第245話 悪用厳禁

『グガァアアァアアァァアアァアアァアアァァアアァアアァアアァァアアァアアァアアァァアァアアァアアァァアアァアアァアアァァアアァアアァアアァッ!!!!』


 ――――ギャシャグシャ―――ガジャジャジャァアァァン――――……。


 断末魔の叫びを上げ、古代竜が崩れ去る。


聖なる逆槍シャイン・ランサー』に貫かれた悪魔は一瞬のうちに蒸発し、骨はただの化石に戻った。


 しゅぅううぅぅぅううぅぅぅうぅううううぅうぅぅ……。


 アルテマの身体から、黒煙が上がっている。


『……少しやりすぎたかも知れません。無事ですか、アルテマ?』

「平気です。……このくらい元一が受けた苦痛にくらべれば、どうということはありません」


 言葉とは裏腹に手は痙攣していたが、目は復讐の炎に燃えて、竜の躯を見下ろしていた。

 ジルはすぐさま聖なる加護を解除し、苦痛を止めてやる。


「ア、アルテマちゃ~~~~ん!!」


 呼ぶ声。

 振り返ると、少女を抱きかかえたぬか娘が車から手を振っていた。


「……うまく受け止めてくれたようだな。手間をかけた」

「まったくだ。一歩間違えば大怪我じゃ済まなかったぞ?」


 冷や汗を流しながら文句をたれるモジョ。

 なんとか車のシートとぬか娘の豊満なクッション(?)で衝撃を和らげたが、それがなければどうなっていたことか。


「ま、そうでもしなけりゃ竜にやられてたし、結果オーライでいいんじゃないかな? ……痛ててててて……」


 胸とケツを擦りながらぬか娘が苦笑いした。

 少女はショックで気を失っている。


「……どうしよう、この子……怪我はしていないようだけど、このまま置いていくわけにもいかないよ……?」


 回りを見渡すが、逃げた人たちはすでに姿を消し、周囲には誰もいない。

 このままこの少女を放置していたら、まだ出現してくるだろうアンデッドに襲われてしまう。かといって連れて行くわけにもいかず、どうしたらいいか戸惑う。


「ああ、そうだな。じゃあ少し待っていろ」


 言うとアルテマは、少し離れたところで煙を上げている一台の車に歩いていく。

 そして運転席のドアを開けると、そこには聖気にあてられ、全身を痺れさせている三人の男たちが座っていた。


聖なる逆槍シャイン・ランサー』は対悪魔用に特化した除霊攻撃魔法だが、生きた人間に当てれば聖の心が増幅し、悪しき気持ちは浄化されてしまう。


 その直撃をくらった男たちは――――、


「う……うぉぉっっぉぉぉぉぉぉおぉん!! ご……ごめんなさ~~~~~~~~~~~~~~~~いっ!!」

「お……俺は、俺たちは、なんて卑怯で薄情で自分勝手な最低野郎なんだ!! あんな幼気いたいけな少女を見捨てて……自分たちだけで逃げようとしてただなんて!!」

「ああ神よ!! お願いします!! 俺たちに、いや私たちにどうか罰をお与えください。罪を滅ぼす機会をお与えください!!」


 車から飛び出てきた三人は、いったい何の神に祈っているのか? とにかく自分たちの行いを懺悔しまくった。

 そんな男たちを引き連れてアルテマは戻ってきた。


「いいか、今度は見捨てるなよ? なにがあっても守りきれ」


 そう睨んで少女を引き渡す。

 男たちは悔恨の涙をながしながら、その子を受け取った。


「はい!! わかりました!! 必ず!! 命に代えても!! ありがとうございます司祭様!!」


 地面に額を擦り付けて謝罪した。

 アルテマはものすごく嫌そうな顔をして、


「……誰が司祭だ。いいからもう行け、気持ち悪いわ」

「は、はぃぃいいぃーーーーーーーーーーっ!!!!」


 鳥肌を浮かべながらシッシッシ。

 少女を抱え、ペコペコ頭を下げながら住宅街へと去っていく男たち。


 車を発進させながらモジョが尋ねた。


「その魔法……そんな副作用があるのか? ……かなりヤバいな」

「ああ、だから神聖魔法は嫌いなんだ」

「え、なんで?? 良い人になるんでしょ? だったらいいじゃない。みんなにかければ世界は平和になるんじゃないの?」


 なにがダメなの?

 ポカンと首を傾げるぬか娘。

 モジョはそんな相棒をミラー越しにジト目で睨むと、


「……変なオッサンにオッパイ揉ませてくれって言われたら、お前どうするんだ?」

「もちろん断りますケド?」

「それができなくなるっつってんだよ」


 目が点になるぬか娘。


「え、そ、そうなのアルテマちゃん??」

「聖なる気持ちの基本は博愛だ。悪の気持ちが無ければ、全てを無条件で受け入れる蝋人形ができあがる。……世界は平和になるかもしれないが、はたしてそれが幸せだと言えるだろうか?」


 その言葉から、聖王国、神の価値観の一端を見たぬか娘はガタガタガタガタ震えて身を縮めた。


「あ……あいつら男でよかったねぇ~~~~」

「そうだな〝まだマシ〟だったかもな」


 かくしてこの街に、誰の言う事でも無償で請け負う最強便利ボランティア三人組が誕生したのであった。

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