第242話 圧倒

 ――――どきゃきゃきゃきゃきゃっ!!!!


 ブレーキとアクセルを同時に踏み込む。サイドブレーキも固く引く。

 タイヤは煙を上げて空転し、車体に充分な推進力をため込んだ!!


「一気に突っ込む。ぬか娘は子供を回収してくれ。アルテマは援護――というか自由によろしく」

「「わかった」」


 殺気を込めた目で低くうなずくアルテマとぬか娘。

 体には暗黒騎士らしく、どす黒いオーラが湧き上がっていた。


『ゴアがぁああァァァァァ……』

「――――いくぞ」


 古代竜の喉にブレスが充填し終わった。

 同時にサイドブレーキを解除した。

 ――――ドギャッ!!!!

 枷を外され、暴れ牛のようにワゴン車は急発進する。


「お母さん、お母さーーーーんっ!!」


 泣き叫ぶ少女に向け、一直線。

 同じくして――――ゴガッ!!!!

 燃え盛るブレスが襲い来る!!

 コンクリートをも溶かす灼熱が、容赦なく少女に襲いかかる。

 車は――――間に合いそうにない。


「くっ!!」


 それでもモジョはアクセルを踏み続ける。


「いいよ、そのまま真っすぐっ!!」


 ぬか娘も自らが焼かれることを恐れずに、車体から身を乗り出し回収に備えた。

 二人は信じていた。

 根拠なく。

 ――――アルテマのことを。

 そんな信頼に応えるよう、アルテマは助手席に足をかけ、


「師匠、お願いします!!」


 ジルへ、ある魔法の詠唱をお願いする。

 先に声を受け取っていたジルはすでに詠唱に入っていた。


『聖なるかぜよ――――』


 できれば通したくない魔法の気配が身体に流れ込んでくる。

 ジルの使う魔法ならば、たとえ神聖魔法だろうと特別視していたが。

 これは……この魔法だけは触りたくなかった。

 だがこの瀬戸際で、あの少女を助けるに最適な選択はこれしかなかったのだ。

 屈辱を怒りへの油に代えてアルテマは耐える。 

 耐えて恥辱を受け入れる。


 ――――ゴガァアアァァァアアァァァァアァァアアァァァアアァァァァアァァアアァァァアアァァァァアァァアアァァァアアァァァァアァッッッッッ!!!!


「きゃぁああぁああぁぁぁぁああぁぁーーーーーーーーーっ!!!!」


 炎が少女を包み込んだ。

 同じくして嫌な呪文が完成した!!


『愚者に天罰を――――〝ザキエル〟!!』


 ――――――――ドゴンッ!!!!


 クロードが得意とする風魔法『ザキエル』

 風の精霊に干渉し、竜巻を呼び出す暴風魔法。

 本来あるはずのタイムラグを一切作らず、ブレスを裂くように虚空から出現した。


 ――――ゾワゾワゾワゾワ。


 アルテマの背筋に悪寒が走る。 

 まさかあのバカの魔法を自分が使う(代理)ことになろうとは。

 神官長ジル・ザウザーによる、もう一段階卓越された技術で生成された竜巻は、その風圧を鋭利な刃に変え、灼熱のブレスを引きちぎるように宙に散らした。


「上だ、ぬか娘。受け止めてあげてくれ!!」


 竜巻に飲み込ませた少女は、そのまま天高く舞い上げられていた。

 炎が身を焼く直前、一瞬早く風が彼女を逃していた。


「わかったナイスだよアルテマちゃ――――わぁおっ!!??」


 足をかけた体勢のアルテマはTシャツが大きくめくれ上がり、可愛いおパンツとオヘソが丸出しになっていた。

 それに、場違いにも反応してしまったぬか娘にかわって、


「了解だ!!」


 ――――ギャギャッ!!!!

 モジョが落下点に向かってハンドルを切った。


『グオガァアアァァアアァァッ!!??』


 足元に近づく目障りな虫に、古代竜が反応し踏み潰そうとしてくるが、


『聖なる加護よ、その御魂を我に――――ロンギヌス!!』


 聖なる加護を身にまとったアルテマが、車から飛び上がった!!

 全身に鳥肌を浮かべながら、古代竜へと一直線に飛翔する。


『グゴガァッ!??』

「くらえぇええぇえええぇぇええぇ!!!!」


 ――――この難陀なんだモドキがっ!!!!


 竜にしてみればまったくの言いがかりだが、個人的怨念を凝縮されたアルテマの聖なる拳は、邪悪な魔のオーラをまるで意に介さず、


 ――――――――ドッ!!――――ゴギャカッ!!!!


 竜の体もろともぶち破り、突き抜けたっ!!


『グギャアガアラアァアアァァアアァアアガアガアラアァアアァァアアァアアラアアガアラアァアアァァアアァアァアアァァアアァアッ!!????』


 肋骨と背骨を中心に大穴を開けられた古代竜は、体を二つに割り、崩れ落ちる。

 それでも最後のあがきにと、口に魔力を集めるが、


『……無駄です。この帝国暗黒神官長ジル・ザウザー。一線を引いた身ではありますが、あなたごとき魔物に手こずるほど耄碌もうろくもしておりません』


 ――――キュイィィィイイィィンッ!!

 アルテマの体に、また別の神聖魔法が流れ込んでくる。


『聖なる使徒、守護天使カマエル。その力を光に、使命を槍に宿し――――』


 この感覚はスケルトン相手に使った『聖なる逆槍シャイン・ランサー

 呪文の詠唱とともに、光の魔法陣が古代竜の足元に拡がっていく。


「な、なんだあいつら!? 魔法使いか!??」

「い、いいから逃げろっ!! 早くっ!!」


 ――――バタバタンッ!!!!

 少女を見捨てた男たち。

 乗り捨てられた車に乗り込み、挿しっぱなしのキーを回す。


「師匠」

『……そうですね。ついでですからあの餓鬼モドキも退治しておきましょうか』


 追加の魔力がアルテマの体から抜けていく。

 キツイが、それでもクズを退治するためならば心地いい。

 ぐん――――と拡がった光の魔法陣は、あっという間に連中の車をも範囲内に飲み込んだ。

 そして――――、


『――――聖なる逆槍シャイン・ランサー!!』


 高らかに叫ばれた結びの力言葉。

 瞬間。


 ――――ザザザザザザザザザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッキンッ!!!!


 悪魔を貫く無数の光槍が地面から現れ、


 ドカカカカカカカカカカカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


 天誅、天罰、懲戒の裁きが、餓鬼もろとも古代竜を串刺しにした!!

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