めるにしても一ヶ月はかかる。

 それがこんなに早く……いったいどんな手を使った!?


「相手の数は!?」


 ――――ガシャンッ!!!!

 荒ぶる感情のままワイングラスを床に叩きつける。

 先日、納骨堂から捕虜が逃げ出した。

 あきらかに誰かの手引による逃走。

 街の中心、見張りも厳重の中やられてしまった失態にバルカスは気が立っていた。

 夜伽の女二人が怯えるが知ったことではない。


「はっ……そ、それが一万と……二千ほど」


 なんだと?

 その数を聞いてまた耳を疑った。


 撃破してやったときとほとんど変わっていないからだ。

 破れたままの兵数で、こんどは籠城戦ではなく攻城戦だと?

 我軍は五万以上いるのだぞ?


「は……ははは……敵の将軍は気でも狂ったというのか?」


 そうとしか考えられない。

 でなければ玉砕覚悟の特攻か?


「野蛮な帝国らしいといえばそうだが……旗印は?」


 兵の命より軍の尊厳を取った愚か者は誰だ?

 まさか第一王子エフラムか?

 やつはそこまでの愚将ではなかったと思うがな?

 伝令は戸惑いの表情で言葉を詰まらせていた。


「なんだ? 幽霊でも見た顔をしているな」

「いえ……そ、それがその……て、敵軍の印は……く、黒バラに鬼角オーガヘッドの……」

「――――なっ!?」


 それを聞いてバルカスは立ち上がった。

 背筋に冷たいものを感じて鳥肌を浮かべる。

 黒バラに鬼角オーガヘッドの紋章。


 それは皇帝カイギネスの懐刀にして帝国の二大魔女と恐れられた――――暗黒騎士アルテマの旗印だったからだ。

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