第243話 かかってこいやぁ!!
「どないなっとるんや……これは?」
面布をかけられ、冷たく横たわっている元一。
それを見て飲兵衛はすぐさま違和感を感じ取った。
心臓も脈も、たしかに止まっているのだが死んでいる感じがしない。
医者として、幾人もの魂を見送ってきたからわかる。
占いさんも同じ違和感を霊能力の方向から感じ取ったらしく、そしてその原因が胸に刺さった銀の羽であることも同時に見抜いた。
「……ほぉ? 騎証オラクル言うんかこれは……。こないなもんで人の魂を留めておけるんか……。こりゃ……また大変な……」
技術もあったものや。
医学者らしく感心したかったが、悲しみに暮れる節子の前、不謹慎な態度は控えようと言葉を切った。
占いさんも同じく興味はあったようだが、静かに目をつむっている。
アルテマ発見の知らせはみんなに届いていた。
そしていまどういう状況にあるのかも。
秘密の部屋を見られたことは節子にとってはショックだったが、モジョから聞かされたアルテマの反応を知るかぎり、思っていた事態には陥っていないようだ。
元一に続き、アルテマまで……。
そう絶望しかけた節子だったが、ひとまず仏に感謝をし、糸一本分残された希望に祈っている。
「……街はひどい状況ですね」
中心街に一台だけ設置されているライブカメラの映像を、スマホを通じて確認したヨウツベは難しい顔をした。
まだメディアは騒いでいないが、この事件がいずれ日本中の騒ぎになるのは確定的。ヘタをすれば世界まで騒がせることにもなりかねない。
こうなった理由も聞いている。
元一を助けるために仕方がなかったことだとも。
しかしそれでも「この後始末どうするんだ……」と、考えずにはいられない。
「……アルテマはいま、どの辺りにいるんだ?」
クロードが聞いてくる。
スマホの位置情報を確認するアニオタ。
「も、も、もう街には入っているでござる。……しかしさっきからあまり進んでいないようでござるが……?」
「魔物に手こずっているのか……くそ、なにをやっている!!」
ひどく焦ったようすのクロード。
六段が元一を見て眉をしかめた。
「おい……なんだか光が弱まってきてないか? ……まさか……?」
「ああ、そろそろオラクルの効果がなくなる。……そうなるともう、この爺さんを生き返らせる手立てはなくなってしまうぞ」
その言葉に全員の表情が強張った。
「アホな、さっき刺したばっかりなんちゃうんか? こりゃそんな脆いモンなんか??」
「神の摂理を曲げているんだ、数時間だけでも感謝してもらおう」
「じゃあ残りはあとどのくらいなんや!?」
「……光り具合からみればもう……10分もないな」
その見立てにアニオタが悲鳴を上げた。
「そ……そ、そ、そ、それはまずいでござる!! アルテマ殿たちのいる場所からここまで一直線で来ても10分は無理でござるぞ!??」
聞いて青くなる節子。
六段も歯を唇を噛み、状況に絶望する。
クロードはオラクルに手をかざすと六段を睨みつけた。
「俺が魔力を注ぎ続ければ、いましばらくの時は稼げる」
「そ、そ、そうなんでござるか!? な、な、な、なぁんだ、だったらまだ大丈夫なんでござるか??」
ふ~~~~~~~~い。
冷や汗を拭うアニオタだが、
「……いや、事態はそう気楽なものでもないぞ」
近くの気配に、長い耳を揺らしながらクロードは否定する。
どういう意味だ?
そこにいる全員が不思議に思った。
そのとき急に、
――――ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ
リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ――――。
けたたましく消火栓のベルが鳴った!!
「「「っ!!!???」」」
クロードと占いさん以外の全員が、飛び上がるくらいに驚いた。
そしてすぐに鳴り止み、代わりに院内放送が流れてくる。
『え~~た、た、た、ただいま火災ベルが鳴らされましたが、ちょ、ちょ、調査の結果、誤報だと判断されました。く、く、く、繰り返します。た、た、た、ただいまの火災ベルは誤報で――――』
間違いを知らせるアナウンスだったが、何かがおかしかった。
言葉とは裏腹に発信者が妙に慌てたようす。
マイクに入ったわずかな雑音の中に、人の悲鳴も聞こえた気がする。
――――本当に誤報だったのか?
みながそう思ったとき。
ドガアァアアァアァァァァアアァァァァアアァァァァンッ!!!!
通路の奥から大きな破壊音が聞こえてきた。
見ると奥にあるもう一つの霊安室。そこの扉が蹴破られた音だった。
「「「「なっ!? ななな、なんっ!??」」」」
何事か?
理解が追いつかない一同。
そこにクロードが言ってきた。
「ゴーレムの終着点はこの病院なのだろう? ならば当然、ここも
そしてあらためて六段を睨んで、
「……俺はオラクルの持続に全集中する。魔物の対処には加勢できんが、それで問題ないだろうな。
挑発的に確認された六段は、そこでようやく事態を飲み込んだ。
クロードが参加できないならば、前衛で戦えるのは自分だけなのだ。
アルテマたちが到着するまで、この部屋は自分が守ってやらねばならない。
『ぐるぉおぉぉぉぉおおぉぉぉぉ……』
不気味な唸り声とともに、一体の魔物が現れた。
それはまだ腐り切っていない、新鮮な人間の死体に取り憑いた悪魔。
スケルトンよりも二段階ほど上位に位置するアンデッド――――グールだった。
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