第266話 いまこそ使ってくだされ
『アルテマ、レロレロとは一体何なのですか?』
「いえ……師匠。それはどうかお気になさらず……」
最近仕入れた日本の伝統文化(誤解)。
資料として報告すべき事柄なのかもしれないが、齢70ちょいにして、いまだ浮いた噂の一つない師匠には刺激が強すぎるとアルテマは言葉を濁した。
もっともジルに言わせればアルテマも同類だろうと怒るかもしれないが。
「く……し、しかし囚われていることに変わりはないのでござろう!? だ、だったらソンナコトとか、ないとも言い切れないではござらんかッ!?」
それでも食い下がってくるアニオタ。
真子に関しては皇帝カイギネス直々の監視をつけているため、万に一つも間違いはないと言い切れる。
しかしルナは敵軍の捕虜。
アニオタの言う通り、どんな扱いを受けているかは正直わからない。
「し、しかし……」
「きゅ、救出は!? 救出作戦はどうなっているでござるかっ!?」
「ど、どうなっていますか、師匠?」
『そ、それが……いまひとつ良い作戦がなく……手をこまねいている状況です』
「だそうだ」
「むあぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
「うるさい」
――――どすっ!!
暴れるアニオタ。
その脇腹に竹刀を突き刺すアルテマ。
「なんででござる!! なにをそんなにコマネイテいるでござる!! 居場所はわかっているのでござろう!?? だったら誰か侵入して、サクッと鍵開けとかして出してあげてほしいでござる!!」
「簡単に言うな!!」
『……アニオタ様の言う通り、ルナの居場所は大体わかっております。陥落したカイザークの街、その協会の地下納骨堂に捕らわれているとの情報です。ですが占領されたばかりの街にはいまだ敵軍が多く駐留し、侵入しようにも手が出せない状況なのです……』
「とのことだ」
「だったらどうするのでござるか!?」
『……どこかへ移送される機会をうかがって、軍隊から離れた頃合いで襲撃するとか考えていますが……しかしそういった動きはいまのところないのです』
「とのことだ」
「そんなラッキー待ちの作戦なんてダメでござる!! それに敵もそんなことは承知しているでござろう、警備は厳重にしているでござるよっ!!!!」
『……はい、それはこちらもわかっておりますが……。しかし壊滅的打撃を受け、いまだ立て直し途中の西方面軍では、そういった機会を伺うしか……やりようがないのです』
「とのことだ」
「だ~~か~~らぁ~~~~!! 夜中こっそり忍び込んで、とかあるでござろうが!! 捕虜救出作戦っていったらそうでござろうホガホガホガホガッ!!!!」
「だからいちいち私の頭を噛むな痛たたたたたたっ!!!!」
『……こちらではそういった定石はありませんが……』
「とのこと――――痛い痛い痛い痛いっ!!」
「盗賊とかは!? 暗視とか鍵開けとか隠密とか!! スパイ行為専門の職業があるでござろう!??」
『? ……盗賊はおりますが。そういったことはしません。彼らはただ物を盗む罪人です。侵入行為でと言えば諜報部隊がまさにそれですが……鍵開けはともかく暗視や隠密などという便利なスキルは持っていません。そんなモノがあればどんなに話が早いことか……』
「とのことだバカヤロウッ!!」
――――ごきゃっ!!
「ぐふ……!? で、では……それができればルナどのは!?」
『もちろんすぐにでも救出に向かわせます』
「とのことだガジガジッ!!!!」
「ああっ!? あうんっ!? そ、そこは!? だ、だったら僕、いいもの持っているでござるよ!!」
「なんだいい物ってっ!! くっさっ!? お前、頭洗っていないだろう!!」
「ちょっと待つでござる、いま軽トラから持ってくるでござる!!」
「……こ、これは……?」
アニオタが持ってきた秘密兵器。
それは以前クロード軍(珍走団)との戦いで使ったサーマルスコープ。
その黒い筒状の物を見て、アルテマは何だろうと首をかしげた。
「これは人の熱を色と光で感知し、壁をも透視して敵の居場所を見破ることのできる兵器でござる!! モード切替で夜間でも昼間のように明るく見ることもできるので侵入作戦にはもってこいでござるよ!!」
「ほっほ~~~~う?」
試しに覗き込んだアルテマ。
偽島、クロードが赤い輪郭で見える。
「……本当だ……隣部屋の人間も赤く見えるし、机や椅子も青く見える……これは……すごいな――――赤っ!!」
「でござろう!? でござろうっ!! 凄いでござろう!! 高かったんでござるよこれっ!! ぬほほほほほほほほほほほほっ!!」
宝物を褒められてごきげんなアニオタ。
アルテマの目に
「たしかに凄いが……これをどうするんだ?」
「決まっているでござろう!! いますぐ
そこまで言ってアニオタは気がついた。
「デ……
「……そうだ」
まったく……間抜けめ。
呆れてスコープを外すアルテマであった。
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