第241話 食うもの食われるもの
『ゴガァアァァァアァァァアァァァァッ！！！！』
空をも震わす野太い雄叫び。
我こそは地上生物最強、最大の覇者なり。
圧倒的な威圧感とともに土から生まれた古代の竜。
人々は事態を把握するよりも、被食者の本能で散り散りになって逃げ出した。
「な、ななな……なんで……こんなところから恐竜が……」
アルテマにしがみつき震え上がるぬか娘。
古代竜は他のアンデットと同じスケルトンだったが、骨の周囲に不気味に光る紫のオーラをまとって、それが肉の代わりとなり、かつての凶悪を湧き上がらせるシルエットを作り出していた。
「……ティラノサウルス……？ いや、見たことない種類だな……。これも寄せ集めか……？」
「ああそうだな……しかもこの気配……取り憑いたのは中級悪魔だ。いままでの下級スケルトンとはわけが違うぞ」
厄介な魔物が現れたなと一筋の汗を流すアルテマ。
こちらの世界のドラゴンが、どれほどのものだったのかは知らないが、気配を感じ取るかぎり異世界のものとさして変わらない気がする。
それも中級悪魔が入り込んだ
強さで比べれば、さきのタクヒなど足元にも及ばないだろう。
「れ、れ、れ、冷静に観察している場合じゃないでしょモジョ！！ 私たちも逃げなきゃ！！ 車だして！！」
半泣きで叫ぶぬか娘だが、吹き飛ばされた何人かの人は、いまだ倒れたままで動けないでいる。
他にも一人、小さな女の子が取り残されて座り込んでいた。
――――ズシン――ズシンッ！！
古代竜は地上に上がりきると、天に向かって大きく口を開けた。
そしてゴゴゴゴゴゴゴゴゴと魔力を膨らませると、
カッ――――ドッゴオォッッォォォォッッォォォォォォオオォォォォォッッォォォォッッォォォォォォオオォォォォォッッォォォォッッォォォォォォオオォォォォッッォォォォッッォォォォォオオォォォォォッッォォォォッッォンッ！！！！
口から真っ赤な炎のブレスを吐き出した！！
その迫力はＳＦ映画の破壊光線のごとく！！！！
「きゃあぁあぁぁあぁぁぁっ！！！！」
「う……うわああぁああぁぁっ！？？？」
取り残された女の子と男たちがその衝撃に悲鳴を上げた。
古代竜は炎を吐き出したまま首を斜め下に振り下げる。
ブレスが打ち下ろされたムチのようにしなって街に襲いかかった。
ドガガガガアアアァアンッ！！ ――――メラメラメラメラッ！！！！
吹き飛ばされ、破壊される鉄筋建造物。
そこに炎の熱が追い撃ちし、街の一角はたちまち火の海へと変わった。
古代竜は逃げ遅れている人間に気を向ける。
『ゴオォォォォォォォォォォ……』
「――――ひっ！？」
目障りだと感じたのか、それとも覇者交代の挨拶か。
それらに向かってもう一撃ブレスを吐こうと息を吸い込んだ。
「う、うわぁぁあ！！ や、やばい、逃げろおっ！？？？」
「な、なんなんだこの化け物は！？？？」
「ど、どけガキ邪魔なんだよっ！！」
「きゃあぁあっ！？？」
腰を引きずりつつも、転がりながら逃げる男たち。
動けずにいる女の子を見捨て、突き飛ばし、自分たちだけ化け物から遠ざかる。
――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ！！！！
充填される古代竜の魔力。
「ひ……、や、やだ、待って！！ 助けて、助けてーーーーっ！！」
恐怖に体が固まって、這いずることもできない女の子は泣き叫ぶが、そんな彼女を振り返るものはいない。
それを見たモジョはハンドルを切り、
「……あの子〝だけ〟助ける。異論は？」
「ない」
さっきまでとは打ってかわり、座った目で即答するぬか娘。
アルテマは。
ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご。
古代竜を
その目は完全に捕食者のヤバい目に変わっていた。
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