第267話 それとこれとは……

 ともかく。

 異世界の状況はわかった。


 ルナの救出も、真子の安全も、帝国の存続も。

 アルテマたちがもたらす支援物資に運命が委ねられている。

 そのためにはやはり難陀なんだをどうにかし、開門揖盗デモン・ザ・ホールを復活させねばならない。


「偽島よ。魔法陣ソーラーパネルの設置はどうなっている?」

「あらかた終了している。誠司の指示どおり裏山を中心にして半径3キロの範囲、六芒星を形作るように配置した。これで本当にアマテラスを召喚できるのか? アルテマ殿」


 偽島は和解してからアルテマを殿付きで呼ぶ。

 おそらく今後、異世界との交流を意識してでの敬称だろう。

 なんだかむず痒いが、馴れ馴れしくされるよりは丁度良い距離感だとアルテマも思っていた。


「……こればっかりはな。やってみないことには」

「切り札が不確定というのも、作戦としてはお粗末では?」

「ならばもっと時間をかけて確実にやつを仕留められる方法をみつけるか?」

「……いや、それこそ論外です。私は親として何を犠牲にしてでも真子を護ってやらねばいけません」

「むぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぼ、ぼ、ぼ、僕も!! ル、ル、ルナちゅわぁんっ!!」

「そうだな。それにこうしている間にも犠牲者は増えてくるかもしれない」


 真子を飲み込んでから難陀なんだの活動は止まっている。

 しかしいつ何時また動き出すかわからない。悠長にしている暇はない。





「絶対にだめじゃ!!」


 難陀なんだの元におもむく意思を元一に伝えたアルテマたち。

 するとやはりというか当然というか、即答で却下された。


「お前たち、あいつにワシらがどんな目にあわされたか忘れたか!?」


 考えられないという形相で四人を睨んできた。

 ここは鉄の結束荘、職員室。

 取り調べから帰ってきた村長と元一の二人。


 魔物騒動に関しては、知らぬ存ぜぬ。

 証拠の画像や映像を突きつけられてもシラを切り通してきた。

 アルテマが魔法を使っている場面などバッチリ収められていたが、とにかく何も知らないと言い通した。

 すると知事や公安の連中は意外とあっさり引き下がってくれた。


 もちろん元一たちの言葉を信じたわけではない。

 あまりにぶっ飛んだ超常現象に、どう扱っていいのかわからないと言ったのが本音だろう。


「……もちろんわかっている。しかしお父さ――――げふん、元一よ」

「アルテマちゃん、いいんだよ!!」


 興奮するぬか娘をよそに、真子が異世界に渡っていた事実。切羽詰まったいまの戦況などを説明した。






「そ……そうか……生きていたか。それはなりよりじゃ。よかったの、よかったのう偽島よ、じゅるるるるるるるるるるチーーーーンッ!!!!」


 真子の無事を聞いて他人事ではなく安心し、泣きじゃくる元一。

 ちり紙から鼻水が溢れそうになっている。


「はい……ありがとうございます。……記憶は失っているようですが五体満足で帝国の庇護下に置かれています」

「ほうか、それでも体が無事やったらなんでもええで!!」

「おう、そうだな。記憶もきっと戻せるだろう。そうだろう依茉えま


 話を聞いて盛り上がる飲兵衛と六段。

 とりあえず真子だけでも助かって何よりの朗報だとみなは喜んだ。


「こ、公式にはアルテマでたのむ……」

「なんだ照れとるのか? まぁ、いいだろう名前などどっちでもいい」


 昔そうしたように頭をグリグリなでてくれる六段。

 懐かしすぎる感触に、また色んな思い出が呼び起こされてほっこりするアルテマ。

 六段もまた、一緒にラジオ体操をした昔を思い出していた。





「はい、私特製ぬか漬けカレーだよ、めしあがれ」


 夕飯時になったので、気を利かしたぬか娘がカレーを作ってくれた。

 結束荘では材料がないとき、たまにコレが出てきたりする。


「……う……ま、まぁ……食えないこともないんやが……なんやあっさりしすぎてる気がするのぉ……」


 微妙な顔でポリポリ食べている飲兵衛。

 福神漬けや、らっきょうの代打も兼ねているのでとても経済的だが、いかんせんコクが足りなさすぎる。


「こないだワシが分けてやった熊肉はどうしたんじゃ?」

「やだなぁゲンさん。そんなのとっくに食べちゃったよね、みんな」


「味噌煮込みに生姜焼き……うまかったなぁぁ~~~~」

「……熊カツに熊バーグ……おいしかった……ぐうぐう」

「ぼ、ぼ、ぼ、僕はシンプルに熊汁が好きでござる、もぐもぐ……」

「たまのお肉だからね。取り合いして食べちゃったエヘヘ」

「……また分けてやるわい」

「食事を終えたら、あらためて話し合いましょう。いいですか元一さん?」


 娘が心配な偽島はそもそも食欲がないようだ。

 せっかくのカレーにもほとんど手を付けず、真剣な顔で食い下がってくる。


「わかっとる」


 難しい顔をして元一はうなずいた。

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