第244話 狂人グール
『グルオォォォォォォ……!!』
扉を破壊し現れたのは、一体のアンデッド。
死して間もない新鮮な体を持つそれは、スケルトンやゾンビよりもはるかに強い存在とされている。
「「「ひえぇぇえぇぇぇぇぇぇっ!!」」」
まだ若い男の死体。
頭に大きな傷がある。
きっと最近、交通事故あたりで亡くなった人。
その生々しいおぞましさに、ヨウツベとアニオタは抱き合って廊下の端に座り込んだ。
六段は「下がっていろ」と、そんな二人の前に歩み出る。
手にはしっかりと『ホーリークロウ』が装備されていた。
クロードが忠告をしてくる。
「そいつはグール。まだ使える身体に取り憑いた悪魔だ。魔物進化にくわえ、意識と神経がないぶん、限界を超えた動きをしてくるぞ。精々注意しろ」
「奴隷の分際で偉そうな口をきくな、お前は黙ってそのオラクルとやらの面倒をみていろ。こんな化け物などワシが一人で――――」
『――――グルォ』
――――倒してくれるわ。
と、言い終わるより先に、
「――――っ!??」
グールの拳が六段の顔面に襲いかかってきた!!
――――いつの間に!??
とっさにホーリークロウを盾にしてガードする。
距離はまだ、十分に開いていたはず。
一瞬だけ目をそらしたその隙に、詰めてきたのか!?
だとしたらコイツは相当なスピードを、
――――メキャッ!!!!
「っ!!??!!??」
腕から嫌な音が聞こえてきた。
受け止めた片方のホーリークロウがひび割れた音だった。
そして、
――――ド、ガバキャァアァァアアァァァアアァンッ!!!!
そのまま振り抜かれた拳は、六段を、その体ごと吹き飛ばした!!
「ぐほあぁあぁっ!???」
速さだけじゃない。
とてつもないパワーも持っていた。
飛ばされた六段は、背中を強く打ち付け、廊下を転がり倒れ伏す。
その隙にグールは室内にいる元一へと、その青白い首を折り曲げた。
「チッ、バカが!! デカい口を叩いておいてそのザマか」
舌打ちするクロード。
とはいえ中クラスのアンデッド相手に素人の年寄が立ち向かうなど、たとえ神聖魔法具を装備していたとしても、やはり無茶な話。
『グルオォォォォォッ!!!』
「「「ぎゃあぁぁあぁっ!?? 来るなっ!! 来るなっ!!!!」」」
ヌシ、ヌシ……と、室内に入ってくるグール。
ヨウツベとアニオタは恐怖に縮こまり、飲兵衛は死者の冒涜に厳しい顔を向けている。
占いさんは結界を張り節子を守ろうとするが、節子は元一を守るべくベッドの前に立ちふさがった。
グールの注意は元一とクロードに向いていた。
オラクルの放つ魔力に惹かれたのだろう。
その気配を察した節子が、これ以上夫を傷つけまいと身を盾にする。
『グルオッォォォッ!!!!』
そんな節子に向けて、グールの拳が無慈悲に襲いかかった。
まるで野生の狼のような速さと鋭さで、頭を横殴りに潰そうとする。
――――やむをえんか!?
時間は大幅に削られるが仕方ない。俺が動くしかない!!
オラクルへの魔力供給を絶ち、迎撃の魔法を放とうとするクロード。
余計な魔力を消費すれば、それだけオラクルの寿命は短くなる。
だが、この場でコイツを仕留められるのは自分しかいない。
――――ゴッ!!!!
グールの鉄拳が襲いかかる。
「御身の奇跡を我が身に、愚者の魂を御身に――――」
鎮魂の光――――フレアレクイエム。
聖騎士専用、対アンデッド光線魔法を手に輝かせるクロード。
「――――消えろ、身の程知らずが」
グンッ!!
節子の襟を引き、カウンターの一撃を、
「っ!?」
――――フ……。
放とうとしたが、しかしすぐにその光を内に引っ込めた。
ブォンッ!!!!
そして紙一重でグールの一撃をやりすごす。
なぜ反撃を止めたのか!?
占いさんは一瞬、戸惑ったが、すぐにその理由に気づき目を閉じた。
「だからお前はゲンさんに集中しろといっとるんだっ!!!!」
――――バキィイィッィッィィイイイィィィィッィイィッ!!!!
聖なる光りの破片とともに、グールの首が真横に折れた!!
背後から繰り出された、奇襲の回し蹴りが炸裂したからだ。
「六段さん!!」
「おお、だ、抱かれてもいいでござる!!」
泣いて喝采を上げる役立たずの二人。
六段の顔面は血だらけ。
かなりのダメージを負っていたが、それよりも武道家としての怒りと責任感が勝ったのだろう。
受けた傷などお構いなしに、すぐさま切り返し、襲い返した。
己の油断で、友とその妻の身を危険にさらした。
その無様に六段は痛みなど感じていない。
「貴様の相手はこのワシじゃぁああぁぁぁぁっ!!!!」
怒りのままにグールの頭を掴み上げると、毛を引きちぎらんばかりに持ち上げ、
――――ブンッ――――ドガアンッ!!!!
部屋を追い出すように、通路の壁へとぶん投げた!!
「おおぉぉぉおおおぉぉっ!!!!」
そこに追撃の一撃をお見舞いしようと跳びかかる――が、
『グルガァッ!!!!』
起き上がったグールが素早く動き、それをかわす。
そして物凄い力で壁に拳を打ち付けると、
――――ドゴォオオォォオォンッ!!!!
まるで大砲でも撃ち込まれたようにコンクリートに穴が開いた。
「ななな、なんちゅう力でござるか!??」
「まるで掘削機みたいだ……ろ、六段さん……」
文字通りの化け物を見る目で二人が震える。
対峙する六段の左拳は、割れたホーリークロウとともに粉砕されていた。
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