第263話 神を信じた
「どうモジョ? ネットのようすは」
のんきにぬか床をまぜくりながら尋ねるぬか娘。
そんなことをしている場合ではないのだが、これをしておかないとカビが生えてしまう。やらないわけにはいかない。
「……相変わらずだな。ゾンビやらスケルトンやら、この間の騒ぎはほとんど〝ヤラセ〟で処理されているな。一部真実を騒ぎ立てるヤツもいるが、オカルトマニア扱いであまり相手にされていない」
「ふ~~ん意外よねぇ~~。もっと大騒ぎになるかと思ったけど」
「AIやCGの発達が逆に情報の信憑性を下げてしまっているからな。常識外のことはもう一般人には受け入れ難いのかもしれない。――――ただ」
「ただ?」
「一般じゃない人間にはバレてるだろうな」
あれから一週間。
街は落ち着きを取り戻しつつあった。
緑に光るゴーレム線は、魔法が落ち着くと、徐々に輝きを消した。
崩されたビルや家屋は、地震が起きたせいだと情報が回された。
人々の記憶は残ったが、いくら騒ごうとも真実を知らない者にとっては胡散臭いものでしかなく、相手にされなかった。
偽島組と自衛隊の迅速な動きで復旧作業が進められると、人々の気持ちも落ち着き、いまはみな元の生活に戻ろうと、そっちに気をやっている。
「村長とゲンさんが呼ばれたそうだぞ?」
「……誰に?」
「県知事と公安警察だってさ」
「怖っ!?」
目を豆みたいに小さくして震えるぬか娘。
「……まぁお国からしてみれば当然だよな。あんな騒ぎを起こしたんだテロ集団認定されてもおかしくない」
「ご、誤解ですぅ~~~~!?」
「それをどう説明するかだよな」
なんにせよ自分たちは迂闊に動かないほうが良いだろう。
そうでなくてもやらなければいけないことが山積みだ。
「アルテマは何している?」
「アニオタと一緒に偽島さんちに遊びに行ったよ」
「どんな組み合わせだよそれ……」
言ってるそばから……頭を抱える。
「私も連れてってって言ったんだけど『エロ目立つからダメでござる』って……。好きでこんな格好してるんじゃないんだけどな……しくしく」
アルテマ(幼女)を連れたアニオタのほうが別の意味でヤバいと思うけど……。
モジョは思ったが、きっと大事な話をしにいったのだろうと無事を祈った。
偽島の娘『真子』がいなくなって数週間。
偽島はすっかりやつれてふさぎ込んでしまっていた。
しかし穴の空いた心だけは魔法で埋めることはできなかった。
アルテマたちは偽島組の本社にやってきていた。
ちょっと前までの敵本陣。
誤解が解けたとはいえ、やはりなんだか緊張する。
社員たちの好奇の目にさらされながら応接室に通されると、そこには不機嫌そうなクロードと神妙な顔をした偽島が座っていた。
偽島はある可能性をアルテマに尋ねていた。
それは真子が異世界へ渡ってしまった可能性である。
それはアルテマも同じで、話をされるまでもなく確認しようとしていたこと。
そしてその調査結果が今日、ジルによって知らされた。
「前置きは後にしよう。先にこれを確認してくれ」
対面に座り、取り出した携帯を差し出すアルテマ。
それは
豪華な部屋の中央に座る一人の少女。
それを見た偽島の目から、涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「真子――――……ああ、真子……っ!!」
綺麗なドレスを着せられたその少女は、アルテマと同じくツノが生えてしまっているが、間違いなく偽島の娘、真子だった。
生きて……本当に生きていてくれた……。
「真子!! 私だ!! お父さんだ!! 真子、真子っ!!」
必死に呼びかける偽島。
しかし真子はおびえた顔で天井を見上げるばかり。
応えてくれようとはしなかった。
「真子!? どうしたんだ、おい真子!!」
「彼女にこっちの姿は見えていない。声は届いているが記憶を失っているので、期待した反応はしてくれないだろう」
痛ましそうに告げるアルテマ。
偽島は一瞬悲しそうに曇るが、すぐに背を正しアルテマに頭を下げた。
「……いや、無事でいてくれただけで満足だ。ありがとう。本当にありがとう」
これがあの偽島か?
そう思うほど素直に感謝の心をしめしてきた。
涙を拭う
「こっちこそ連絡が遅れてすまなかった。確認を取るのに時間がかかったんだ。なにせ息女は前線に匿われていたそうなのでな」
アルテマは、ジルから聞かされた事情を説明して聞かせた。
それを沈痛な面持ちで聞く偽島。
「そうか……皇帝カイギネスに……。これは……どれだけの感謝をしても足りないな。負傷したアベール殿は無事だろうか?」
「ああ、問題ない」
それを聞くと偽島は「はぁ~~~~……」と大きなため息をつき、深くソファーにもたれかかった。
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