第261話 黙っていたのは……。

 申し訳なさそうにうつむいて、誠司が話す。


「その当時から代々、私の家は村長を努めております。すべては家の罪を隠すため権力が欲しかったのです。そして失踪事件が起こるたび、その力を使って有耶無耶うやむやにしてきました」

「そ……村長だからってそんなことができるの……?」


 ぬか娘の疑問。

 それには六段が答える。


「今は難しいだろうな。……しかし昔はそのくらいのことよくあったもんだ。村を上げて決起すれば地元の警察ごとき、いくらでも言うことを聞かせられたもんだ」

「……なんだか犯罪の匂いがプンプンするな」


 とくに驚いていない様子のモジョ。

 飲兵衛は笑って酒をあおる。


「いまでも権力の周りは汚い金と犯罪だらけやで? 昔はそれが今よりちぃ~~~~~~っとばかし〝おおらか〟なだけやったんや」

「暴力も持っとったしの?」


 ジロリと偽島と村長を睨む占いさん。


「……お前ら、血縁なんじゃろ?」


 観念したようにうなずく誠司。

 偽島も黙り込み、否定はしない。


「ま、その話は後でいいだろう。……とにかくあの時のゲンさんと節子さんは見ていられんかった。取り乱して、何日も何日もろくに寝ずに依茉えまを探して……。ワシらも同じじゃ、ずっと何日も何ヶ月も何年も行方を探したものじゃよ……。それがまさか……龍に飲み込まれているとは知らずにな」


 言ってチラリと占いさんを見る六段。

 しかし占いさんは無表情で動きもしなかった。





「それから30年、時が流れた……」


 元一が語りだす。


「どれだけ時間が過ぎようとも……ワシの頭から依茉えまの顔が消えることはなかった。当然じゃ、毎日考えない日はなかったからの……。なぜ……ワシはあんなに怒ってしまったのかと……なぜ……もっと話を聞いてやらなかったのかと……。後悔は膨れ上がるばかりで……。もし……どこかで亡くなっていたら。その間際を想像するだけで身が引き裂かれそうになっていた」


 アルテマの頭を抱き寄せ、涙に震える。

 アルテマもじゅるじゅると鼻を赤くしていた。


「そんな時じゃよ。裏山から轟音が聞こえ、不思議な光が舞い降りたのは。ワシは慌てて山を登った。言いようのない予感を感じたからじゃ。這うように祠まで辿り着くと……そこに居たんじゃ。ずっと……ずっと探し求めていた依茉えまが……」


 その時の嬉しさを思い出して節子が泣き崩れた。

 六段も、うんうんとうなずき鼻水をすする。


「ツノを生やしたその少女は、それでも娘だと確信できた。しかし同時に夢まぼろしとも思った……。そうじゃろう? ありえん話じゃからの……。それでも夢ならば覚めてくれるなと願い、家に連れ帰ったんじゃ」

「……わかっていたなら、なぜ最初に親だと言ってくれなかった?」


 聞きたかった質問。

 他のみんなは事情を知っていたようで、アルテマだけが仲間はずれ。

 少し非難する目でみなを見回した。

 それについては、ぬか娘が謝った。


「ごめん……アルテマちゃん。私たちみんなゲンさんから口止めされていたんだよ。依茉えまの話はするなって……」

「どうして……」


 言っていいものか、ちょっと元一を見るぬか娘

 恥ずかしそうにしているが拒否はしないので説明してあげる。


「あのね、ゲンさんはね。怖かったんだって」

「怖い?」

「聞いて……消えちゃったらって」

「消える?」


 元一を見上げる。

 真っ赤になって横を向いている。


「まぁ、あれやな。鶴の恩返しみたいなもんやな。正体を知ったらそこで夢は終わり……ってなもんや」


 にやにや、茶化すように酒を飲む飲兵衛。

 占いさんはアルテマを撫でながら、


「……男っていうのはの、いくつになっても子供で、意気地なしで、めるへんなところを持っているもんじゃ、許してやれい」

「――――ぷ」


 それを聞いて思わず吹き出してしまうアルテマ。

 元一は心外だとアルテマを睨む。


「そ、そ、そ、それが親の気持ちというもんじゃ!! お前……ワシがどんな気持ちで何十年も――――……お?」


 言い訳をする元一。その胸にアルテマは額を押し付けた。


 まったくバカバカしい……。

 そんなことでみんなを巻き込んで、嘘をつかせて、芝居をうたせて……。

 言ってさえくれれば……記憶が戻ったかもしれないのに。

 そうしたら、これまでの色んなトラブルも起きてなかったかもしれないのに。

 それでも、その不器用さが全部自分への愛だったとわかって、アルテマはすごく暖かな気持ちに包まれた。


 怒られて当然のことをしてしまって……悪いのは自分のほうなのに……。

 つまらない短気で、素直に謝れなかった自分が全部悪いのに……。

 ずっと長い間、心配をかけ続けてきたこの償いを。

 これから力いっぱいさせてもらおう。

 


 電脳開門揖盗サイバー・デモン・ザ・ホールの向こう側では、ジルがただひたすらに泣いていた。

 心からの祝福と、少しの寂しさで。

 

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