第238話 霊鳥タクヒ②
女の顔を持つ不気味な巨鳥。
魔物はアルテマたち目掛け、一直線に急降下してくる。
「で!! な、なんで私たちを襲ってくるの!?」
『ケェエェェェェェェェェェエエェェーーーーンッ!!!!』
巨鳥は大きく雄叫びを上げると周囲に空気の渦を創り出す。
それらは4っつ5つと数を増し、
――――バッバババッ!!!!
大翼の羽ばたきに弾かれるように射出された!!
「魔物は本能的に魔素に惹かれる。このあたりで一番美味そうなのは私だと嗅ぎつけているのだろう」
――――ズバッ――――ギャキャンッ!!!!
空気の渦は真空の刃となり、途中に羽ばたく他の鳥たち、さらには鉄塔をも切り裂いて向かってきた!!
ぬか娘は、
「じゃ、じゃあ私、一段落つくまで離れてるから!! ごめんね、頑張ってね!!」
バタバタと犬走りで
そんな薄情者のパンツを掴み、半ケツを出させながら、
「いいからここにいろ。でなきゃかえって怪我をするぞ!?」
「で、で、で、でもアルテマちゃん!! なんか漫画みたいな円盤飛んできてるんですケド!! アレ当たると真っ二つになるやつでしょ!? 地球人最強の修行僧が使う必殺技みたいなヤツでしょ!? フリ◯ザにだって通用するやつでしょぉぉおぉぉ!!??」
とある気功波に酷似しているそれを見て、原作の大ファンであるぬか娘は威力を想像して大パニック。しかしアルテマは落ち着いて、
「ふん、あれはただのスキル攻撃だ。魔力を応用した魔物個別の能力。とはいえ所詮は鳥頭。我ら魔族が練り上げる魔術とは練度が違う。ですよね師匠?」
アルテマの言葉に、こちらも落ち着いた様子でジルが応える。
『アルテマの魔力を通じて感じ取りました。あれは〝
魔の森を根城に、異世界に巣食う霊長タクヒ。
興奮時に放つ対空地兼用スキル
並の兵士や冒険者などは近寄ることもできず、ただ刺激を与えないように巣を避けて行動するしかない。
「……その程度の相手だ」
「充分!! 充分だからそれ!? そんな物騒な魔物がなんで日本にいるのよ!?? ぎゃぁああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!??」
――――ゴゴッ!!!!
言ってるうちに、すでに目の前まで迫ってきている
山や林の木々をなぎ倒し、地面を低空飛行。
電柱や家屋をもバラバラに、コンクリートやアスファルトすらも巻き上げて水平に襲いかかってきた!!
それに合わせるようにタクヒも上から同時攻撃で突進してくる。
大きく鋭い鉤爪がギラリと光る。
――――もうだめ!! 避けられない!?
ぬか娘がちょっとだけチビったとき、
『――――聖なる使徒、守護天使カマエルよ――――……』
ジルが静かに呪文を唱え始めた。
それに呼応して、アルテマの体が白く輝く。
と、周囲の地面から無数の光槍が突き出るように現れ、
――――ザザザザザザザザザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッキンッ!!!!
整列する熟練の兵士のように、その穂先を天に向けた。
『――――〝
唱えられる結びの力言葉。
それに応えて、槍たちは一斉に――――、
ドカカカカカカカカカカカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
射出された!!
「――――んなっ!?」
槍たちが放つ光で、周囲の視界が一瞬消えてしまう。
アルテマの体から弾き飛ばされ、尻もちをついてしまうぬか娘。
――――バシュシュシュシュッ――――バギュキャァアァァアァンッ!!!!
聖なる
そしてさらに勢いを増し、タクヒへと襲いかかる!!
『――――っ!??』
タクヒはその槍を本能でヤバいものだと感知し、アルテマを襲うのを中断。
屋根をかすめるように急旋回するが、
――――ドドシュシュシュシュシュッ!!!!
聖槍の速度からは逃げられず、
「ぐけあぁぎゃぁああぁぁああぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!!!!」
文字通り――――串刺しに。
肉体を散り散りの肉片に変え、空に飛び散った。
響く断末魔。
アルテマはすぐに
「な……が、ああああうあうあうあ……」
一瞬で終わってしまった戦闘。
並の戦士ではとても敵わないほどの魔物相手。
ジルが放ったのだろう魔法の威力に、ぬか娘はしばらく震えが止まらない。
「――――ふぅ……さすが師匠、戦闘は苦手などと、よくも言ったものです」
手を見つめるアルテマの体からは黒い煙が上がっていた。
「え? ……だ、だ、だだだ大丈夫アルテマちゃん!?」
「ああ、これか? ……問題ない。師匠の使う神聖魔法と、私の魔族の体が反発しあっただけだ」
「だけって……へ、へ、へ、平気なの!?」
「痛みと消耗さえ我慢すれば問題ない。……それよりも」
アルテマは周囲に神経を研ぎ澄ませた。
四方八方から得体の知れないものが、ゴソゴソと這い寄ってくる気配がする。
「……囲まれているようです」
『そうですね。かなりの魔物がアナタを狙っていますよ?』
「ど、ど、ど、どういうことアルテマちゃん? か、囲まれてる??」
これ以上さらに何かあるのかと涙目で怯えるぬか娘。
その背後から、カタカタカタカタと不気味な音が聞こえてきた。
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