第264話 どうしたらいい?

 ソファーの背に首を預け、天井を見上げる偽島。

 娘が生きていた安堵に浸り、放心してしまっている。

 クロードがアルテマへ話しかけてきた。


「……一緒に飲み込まれた他の娘たちはどうなっている?」

「わからん。確認できたのは真子だけだ」

「そうか……たしかお前のときも、一人だけラゼルハイジャンに渡ったという話だったな?」

「それも確認できていない。もしかしたら我々と交流のない国に拾われた可能性もある」

「あるいはまったく違う異世界の可能性も?」

「その通りだ」


 それを聞くとクロードは綺麗な金髪をガシガシと搔いて苛立った。


「時間のズレ、場所のズレ……わからんことだらけだな」

「そうだな。それも難陀なんだを退治すれば多少は解明できるかもしれないがな」


 アルテマのつぶやきに、ピクリと反応する偽島。


「……あの龍を――――殺せますか?」


 ヤクザの顔。

 アルテマはそれに臆すことなく答えた。


「記憶が戻ったと同時に、基礎魔力も全盛期に戻った。いまの私ならいい勝負ができる気がするな」

「マジか?」


 クロードが青ざめる。

 自分が知っている異世界でのアルテマは中年時代。

 それでもトンデモなく強かったのだが、それ以上の力となると一体……。


 父がかつて怯えていた『あれは鬼。それ以外の何物でもない』と。


「ああ~~成長したアルテマ殿の姿……エロカッコよかったでござるぅ~~」


 アニオタが病院での思い出を反芻はんすうして悦に浸っている。

 姿と言っても、アレは幼女の身体に収まりきれなかった魔力が相応の姿を形作ったもので、消費してしまったいまは消えてしまっている。


「とはいえ得意の暗黒魔法はいまだ封じられている。師匠の魔法を借りながらの戦闘ではやはり実力は出し切れない……。そうでなくても相手は超級悪魔。魔神様と同格だ。やはり勝ち目はないだろう。しかし――――」

「アマテラスの陣ですか?」

「そうだ。やつの上を行く〝クラス〟の魔法をくらわせてやればきっと……」

「アマテラスの陣……工事は急がせていますが、本当にそれほどの威力があるのですか?」

「占いさんの話が確かならな。ただ……」

「ただ?」


 アルテマは怒りと悔しさを抑えて言葉を続けた。


難陀なんだを始末してしまえば。真子を呼び戻すことは難しくなるかもしれないな……」






 難陀なんだは龍穴の門番とされている。

 龍穴とは現世と異世界とをつなぐトンネルのようなもの。

 それを護る龍を消すということは――――、


「どうなるのですか?」


 偽島が訊いてくる。

 アルテマはクロードを見るが返事は返ってこない。


「…………わらかない。というのが答えだな。異世界でも転移の事例はいくつかある。龍穴やそれにまつわる悪魔の話しらしきものも伝承としてあるにはあるが、それを消滅させたなどとの話はない」

「裏切り者はなんと言っている?」

「……師匠に対して無礼な口をきくな。泣かすぞ」


 ギロリと睨むアルテマ。

 クロードはピクピク頬を痙攣させて黙り込む。

 そこにジルからの言葉が飛んできた。


『私もアルテマの意見に同意です。下手なことをしてはもう二度と連絡は取れなくなるかもしれません』


 アルテマの耳にだけに聞こえる声。

 それを三人にも伝える。


「……真子を呼び戻す手段はあるのですか?」

「私やクロードが通った道を使うほかないだろうな」

「次元の狭間と言われている峡谷ですか?」

「そうだ、しかしそれで確実に渡れる保証はないし――――」


 言って、またクロードを見るアルテマ。


「そうだな。俺みたいに時間軸がズレて、場所も適当に飛ばされる可能性もある」


 それどころか他の娘のように、どこに消えたかわからなくなってしまう危険すらある。

 それを想像して深刻に頭を抱える偽島。


「……とにかくいまは焦って事を進める場面ではない。もう少し、こちら側と異世界側、両面から情報を集めて対策を練るほかないだろうな」

「…………そう、ですね。口惜しいですが、そうするしかありませんね」

『ですが……そう悠長なことも言ってられなくなってきました……』


 まとまりかけた話。

 しかしそんなところにジルが申し訳無さそうに語りかけてきた。


「どうしたのですか?」

『包囲網の締め付けが強くなってきました。……このままではあと半年もせず帝国は他国の手に落ちてしまうかもしれません』

「な、なんですって!?」


 ガタンと立ち上がるアルテマ。

 突然の驚きに、なにが起こったか不思議そうに見上げる三人。

 アルテマは戦況を詳しく聞くと、それを三人にも伝えた。

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